今の4歳世代は弱い。こういった声が聞こえてきたのはいつからだったか。
筆者の記憶では
日本ダービーあたりからだったように思う。近年の同レースと比べ、タイム的に評価がしにくい内容だったのが原因だが、その後クラシックの冠を分け合った
ソールオリエンスと
タスティエーラが
有馬記念で揃って敗れたことで、その説はより信憑性を増した。
筆者はあくまで個々の馬を評価するスタイルなので、正直なところ「ほーぅ?」といった程度の関心に留めていたのだが、年が明けても確かに4歳世代は勝てなかった。
大阪杯において
ベラジオオペラが勝ち、多少の面目は保たれたものの、それ以外のクラシック好走馬は軒並み苦戦を強いられた。
ダービー3着馬
ハーツコンチェルトは未だにOP入りを果たせず、3勝クラスで足踏み。
熱中症というアクシデントがあったとは言え、
天皇賞(春)において
菊花賞馬
ドゥレッツァまでもがなす術なく敗れて行った時には、さすがに「えぇ……?」と困惑したものだ。
そんな中でエプソムCに臨んだ
レーベンスティールも、立場的には同じだった。
年末の
香港ヴァーズ、今年初戦の
新潟大賞典を共に落とし、崖っぷちの状態。明らかにメンバー上位のスケール感を纏いながら、単勝オッズが3.6倍という数字に留まったのは、自身や同期を取り巻く不穏な空気が影響していたからだろう。
しかし蓋を開けてみれば、
レーベンスティールの走りは文字通り格が違った。
セルバーグが逃げ、
シルトホルンがそれを追いかけるという概ね予想通りの隊列がもたらしたものは、道中のラップがほとんど落ちない淀みのない流れ。
その中を悠々と好位追走し、直線も手応えは抜群。一気に突き抜けて先頭に立ってからも、バテるどころかむしろ突き放す構え。最後の最後までラップは落ちず、余裕すら感じる圧勝劇だった。
この勝利で、改めて悲願のG1獲りへの足掛かりを作った
レーベンスティール。
ここ2走の敗戦は、一つ間違えれば馬の気持ちが切れてもおかしくない内容だっただけに、ただ立て直しただけでなく、強烈なパワーアップまでも実現させた陣営の手腕は見事。戦前の期待感は”復活成るかどうか”というレベルに過ぎなかったが、”復活”どころか秋の大舞台での活躍まで意識してしまうほどのインパクトがあった。
だが、依然としてレース前のテンションは高く、能力以外の部分で爆弾を抱えているのは確か。レースに行っての前進気勢もかなり強く、ハイレベルの鞍上確保が必須となるタイプでもある。
王道路線における世代間格差を一気に覆すだけの可能性を示したのは収穫だったが、当面の難敵は
レーベンスティール自身なのかもしれない。
勝ち馬から大きく離されはしたものの、2着の
ニシノスーベニアも立派な内容。近走の充実度を自身の走りで証明した。
以前は力みの強い走りだったが、折り合いが付くようになったことで父ハービンジャーの血が持つ距離の融通性が活きた。中山マイル巧者という印象が強かった中で、東京1800mという新たな舞台で結果を出したのは大きく、今後の選択肢もかなり幅広くなるだろう。
3着には好スタートから前々の競馬で
シルトホルンが粘り込み。良馬場の1800mというのは現状におけるベスト条件で、自身の力はしっかりと出している。
安定した先行力の持ち主だが、マイルだと僅かに忙しく、2000mだと少し長い。加えて重い馬場もあまり合わずと、適性の幅がかなり狭いのが難点。1800m以外の重賞で好走するにはもう一段上の成長が必要そうだ。
4着の
サイルーンは直線で一瞬伸びる構えを見せたものの、最後はジリジリとした伸びに。
以前よりも折り合い面の不安は少なくなったものの、本質的にマイル以下でこそのタイプだろう。
5着の
アルナシームも同様に、かなり回転の速いフットワークや前向きな気性から、直線の短いコースや、やや短めの距離が合いそうな印象を受けた。小回りコースに転じてきた時や、思い切った距離短縮策に出てきた時などに積極的に狙っていきたい存在だ。
浅屈腱炎からの復帰戦となった
ヴェルトライゼンデは内目でジリジリ脚は使ったが、いい頃ほどの前進気勢はなくなだれ込む形。中間の調教からもまだ状態ひと息と思えただけに、ひとまずは無事に走り切ったことを評価したい。
脚の関係で攻めた調教はなかなか難しい面があるだろうが、坂路における時計の出方が変わってくるようなら、再度重賞で存在感を発揮しても不思議ないはずだ。