毎年のように荒れる重賞として名高いマーメイドS。
今年もまた絶妙なメンバー構成とハンデだったことに加え、微妙な天気予報と日々変わる馬場傾向も手伝って、頭を悩ませた方も多かったと思う。
そんな予想作業の中で、どこかで必ず思考の中に入れておかなければならない……料理におけるスパイスのような存在だったのが
アリスヴェリテだった。
大逃げという特殊な脚質を持つこの馬がここでも逃げられるのかどうか、そしてどこまで粘ってくるのか。50kgという極めて軽いハンデも含め、ここの評価を適切に行えたかどうかが今回の的中への分かれ目であった。
ちなみに筆者は、”逃げられるが、粘り切れない”という選択肢にベットした。(そして散った)
斤量が軽い逃げ馬の恐ろしさは、私たちファン以上に他馬の陣営も分かっているはず。戦前から大逃げを狙うことが分かっている馬を、そう簡単には粘り込ませないだろう……こう踏んだのだ。
しかし、「そんなことは百も承知!」と言わんばかりに、
アリスヴェリテと鞍上の
永島まなみ騎手は自分たちの競馬を貫くことを選択。同脚質の
ベリーヴィーナスには目もくれずにハナを奪うと、ラップを緩めることなく後続を置き去りにしていく。
1000m通過は58秒3とやや速めだったが、前走の同舞台で
アリスヴェリテが刻んでいたのは、56秒8という今回を遥かに上回るハイペース。それを考えれば楽と言える流れだったかもしれない。
だが、見るからに思い切りの良いその走りは、強大な抑止力となって後続の動きを封じた。
遥か後方、スローな流れで団子状態となった馬群は3コーナーを過ぎても動くことを許されず、4コーナーから直線にかけてようやくバラける形。
そこから人気の
エーデルブルーメや上がり馬の
ホールネスらが飛び出してくるが、前方の
アリスヴェリテはすでにセーフティリードを確保。2馬身差まで詰めるのが精一杯だった。
ハンデ差こそあったものの、文字通り自らの手で初重賞のタイトルを掴み取った
アリスヴェリテ。
その兄にはダート路線でガンガン飛ばすタイプの逃げ馬だった
リアンヴェリテ、北海道2歳優駿を逃げ勝ち、皐月賞トライアルの若葉Sでも逃げて2着に粘ったキメラヴェリテらがいる、生粋の”逃げファミリー”の出身。初重賞制覇が大逃げによるものというのは、血統的には非常に”らしい”結果と言える。
とは言え、3歳以降は好位から無難に運ぶ競馬に徹しており、崩れはしないが弾けないという結果が多い馬だった。
そんな中で3走前に大逃げというきっかけを与えたのが、現在負傷で療養中の新人・
柴田裕一郎騎手。本人も反省されていたように、経験不足ゆえの偶然の産物だったのかもしれないが、この時の大逃げと、前走の大逃げによる勝利がなければ、
アリスヴェリテはここに出走していなかったはずだ。そして、バトンを引き継いだ
永島まなみ騎手も、柴田騎手がとった戦法がベストと判断した。
兄たちから引き継いだ逃げの適性と、若いジョッキーたちが作り、引き継いだ大逃げという戦法。これらを完璧に活かした、本当に見事な勝利だったと言える。
一方で初重賞挑戦ながら1番人気という重責を担った2着馬・
エーデルブルーメの走りも光った。
外枠の影響や道中固まった馬群もあり、終始外目を回る厳しい競馬になりながら、勝負所の脚色は目立っており、人気に違わぬ能力は見せたと言えるだろう。
現時点で5歳のクラブ所有馬ということで、残された現役生活は1年を切っているが、どこかで重賞タイトルを獲得しても全く不思議ないだけのインパクトは残した。
3着の
ホールネスも、3連勝の勢いが本物であることを証明。
これまではやや時計のかかる舞台でのレースが多く、時計の速い決着への対応が鍵になっていたが、1分57秒台で走破できれば上々すぎるくらいだろう。
父のロペデベガは今年、フランスダービー馬ルックドベガ、フランス1000ギニー馬ルーヒヤを同時に出すなど、かなり勢いのある種牡馬。本馬もOPクラスの力をしっかりと見せただけに、自己条件はもちろん、再度の重賞挑戦となっても期待が持てそうだ。
一方、重いハンデを背負った実績馬たちは苦戦を強いられた。
ミッキーゴージャスは道中の雰囲気こそ悪くなかったが、3~4角の挙動は鈍く、直線では伸びる気配がなかった。斤量や乗り替わりなど、普段と違う状況ではあったが、元々が勝つか負けるかという極端な戦績を刻むタイプ。それだけに次走以降一気に巻き返す可能性もありそうで、警戒は怠らないようにしておきたい。
コスタボニータは珍しく出遅れて普段と全く違う競馬になっており、2000mという距離が微妙だったことも考えると参考外の内容か。本質的にはマイル寄りの適性を持つイメージが強いだけに、一度マイル重賞における走りを見てみたい気がする。
それぞれ能力は確かなものを持つだけに、反撃を期待したいところだ。