5番人気と9番人気。
日曜日の阪神9レースと10レースにおいて、
富田暁騎手が騎乗していた馬の人気順である。
確固たる自信があって頭から入ることができればとても美味しいゾーンだが、大抵の場合は絶妙に狙いにくい馬だったり、来られてから「そこかぁ……」と思ったりすることがほとんどなのではないだろうか。
そんな2頭をきっちりと勝たせた後のメインレース。富田騎手の相棒は14番人気で単勝万馬券の
テイエムスパーダ。
人気順の低さももちろんだが、単勝万馬券の馬が重賞で好走するというシーンが極めて稀であるということは、積み上げてきた自分の経験則から十分に感じていた。ましてや、この先のG1戦線を睨む重要ステップ。相手も強く、各陣営の本気度も高い。その中で好走、さらには勝ち切るシーンなど全くイメージできず、恥ずかしながら私も予想の中で秒で切ったというのが現実だ。
しかしレース後、ウィナーズサークルの中心に
テイエムスパーダと富田騎手がいたというのも紛れもない現実だった。
近走は発馬の遅れが目立ち、逃げという戦法自体が取れなくなっていた馬だが、この日はギリギリ五分のスタートから鞍上が退かなかった。押して押して押して押してようやくハナを取り切るという、逃げ馬らしからぬ泥臭い序盤の挙動であったが、結果的にはこれが奏功。久々に得た自分の形と、最も本馬が走りやすい開幕週の綺麗な良馬場。これらが全て噛み合っての美酒だった。
なかなか復活のきっかけを得られなかった
テイエムスパーダにとって、前述のように鞍上が退かなかったこと、そして何がなんでもという同型が不在だったということは大きい。
スプリント路線において逃げという戦法で戦うにはあまりにも出脚が遅くなっているのは事実で、これからも不安定な成績が続くことになるだろうが、ハマった時には今回のように鮮やかに勝利するだけの基礎能力は備えており、今後も相手関係次第で警戒が必要な存在だろう。
鞍上の富田騎手も、先日の
エルムSにおいて、人気の逃げ馬
ペプチドナイルで消極的な競馬になってしまったことの後悔は少なからずあったはず。その苦い経験が今回に生きたとすれば、この成功体験は今後のキャリアにとってかなりの糧となるはず。こちらも今後の飛躍に期待だ。
波乱の決着の一方で、人気馬達は苦戦。唯一気を吐いたのは2着の
アグリだった。
これまでは安定した先行策をとっていた馬だが、この日は序盤の他馬の動きによってかなり位置取りが後方になった。それでも直線は目立つ伸び脚を披露し、改めて路線上位の能力と脚質自在の柔軟性をアピール。敗れはしたものの、得るものも多かったのではないだろうか。
春の
高松宮記念でタフな競馬をし、香港遠征で結果を出せなかったショックもこれで払拭。再度のG1挑戦へ向けて、視界は良好と言える。
スマートクラージュは前走の
CBC賞に続いて3着入線。
大きく馬体を増やしながらこの中間は調教内容もかなり目立っており、成長自体は感じるのだが、どうにももう一押しが足りない。母のレジェトウショウも軌道に乗った4歳~7歳に至るまでパフォーマンスが極端に上がることも下がることもなく走っていた馬だが、本馬もそうしたポジションに収まってしまうのだろうか。予想的にも評価が非常に難しい存在と言える。
4着
ボンボヤージは前走の
北九州記念から着順を上げ、好調をアピール。これまであまり好走歴のなかった急坂コースでも見せ場を作れたのは収穫だろう。
6歳牝馬ということで、ここからの急上昇を望むのは酷かもしれないが、今回くらいの水準で走り続けられるようならば、路線の安定勢力となる可能性がありそう。
5着には3歳馬
ロンドンプランが入線。
近走は出遅れたり躓いたりとスタートにおけるロスが大きかったが、今回は五分。出遅れが癖になっていなかったのは収穫だろう。
1コーナーの入りで他馬の動きにより一列下げざるを得なかったのは痛かったが、直線ではしっかりと伸びており、今後に繋がる良い走りであったように思う。今後もスタートの怖さは残るものの、能力は高く、順調に成長すれば面白い存在に。
3番人気の
ジャングロは直線で一瞬伸びかけるも、勢いが持続せず6着。
スタートで難しさを出すこともなく、道中の行きっぷりは良すぎるくらいで、改めてこの距離における適性を感じさせたが、今回はやや気持ちが前向きすぎた分が最後に響いた印象。これまで逃げ勝ったことも多い馬なだけに、ある程度気分良く運べたほうが良いタイプなのかもしれない。
血統的にはダート色も濃く、短距離において芝砂問わない活躍が期待できそうで、選択肢は幅広い。
7着の
エイシンスポッターは、いつも通りに後方からの競馬となったが、道中の手応えは抜群。直線での脚も目立っていた。
道中で内にいた馬が玉突きのように後ろに下がる場面があり、本馬はそれにより最後方まで押しやられたのが痛く、もう少し好位で運べていればと思わせる内容だった。決め手自体は既に路線の上位と思えるだけに、道中の運び次第では大きなところも狙えそう。
復活を狙った
ピクシーナイトは発馬で躓き、道中でも力みが目立ち8着まで。
もう少し全体的にスムーズならと思わせるが、フットワークの大きさなどから、純
スプリンターというよりはマイラーに近い雰囲気も醸し出すようになってきたようにも感じる。最後の脚はしっかりしていたので、この路線でも戦っていけるのは間違いないが、活躍の幅を広げてみても面白そうな気も。
1番人気に推された3歳馬
ビッグシーザーは、直線一瞬伸びかけるも他馬に飲み込まれ10着。初めて馬券圏外になった。
ここまでは堅実なレース選択で実績を重ねてきたが、思えば父の
ビッグアーサーも母のアンナペレンナもパフォーマンスを大きく上げてきたのは4歳~5歳にかけて。イメージよりも晩成傾向にある血統構成なので、良くなるのはこれから先という可能性が高い。
それでいてここに至るまでのレースレベルも決して低いものではないし、調教でも普通の馬ではないと思わせる時計を出す。本格化を迎えた時にどのようなパフォーマンスを発揮するのか、これからも楽しみは持てる存在と言えるだろう。今回の敗戦を糧に、更なる成長を期待したいところだ。
○霧(きり)プロフィール
ウマニティ公認プロ予想家。レース研究で培った独自の血統イメージに加え、レース戦績や指数等から各馬の力関係・適性を割り出す”予想界のファンタジスタ”。2023年1月には、長年の活躍が認められ殿堂プロ入りを果たす。
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