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今に始まったことではないが、ルメール騎手は凄い。
実績ももちろん凄いのだが、大レースを制するたびにその”凄い”が上書きされ続けるのが凄い。
今回の菊花賞も、上位を占めた馬のほとんどはルメール騎手が騎乗経験のある馬。その中からアーバンシックを選択し、事も無げに圧勝して見せる。そんな芸当を見せられると、全ての大レースは彼の掌の上で行われているのではと本気で思ってしまう。もう何度脱帽されられたか分からないが、今回もただただ脱帽であった。
だが、レースの展開自体は決して簡単なものではなかったと思う。
序盤、中盤、終盤と局面ごとに動いてくる馬がおり、3000m級の長距離戦としてはかなり動きのあるレース。
勝ったアーバンシックをはじめ、ヘデントールもアドマイヤテラもショウナンラプンタもビザンチンドリームも序盤は後方。ともすれば流れに乗り損ねたと思われた面々が、いつの間にか位置を押し上げ、最終コーナーの時点では好位勢へと変貌していた。
結果的には”物凄く早く前が潰れた展開”ということになるのだろうが、いくら長距離戦とはいえあまり見ることのない流れ。なんとも不思議な感覚のままレースが終わった感がある。
そんな特殊な展開の中から、全く隙のない立ち回りで抜け出してみせたのがルメール騎手とアーバンシック。
見た目からして前進気勢の強い走法を持つこの馬を中盤で動かしておきながら折り合いを欠かないというのは神業の域。よほど馬との呼吸が合うのかもしれないが、並のジョッキーならば動かした段階で抑えが利かず、末を失う危険性があったはずだ。
この秋の2戦でしっかりとした強さを見せたことで、折り合いが付いた上でロスの少ない立ち回りができれば一線級の走りができるということを証明した格好だが、今後鞍上が替わるというシチュエーションが発生した時にどうなるか。その時こそアーバンシックという馬の真価が問われることになりそうだ。
2着のヘデントールは、初のG1でも臆することなく好走。大舞台でも高い能力を示した。
課題の出遅れ癖は相変わらずだったが、先に動いたアドマイヤテラとアーバンシックが前を掃除する流れに上手く乗れた。
直線では追うたびに内にモタれるような格好になってエンジン点火までに時間を要したように、追い出してからの挙動に妙な癖がある。そのあたりがアーバンシックまで届かなかった要因だろう。
修正は楽ではなさそうな癖だが、実績も経験な陣営が改善に乗り出してくるようなら、もう一段上の走りができそう。今後の上昇次第では大きなタイトルを手にしても不思議なさそうで、引き続き注目したい存在と言える。
3着のアドマイヤテラは、武豊騎手の絶妙な動き方と、切れないが簡単にはバテないという馬の個性が上手くマッチ。後方から先行勢を容赦なく潰し切り、自身の力は出し切ったと言えるのではないだろうか。
脚質上大味な競馬になりやすく、ここまでのキャリアの多くがロス覚悟で外から早めに動く競馬。
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もう少し器用さが出れば一皮剥けそうなのだが、そこは今後の成長次第といったところか。現状でも十分にステイヤーとしての素質は見せただけに、長丁場では欠かせない存在になっていきそうだ。
4着のショウナンラプンタはいつも通りに前進気勢の強めな走りながら、しっかりと我慢が利いていた。
母系の血統を踏まえると3000m級の長距離は適性外であるように思えるが、この距離でも見せ場を作れるほど折り合いに進境を見せているのは今後に繋がる。
この後も引き続き長距離路線を歩むのか、目先を変えて中距離戦に挑戦してくるのか、陣営の選択が待たれるところだが、どちらの路線であっても早い段階で重賞タイトル獲得のチャンスは訪れるのではないだろうか。
5着のビザンチンドリームも上手く流れに乗っての好走。
今回もスタートは遅かったが、若さ全開だった春シーズンに比べると、道中の挙動はだいぶ落ち着いてきた感が強い。
デビューからの2戦で高い潜在能力は既に示していただけに、気性面がこのままいい方向に成長していけば、再度重賞路線で見せ場を作る可能性はありそうだ。
一方、ここが復帰戦となったダービー馬・ダノンデサイルは6着。圧勝だった前走から一転、苦戦を強いられる結果となった。
序盤こそ行き脚良く好位に付けていたが、内で構えたのが災いし、動きのある展開の中でどんどんと位置取りが後ろに。アーバンシックら後方勢が勝負に出る頃には完全に勝負圏外と思えるところまで追いやられてしまった。
最後は上がり上位の脚で追い上げはしたものの、時すでに遅し。何とも評価に迷う一戦になってしまった。
久々で馬体は大きく増えていたものの、能力がなければ絶望的な位置から盛り返すことはできないし、あまりにも特殊な展開や隊列に敗因を求めるべきか。ダービーで見えた走りがフロックであるようには思えないので、次走以降の巻き返しに期待がかかる。
同じ春勢力のコスモキュランダも14着と厳しい結果に。
こちらも序盤は内目に位置取っていたが、中盤以降はずっと外々を回る形。その状態から位置を押し上げたことで、相当に負荷の高い競馬となり、本質的な距離適性や持久力の差がモロに出ることになってしまった。
血統的には中距離色が濃く、これまでの実績や父アルアインのイメージ通り、小回りで一気に動いていく競馬が合うタイプ。今回は全てにおいて本馬向きとは言えない要素が揃ってしまい、不運だった感は否めない。
これまでに好走してきた舞台や距離でならば一気に巻き返す能力はあるので、こちらもまだまだ見限れない。
この結果をもって、この世代のクラシックは全て別の馬が分け合う形に。
皐月賞馬ジャスティンミラノは戦線離脱してしまったが、残された馬たちがこの後どういった勢力図を描いていくのか。大きな謎を残した三冠最終戦だったと思う。
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