『巴賞の勝ち馬は
函館記念を勝てない』
そこそこ競馬歴が長くなってきた筆者だが、このジンクスはずいぶん前から目にしていた気がする。
調べてみると、巴賞→
函館記念を同一年に制したのは2005年の
エリモハリアーが最後。なるほど、20年近くも勝ち馬が出ていないのであれば、それはもうジンクスを超えて一つのデータだ。”
函館記念を勝つ”どころか、馬券圏外に飛んでいる馬も数多く、巴賞を勝つ=
函館記念で負けるというのは既定路線という空気が戦前から漂っていたようにも思う。
だからこそ、今回
ホウオウビスケッツが見せた圧勝劇には驚きが大きかった。
ホウオウビスケッツと言えば、デビュー時から前向きすぎる気性面が課題として挙げられており、
皐月賞や
中日新聞杯など、それが災いしての惨敗も経験している馬だ。
そんな馬が、巴賞において逃げという戦法で勝ってきた。
巴賞勝ちという”謎の重荷”を背負う上に、徹底逃げタイプの
アウスヴァールがおり、さらに200m距離が延びる。前述の折り合い難を考えると、他馬に比べて降り掛かっているマイナス要素が多いように感じたのも仕方のないところだろう。
実際、
ホウオウビスケッツは力んで走っていた。
今回は逃げずに
アウスヴァールを行かせる形だったが、スタートしてから鞍上の岩田騎手の重心はずっと後ろのほうにあった。綺麗な前傾姿勢を保つ他馬の鞍上に比べればその差は一目瞭然で、ギリギリのところで何とかなだめ、抑えている状態。このままの状態が終盤まで続いていたならば、さすがに苦しくなっていたはずだ。
だが、1000m地点を通過する辺りで、ふっと岩田騎手の姿勢が戻った。
ホウオウビスケッツが納得したように落ち着いた走りを取り戻し、そこからのレース運びは実にスムーズ。前を行く
アウスヴァールをしっかりと見据えながら、後続には2番手という立場を最大限に活かして蓋をする。完全にレースを掌握するに至ったのだ。
こうなれば、ダービーでも僅差の6着に来た能力の高さが生きる。
抜群の手応えで
アウスヴァールを早々に交わすと、あとは突き放すばかり。後続馬群からは
グランディアが抜け出して追いかけてきたものの、
ホウオウビスケッツがいたのはさらに3馬身以上先。メンバー拮抗のハンデ戦という設定を忘れてしまうほどに鮮やかな勝利だった。
ホウオウビスケッツはこれが初めての重賞タイトル。これまで大舞台では善戦止まりに終わっていた馬が一気にブレイクを果たした。
指数的に見ると、ここ2走で一気に数字を跳ね上げており、函館の洋芝が合っていたと考えることもできるが、元々が6月生まれというかなりの遅生まれ。ここに来て成長曲線がぐっと上向いてきた可能性も考えられる。気性も含めてマイルがベストと思われていたところから、1800m,2000mと距離を延ばしてパフォーマンスを上げたのは大きく、今後の選択肢も相当に幅広くなったはずだ。
レース序盤に見せる力んだ走りは依然残っているものの、ポジティヴに考えれば厳しい流れのレースにも対応しやすい気性と言えるし、今年に入ってから付きっきりでコンビを組んでいる岩田騎手ともしっかりハマってきた。
復権著しい4歳世代から、また1頭面白い馬が軌道に乗ったと言えそうだ。
2着の
グランディアはこれが重賞で初の好走。
母
ディアデラノビアの産駒は完成が非常に遅く、多くの馬が4歳後半~6歳ごろにかけて良くなってくる。この馬もその例に漏れず、5歳の今年になってぐんぐんと良くなっている印象だ。
真の適性がどういった舞台にあるのかという点は少々分かりにくいが、今回も含め印象的なレースを見せるのは小回りで直線の短いレースが多いように思う。道中は馬群のなかでじっと息を潜めて、直線で一気に差し脚を爆発させるという戦法が合っているのかもしれない。
3着の
アウスヴァールは久々に自身の形を貫いての好走。
OP入りしてからは強力な同型の存在もあり、逃げを打てないことも多かったが、今回は
ホウオウビスケッツが控えたことで気分良く飛ばすことができた。軽ハンデの助けもあったが、現状のベストパフォーマンスを発揮したと言っていいだろう。
着順や指数の推移を見ても浮き沈みの激しいタイプで、今回の好走をもって今後も安泰とは言えないだろうが、楽に行かせた時のしぶとさは十分に見せた。同様のシチュエーションが望めそうな時は気にしておきたい存在だ。
一方、色々と惜しい結果に終わったのが4着の
サヴォーナ。
最内枠から五分のスタートは切れたものの、包まれることを嫌ってか道中外へ外へ進路を取る動きを見せ、そのまま3~4コーナーでも大きく外を回る形。1~3着馬、そして5着の
プラチナトレジャーがいずれも道中最内で運んでいたことを思うと、相当なロスがあったように思う。
それでもしっかりと末脚を見せてここまで詰めているように、やはりG3あたりでは能力上位の存在。2000mへの対応力も見せただけに、次走以降のリベンジに期待したいところだ。
また、膝蓋の手術明けでも2番人気に推されていた
トップナイフは、いつも通りの先行力を見せたものの勝負所では早々に劣勢。
鞍上も”いかにも休み明け”という感触を強く持っていたようだったし、ひとまずは手術の効果でスタートが安定したという点をプラスに考えるべきか。
ここから状態が上がってきた時にどれだけのパフォーマンスを見せるのか、出走してくるたびに評価に迷う存在になりそうだ。