週末に行われる中央重賞の過去の優勝馬をピックアップして回顧し、競馬の長い歴史の狭間できらめいた馬を紹介する「中央重賞懐古的回顧」。第51回は2013年の
アメリカジョッキークラブカップ優勝馬
ダノンバラードを取り上げる。
今回は性質上デリケートなネタを取り扱う。そのため、いつも以上に言葉を慎重に選びながら書き進めていきたいと思っている。よろしくお願いします。
2012年6月10日の東京8Rにて、1位入線のファイナルフォームがゴール寸前で外に斜行し、3位で入線したランパスインベガスの進路を妨害した。入線後、約15分間に渡り審議が行われたが、結果として入線順通りで着順が確定した。勝ち馬の鞍上の
内田博幸騎手には2日間の騎乗停止処分が下されたが、3着ランパスインベガスの
小島茂之調教師が裁決に対して不服申し立てを行うも「降着にするほど致命的とは言えない」という理由により却下されたことで、ファンの間で降着ルールに関する議論が紛糾する事態となった。
その“事件”の影響がどれだけあったのかは分からないが、翌2013年よりJRAにおける降着・失格のルールが大幅に変更された。降着に関しては、それまでの「走行妨害が、被害馬の競走能力の発揮に重大な影響を与えたと裁決委員が判断した場合」から「入線した馬について、『その走行妨害がなければ被害馬が加害馬に先着していた』と裁決委員が判断した場合」に行われると新たに規定されたわけだが、先のファイナルフォームの件の裁決を追認する変更と受け取られたり、前年の
ジャパンCにおける物議を呼んだ裁決も相まって、新ルールの運用について疑問視する声も上がった。
2013年のG2・
AJCCは、この新・降着ルールの施行直後に行われた重賞である。レース結果は、
ディープインパクトの初年度産駒・
ダノンバラードが約2年1ヶ月ぶりの重賞制覇をマークするという意義深いものだったのだが、その内容はちょっといただけなかった。直線で大きく内に切れ込み、2着
トランスワープと9着
ゲシュタルトの進路を塞いだのだ。
確定前に
トランスワープを管理する
萩原清調教師および鞍上の
大野拓弥騎手が降着の裁決を求める申し立てを行ったことで審議の青ランプが点灯したが、「その影響がなければ5番
トランスワープは3番
ダノンバラードより先に入線したとは認めなかったため」という判断により、到着順位通り確定した。事態はまた紛糾した。ルール改正によって降着の判断を取りづらくなり、ラフプレーの“やり得”が横行するのではないか…と懸念されたためだ。そもそも「走行妨害がなければ先着していた」という判断基準がどうも不明瞭なのである。ちなみに
ダノンバラードに騎乗したフランシス・ベリー騎手には開催日6日間の騎乗停止処分が下されている。
F・ベリー騎手の本邦における重賞初勝利が後味の悪い形となってしまったのは残念だったが、翌日の
京成杯を
フェイムゲームで制すなど同騎手はその後も存在感を示した。そして
ダノンバラードも数奇な運命を辿りながら、産駒
キタウイングや
ロードブレスらの活躍により種牡馬として復権を果たした。一方、現行の降着ルールに関しては未だ議論の余地があるだろう。JRAには大多数のファンが納得する裁決を願いたいものだ。
ダノンバラード
牡 黒鹿毛 2008年生
父
ディープインパクト 母レディバラード 母父Unbridled
競走成績:中央26戦5勝
主な勝ち鞍:
AJCC ラジオNIKKEI杯2歳S
(文:古橋うなぎ)