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「ボッケリーニ!ボッケリーニ!ボッケリーニか!!並んでゴールイン!!!」
AJCCのゴール前。勝ち馬の名前が一切出ない実況が、今回の逆転劇の壮絶さを物語る。
レースはマイネルウィルトスの逃げという意外な展開で始まった。降り続いた雨の影響をモロに受け、かなり時計の掛かる馬場状態と化した中山芝だったが、そうした特殊な環境下で無類の強さを誇る彼がハナに立ち、同等の道悪巧者であるショウナンバシットがそれを追いかけ、さらに前目にいないと勝負にならないという他陣営の思惑もあってか、序盤から終盤に至るまでペースがほとんど緩まないという消耗戦が展開された。
いかに道悪の鬼といえど、流れがキツければ直線で甘くなる。マイネルウィルトスとショウナンバシットの手応えが怪しくなった後、外から脚を伸ばしたのは同じ勝負服の2頭、チャックネイトとボッケリーニだった。
しかし、見た目にも手応えはボッケリーニが完全に優勢。前述の実況が示す通り、ボッケリーニの押し切りは9割型決まったようにも思えたが、その馬体に隠れるように、されど溢れ出るような迫力をもって差し返しにかかっていたのが、一度は完全にかわされたはずのチャックネイトだった。
チャックネイトはこれが重賞初制覇。
前走のアルゼンチン共和国杯において3着に入り、重賞通用級の走りを見せてはいたが、今回も同等のレースレベルで走破して充実ぶりを見せつけた。5歳時の去勢と、父ハーツクライの血が持つ成長力が上手く噛み合って、昨秋から一気にパフォーマンスを上げていたが、6歳になっても勢いは変わらず。セン馬になったことでピークも長そうだし、今後も中長距離路線の常連として多くその名を見ることになりそうだ。
ここまで2400m超の長めの距離を使われる事が多かったが、今回は2200mでも消耗戦になった分、培ってきたスタミナや持続力が生きた印象。一度はボッケリーニに完全に置いて行かれたように、一瞬の切れという点は物足りなさが残るので、やはり長めの距離のほうが持ち味を生かせるように思う。今回の結果を受けて中距離寄りの路線に進むのか、長距離寄りの路線に進むのか、陣営の選択が注目されるが、個人的には一度3000m級の長距離レースにおける走りを見てみたい気がする。
惜しくも敗れたボッケリーニは、これで3戦連続の2着。
完全に勝ったと思われたところから逆転を許したというのは、2走前の京都大賞典と同じ。今回も「最後はブレーキをかけようとしていた」と鞍上がコメントしているように、最後の最後で気性面が邪魔をしている印象が強い。8歳になっても能力は大きく衰えていないが、同時に大きな上積みも見込みづらいのは仕方のないところ。レース間隔を長めに取ることさえできれば、きっちりと自分のレベル分は走ってくるので、あとはいかにして”勝ちきらせるか”が課題となる。
3着には重賞初挑戦だったクロミナンスが健闘。
初の2200mという距離に加え、極端な馬場状態という悪条件を克服しての好走は評価していいだろう。ここまでの戦績イメージからは1800~2000mの綺麗な馬場で切れ味を生かすのがベストであるように思えるが、母イリュミナンスの兄フラガラッハはマイルの重賞を2勝。同じく母の妹エスティタートも1200mの重賞2着があるように、よりスピード寄りの舞台でも活躍できる下地があるだけに、本馬も今年は幅広い条件でその走りを見ることができるかもしれない。
評価が難しいのは4着のモリアーナ。
今回の悪条件で最後に脚を伸ばせたことで、中距離での展望もある程度立ったと見ることもできるが、消耗戦の中での後方待機策がハマった分と見ることもできる。
以前よりも抑えこそ利くようにはなったが、序盤における前進気勢は相変わらず旺盛で、個人的には母父ダイワメジャーの影響と、父エピファネイアの前向きな気性が強く出たマイル寄りのタイプであるように映る。やろうと思えば1400m以下でも流れに乗れる可能性も感じるだけに、今後の進路がどのようなものになるのか、こちらも注目しておきたい。
最後に、水曜掲載の『キーホース診断』でも取り上げたショウナンバシット。
この馬場で先行できたことからも道悪が合うのは間違いないところだが、勝負所の攻防で上位馬とは明確に手応えの差があった。同父系の血を持つ半妹テリオスルルがマイラー色の濃いレースぶりを展開していることや、本馬自身も比較的前向きな走りをすることから、距離は2000mまでがベストかもしれない。母系の自己主張が強ければダートに適性が振れている可能性もありそうで、面白そうな条件に変わった時は再度狙ってみたい存在だ。
○霧(きり)プロフィール
ウマニティ公認プロ予想家。レース研究で培った独自の血統イメージに加え、レース戦績や指数等から各馬の力関係・適性を割り出す”予想界のファンタジスタ”。2023年1月には、長年の活躍が認められ殿堂プロ入りを果たす。
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