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思えば、戦前からどこか不穏な空気が漂っていたレースだった。
近年同様、突出した存在はいないという評価が多いメンバー構成であったが、単勝オッズはジャンタルマンタル、シュトラウス、ダノンマッキンリーの3頭が、まるで3強対決であるかのように抜けた支持を集めていた。それに続く10倍台の支持を集めた馬は3頭しかおらず、メンバーレベルの割に100倍以上のオッズの馬が異様に多いなぁという印象だった。
前述の3頭が人気を集めたことに関しては全く不思議ではなかった。それぞれがしっかりとレースで結果を残し、スケールの大きさを感じる走りを見せていたのは確かだ。だが同時に、”かなり難しい気性”という他馬よりも大きな爆弾を背負っていたのも、疑いようのない事実であった。オッズは3強体制でも、薄氷の上に成り立っているような……そんな頼りない印象を受けたのだ。
そしてその爆弾は、不運にもレースにおいて爆発する。
スタートするとまずシュトラウスが大きく出遅れ、場内がざわつく。
ダノンマッキンリーはまずまずの発馬を決めたものの、最初からエンジン全開。ルメール騎手の手腕を持ってしても完全に抑え込むことができず、早々に頭を上げてコントロールの難しさを見せていた。
この2頭が目立っていた分、印象にはあまり残らなかったものの、ジャンタルマンタルもダノンマッキンリーの直後でガチャガチャとした走り。かなり行きたがる面を見せていた。
そうこうするうちに、出遅れていたシュトラウスが腹を括ったように加速して一気に先頭まで押し上げ、レースの流れは完全に崩壊。G1には珍しい乱ペースが形成される格好となった。
そんな中でも自身の爆弾を抑え込み、直線での爆発力に転化させたのが、勝ったジャンタルマンタル。
スタート直後はそうでもないものの、徐々に行きたがる面を見せたというのは前走のデイリー杯と同じ。鞍上の川田騎手の手腕もあって、中盤を迎えるまでに落ち着きを取り戻せたことが勝利に繋がった。道中でロスがあっても押し切れたあたり、今回のメンバーの中では基礎能力や完成度が単純に一枚上だったということだろう。レース慣れしてくれば更にパフォーマンスを上げてくるだろうし、気性面以外に大きな弱点はない。
が、本馬の場合、独特の血統構成を持つ分どの舞台に真の適性があるのか分かりにくいというのが困りもの。血統表だけを見ると非常にアメリカ色の濃いダート血統にしか見えないが、父のパレスマリスはアイアンバローズ、ジャスティンパレスらステイヤー兄弟の兄。母のインディアマントゥアナも芝の中距離重賞勝ち馬なので、芝の中長距離型に出ても不思議ではない。
このままマイル路線を突き進むのか、クラシックに挑戦してくるのか、ダートを試すのか、本当に様々な選択肢が考えられそう。陣営の進路選択に注目だ。
2着には4角最後方からエコロヴァルツが追い込みを決めた。
道中の乱ペースもあり展開がハマったのは確かだが、本馬もスタート直後はかなり行きたがるところを見せている。その状況で、先行争いを見て瞬時に差しに構えさせたのはさすが武騎手と思える好判断。他馬が動いていく3~4コーナーでもじっと動かずに脚を溜めたことが最後の強襲に繋がった。
これまでは先行押し切り、途中からの逃げなど、前向きな競馬が目立っていた馬だが、こうして後方からでも脚を使えることを証明したのは大きな収穫。血統はやや地味ながら、今後もいぶし銀な存在感を示してきそうな雰囲気がある。母系はどちらかといえばダート向きな血統で、全姉もダート変わりで良さを出しているだけに、本馬も幅広いステージでの活躍が望めるかもしれない。
3着には紅一点タガノエルピーダが踏ん張った。
走る前からややテンションが高めで、レースでもその通りに前向きな走りを見せたが、結果的に乱ペースの影響を受けやすい位置取りになってしまったか。それでも直線では後続に飲み込まれそうになってから踏ん張り通したように、能力は高い。
レースぶりからはタガノエスプレッソやタガノトネールなど、1400~1600mでベストパフォーマンスを発揮した兄達と似た雰囲気を感じるだけに、桜花賞路線がひとまずの目標となるだろうか。
4着のジューンテイク、5着のタガノデュードも際どいところまで追い込んできたが、どちらも3~4角辺りからかなり外を回っての押し上げで、特にジューンテイクに関しては相当な距離ロスがあるように感じられた。展開が向いていた分評価には迷うものの、それなりの能力があっての結果だとは思えるだけに、次走以降も狙える局面が訪れるかもしれない。
そして最後に触れなくてはならないのが、爆弾を爆発させてしまった2頭。
あくまで個人的な主観であるが、ダノンマッキンリーはやはりスプリント寄りの気質であるように思われる。今はモーリス産駒らしい未完成な部分が随所に残っているが、成長を促しながらスプリント路線一本に絞って行ったほうが、好結果に繋がるように感じる。
シュトラウスも同様に、気性面の改善が望めないとなれば、距離を短くしていくしか選択肢はないように感じられる。徹底して逃げの手に出て落ち着かせるというのも手だが、今回やサウジアラビアRCの結果が示すように、本馬は現状発馬も不安定。逆に出遅れ前提で追い込みに構えても、気性とパワーの凄まじさのせいでしっかり脚が溜まるとは思えない。
本馬の兄姉もかなり難しい気性の馬が多く、強い時とそうでない時の差がかなり大きい馬が目立つだけに、本馬もそうした存在であるというのは間違いない。この後、陣営がどんな育成や進路を取ってくるのか、次走以降の姿には色々な意味で注目しておきたい。
また、我々予想する側としても、こうした難しい馬たちに関しては”そういう馬だ”としっかり踏まえた上での印打ちが必要だろう。今回のように道中から「ぎゃあああ!!!」となることも多いが、ハマって強い勝ち方を見せてくれた時の爽快感は何物にも替え難いだけに、「ここだ!」と心から思える時に印を託すようにしたい。安易な印打ちの末に鞍上や陣営批判に走るようでは、楽しみも半減するどころか重い気分しか残らない。クセ馬に印を託す時、私は常に清々しく散る覚悟だ。
○霧(きり)プロフィール
ウマニティ公認プロ予想家。レース研究で培った独自の血統イメージに加え、レース戦績や指数等から各馬の力関係・適性を割り出す”予想界のファンタジスタ”。2023年1月には、長年の活躍が認められ殿堂プロ入りを果たす。
霧プロの最新予想ページはこちら
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