【メリオーレム】
スターホースは苦労が絶えない。
現役時代のレースにおける激しい攻防ももちろんだが、それを勝ち抜いた後の種牡馬としての競争も熾烈だ。
G1をいくつ勝っていようと、産駒成績が振るわなければ”失敗”の烙印を押されてしまう。相当にシビアな世界だ。
そんな中で、現在苦境に喘いでいる1頭が
シュヴァルグラン。
長距離戦を主戦場として
キタサンブラックや
サトノダイヤモンドといった強力なライバルたちと何度もぶつかり、日本最高峰のレースの一つである
ジャパンカップを制した名馬だ。
大種牡馬
ハーツクライの後継として初年度から堅実な種付け数を維持しているものの、同父系の
スワーヴリチャードやライバルだった
キタサンブラックらの華々しい活躍と比べると、どうにも地味な印象が拭えない。自身が有していた高いステイヤー気質がマイナス方向に作用しているのか、未勝利を勝ち上がるのがやっとという産駒ばかり。見切りの早い業界において、この状況は正直芳しくない。
そんな
シュヴァルグラン産駒の中で、ただ1頭上級クラスで奮闘しているのが
メリオーレムだ。
デビュー時から大崩れしない堅実性を発揮し、春はリステッド競走のすみれS、プリンシパルSでも好走。夏に入って2600mまで一気に距離を延ばした前走では、父の血が持つ長距離適性を誇示するかのように圧勝してみせた。
そんな本馬が、今週メインの菊花賞トライアル・
神戸新聞杯においていよいよ重賞に挑戦する。
3000m超のレースで特に強かった父の血を踏まえると、是が非でもここで本番への切符が欲しいところだが、その奪取は可能なのだろうか。いつも通りに各要素から考えていきたい。
まず指数面だが、数字的には良くも悪くも普通。着順はしっかり伴っており堅実なのは間違いないのだが、ここまでに重賞やG1を意識できるほどの爆発力を示したことはない。
後続を4馬身離して楽勝した前走にしても、2勝クラスとしては水準級の指数で、驚くほど高いわけではない。
この時本馬に近いオッズでの2番人気だった
グランアルティスタは格上挑戦馬で、未だ1勝クラスの自己条件でも勝ち切れていないことから、単純にメンバーレベルが低かったがゆえの圧勝と見るべきだろう。
春の実績を踏まえると、プリンシパルSで僅差だった
アスクカムオンモアあたりと近いレベルにありそうだが、その
アスクカムオンモアは
セントライト記念で春の実績馬に離されての6着。ここも春の時点である程度高いパフォーマンスを発揮してきた馬が複数いるだけに、本馬も楽な戦いにはならないかもしれない。
だが、例年通りの阪神開催でなく、左回りの中京開催という点は本馬にとって追い風。
右回りではどうしても直線で内にモタれてしまい、推進力を前に向けるのが難しそうな走りになるが、この点が左回りになるとある程度改善される。その分道中で外に力が向きやすいという危険性はあるが、鞍上の川田騎手はしっかりと個性を把握済み。可能な限りロスを少なくする乗り方をしてくるはずで、右回りだった前走よりもパフォーマンスが上がる可能性は十分にあるだろう。
血統的には前述の通り
シュヴァルグランが父で、豊富なスタミナを備えていそうなイメージ。
だが一方で母系はかなり短距離色が濃く、母父のスタースパングルドバナーは豪州の名
スプリンター。母メリオーラは2000mのリステッド勝ち馬だったが、2頭の半姉はいずれも短めの距離に適性を示した。父の血に足りていないスピードを母系が補っているイメージだ。
この母系を踏まえると、父のように3000m級の距離までこなすステイヤーかどうかは怪しいものの、2600mを楽勝するだけのスタミナを備えているのは証明済み。中京2200mという、距離の見た目の割にタフな舞台はちょうど良いように思える。
調教面では元々かなり動く馬だったが、この中間はさらに上昇。
前半ゆっくり入ったコース追いでは終い10秒台が当たり前のように出ているし、全体時計を速くしても大きく伸びは鈍らない。この調教の動きが実戦でもフルに発揮できるようになれば、大きく飛躍しそうな雰囲気がある。
思えば、父の
シュヴァルグランが軌道に乗ったのも3歳秋。条件戦を3連勝して年明けの
日経新春杯で連対すると、その後は長きにわたってG1級の力を発揮し続けた。
本馬も同様の成長曲線を描き、自身と父の名を同時に高めていくことができるだろうか。厳しい戦いにはなりそうだが、お手並み拝見といきたい。