適性。
競馬を予想する上で、これを重要なファクターとして考えている方は非常に多いだろう。
目の前の馬が芝向きなのか、それともダート向きなのか。そして、短距離馬なのか、中距離馬なのか、長距離馬なのか。
さらには広いコース向きなのか、小回りコース向きなのか、重馬場はこなすのか、戦法は、回りは、坂は……といった具合に、掘り下げていけばキリがないが、その馬にとってどういった条件が最も走りやすいのか想像するのは大切なことだと思う。
それが実際に馬を管理する陣営であれば尚のこと。より綿密な適性判断の下にレース選択が成されているはずだ。
今回の
アルナシームの勝利は、その成功例と言える。
2歳時から高い素質を評価されてきた馬だが、前向きすぎる気性が出世を阻んだ。
加えて、関東圏でのレースでは結果が出ず、左回りだと手前の関係で伸び切れない。
1800mだとしっかり走れるのに、なぜかマイルの舞台だとリズムに乗れない等々、極めて尖った適性の持ち主でもあった。
そんな彼にとって、今回の小倉1800mという舞台は正にベストであったし、
セルバーグと
テーオーシリウスが競り合う速い展開で追走に苦しむ馬もいる中、諸刃の剣とも言える前向きな気性が強力な武器に転じた。
道中は内でリズム良く運び、持ち前の回転の速い走法を活かして小回りのコーナーリングもスムーズ。
3月からタッグを組み、陣営と共に調教でも手綱を取ってきた
横山典弘騎手の仕掛けも絶妙で、ゴール後のガッツポーズにも会心の騎乗であったことが見て取れた。
レースプログラム上、古馬の牡馬が出走可能な1800mの重賞というのは非常に少なく、関東圏や左回り以外となると、その選択肢はさらに狭まる。現状の
アルナシームが持つ適性を活かすには、”ここしかなかった”はずで、そのレースを見事に射止めた陣営の選択と馬への尽力は本当に見事。
さらに上のステージへの挑戦となるとクリアすべき課題はまだまだあるが、重賞ウイナーという称号を得たことは大きな大きな一歩となる。
2着の
エピファニーも人馬一体の見事な走り。
この馬も
アルナシームに負けず劣らずの尖った気性と適性の持ち主で、好走するには色々と注文が付く。
速い流れの1800m戦はおそらくベストで、道中の立ち回りも勝負所の捌きも非常に無駄が少なかった。最後わずかに届かなかったのは斤量差や展開のアヤで、内容的には勝ちに等しい。杉原騎手とのコンビも完全に板に付いてきただけに、今後も渋い活躍が期待できるだろう。
気性がもう少し落ち着けば2000mでも同等のパフォーマンスを発揮できるように思えるが、現状ではマイル〜1800mの方が流れには乗りやすいか。
3着の
エルトンバローズは実績最上位馬の貫禄を感じさせる堂々としたレース運び。
59kgを背負って早めに動き、前を行く先行勢を掃除する姿には、確かな復調気配が感じられた。
こちらの適性は上位2頭に比べるとやや読みにくく、中距離寄りのタイプなのかマイル寄りのタイプなのか、判断が難しい。
強烈な決め手がある馬ではなく、立ち回りの巧さで勝負する方が合っているように思うので、中央場所の王道路線よりは今回のような舞台の方がイメージには合うが、この後の進路はどうなるだろうか。
4着の
ロングランはいつも通りに後方からの競馬だったが、外枠だったこともあり全体的にロスがかなり大きかった。
5着の
ニホンピロキーフも同様に外枠から難しい立ち回りを強いられたが、イメージよりも行きっぷりが悪く、追走に苦労したのは以外だった。
ゆったりとした流れの2000m戦からの転戦が影響した可能性や、体調がひと息だった可能性も考えられるが、それでも差のないところまで詰めてはいる。
この2頭も展開や馬場傾向次第では重賞を勝てても不思議はないはずだ。
人気どころで唯一崩れた上がり馬の
セオは、ハイペースの影響を大きく受ける位置取りになってしまったし、酷暑の影響も大きかったように思う。
昨夏のラジオNIKKEI賞でも暑さが堪えて大敗を喫している馬なだけに、この時期は体調維持が難しいタイプと言えそう。涼しくなる時期までじっくりと立て直しての再上昇に期待したいところだ。
今年はダービーも制し、手綱捌きが冴え渡る
横山典弘騎手は56歳。
同日の札幌メインでは55歳の
武豊騎手が差し切り勝ちを演じ、小倉最終ではこの日がJRA所属としてはラスト騎乗となった56歳の
小牧太騎手が花道を飾った。
筆者はこの3人よりも一回り以上年下だが、大ベテランたちのこの活躍ぶりは刺激になる。
おそらく一緒にレースに騎乗していた若手騎手にとっても同じなはずで、全体レベルの押し上げに一役買っていそうな気がしてならない。
50代半ばになってこうした姿を見せられるというのはシンプルに”カッコイイ”と思うし、これからもその手綱捌きを楽しみに見ていきたいものだ。