一体、彼女に何が起こったのか。
モズメイメイと言えば、3歳時の葵Sにおける超絶ロケットスタートが印象的だ。
それまでずっと逃げの戦法を取っていたこともあり、”短距離の逃げ馬”というイメージは強かった。
だが、出走するレースの格が高くなり相手関係も厳しくなってくると、逃げの形に持ち込むことも難しくなっていった。
前述の葵S以降は2桁着順の連続。好位からの競馬を試すなど試行錯誤を繰り返していたが、全く味が出なかった。
前走の
北九州記念における18頭中16番人気という低評価が、彼女が”終わってしまった”と見放されたようで、寂しさを感じたのは事実だ。
だが、
モズメイメイはそこから不死鳥の如き復活を見せた。
これまでとは異なり、じっくりと差しに構える戦法に出ると、直線では人気の
サーマルウインドを弾き飛ばす力強さを見せて3着を確保。勝ち負けには絡めなかったものの、”終わってしまった馬”には思えない闘志がそこにはあった。
とは言え、2桁人気で好走した馬が次走も同じように好走するとは限らない。
筆者も数多く予想する中で、そうした馬があっさりと元に地位に戻っていくのを何度も見てきた。
加えて今回……
アイビスSDの舞台は新潟直線1000m。これ以上なく特殊な舞台であり、枠や展開、各陣営の思惑でいくらでも結果が変わるレースでもある。そんな中で単勝オッズ7倍台の3番人気という評価は、買う側の悩みが絶妙に反映されたものだったと思う。
レースは、大方の予想通り外ラチ沿いに多くの馬が殺到する形で始まった。
中でも出脚が目立った
マウンテンムスメが一気に大外を確保したことで、後続に緊張感が走る。
外に固執し過ぎていても最後に詰まるリスクがあるし、かと言って真ん中から伸び切れるかというと、それは馬の力によるところが大きい。そんな迷いもあってか、直線競馬にしては横に広がった隊列が形成された。
その中で
モズメイメイは取った進路は、長く広がった馬群の真ん中。
同じような位置からいち早く抜け出しにかかっていた
ウイングレイテストに馬体を併せに行く形で、1頭だけ違う加速を見せてのゴール。
そこにはかつての”逃げ馬”の姿はなく、強靭な差し脚を備えたスプリント女王候補の姿があった。
モズメイメイはこれで重賞3勝目。
この復活劇のトリガーがどこにあったのかは分からないが、年齢的にはまだ4歳であり、良く考えれば競走馬としてはこれから脂が乗ってくる時期だ。
父の
リアルインパクトも浮き沈みのある戦績を刻みながら、7歳まで重賞路線で好走を続ているし、イメージよりもずっと息の長い活躍を見せるタイプなのかもしれない。
じっくりと溜めを利かせたここ2戦は、不振時の淡白さが全く感じられないし、この形がさらに板に付いてくれば大崩れも少なくなるはずで、秋のスプリント路線での活躍が非常に楽しみになってきた。
2着の
ウイングレイテストは昨年から徐々に距離を詰めてきて、ついに直線1000mでも好走。
これまでの戦績や血統面からこの舞台向きというイメージは薄く、何より59kgという斤量がかなりの負担になると思われたが、単純に格が上と思わせるレース運び。序盤こそ押していたが、好位ですぐに溜めが利いていたし、レースに行っての対応力は本当に素晴らしい。
これまでのベストパフォーマンスは1400〜1600mであり、マイル寄りの
スプリンターというイメージが依然強いが、秋シーズンはどういったローテを歩んでくるだろうか。
3着の
テイエムスパーダは相変わらずスタートが遅かったものの、外枠勢があまり主張しなかったのもあってストレスの少ない好位確保が叶った。こうした形が取れれば非常に強いというのは過去の戦績が示す通りで、重賞2勝馬の意地を見せた格好か。意外にもここが初の直線競馬だったが、気性的に合っている舞台だったと言えるかもしれない。今後も展開一つだろう。
終わってみれば、4着の
ディヴィナシオンも含め、上位馬は全て1200mの重賞で連対経験があった馬。
今回はとにかく天候や枠、斤量など悩ましい材料が揃っていたし、古くから”格より調子”と言われる夏競馬の中において”調子よりも格”と言える決着。これは来年以降への教訓にもなりそうだ。
……などと言っていると、来年は実績馬がコロリと負けたりするのだ。夏競馬、本当に一筋縄ではいかない。