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【鈴木和幸】有馬記念の秘話

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 ●伝え聞く松本=シンザンVS加賀=ミハルカスのあの名勝負をご存知か!!

 今年で第54回を数えるグランプリ・有馬記念。これまで何度、このビッグレースの予想を立て、レースを
見てきたことだろう。伝え聞く加賀=ミハルカスが、通常は馬場の内めを回る逃げ馬だったにもかかわら
ず、4角でアッと驚く大外に進路をとった、あの第10回のグランプリはさすがに見ていない。何としてでも
宿敵シンザンを負かしたいミハルカスの勝負師・加賀、シンザンを負かさんがためにとった策がこの4角
大外である。泥田のような不良馬場、加賀は自分が大外を回れば、シンザンの松本は自分より内側に
コースをとるだろう、内側を走らせようと考えたのである。そう、より馬場の悪い内を走らせることでシンザ
ンの脚を鈍らせ、そこに活路を見出そうとしたー、のだった。

 ところが、直線に向いた次の瞬間、ミハルカスの内側を走るはずのシンザンの姿が消えてしまったので
ある。”シンザンがいない”と実況アナウンサーが叫んだかどうかは知らない。しかし、数秒の間、シンザン
の姿がスタンドから見ていて消えてしまったのは確からしい。再びシンザンが急坂を上がって姿を現したと
きはすでに先頭、加賀必死の鞭にもミハルカスは2着を守るのが精いっぱい(3着馬とは4分の3馬身差)
だったそうな。

 姿の消えたシンザン、それは松本がミハルカスのさらに外、つまり、外ラチ(壁というべきか)すれすれ
に進路をとったから、スタンドのファンはもちろんのこと、テレビ画面などの視界から姿が消えてしまった
というわけだ。このシンザン、ミハルカス、松本、加賀の名勝負はいまでもオールドファンの語り草になっ
ているが、残念ながら私はこれを後日、先輩諸氏から話を聞かされたり、ビデオで見ただけである。

 ●忘れられないディープインパクトの不敗伝説が破れた日

 それから3年後の昭和43年に私はこの世界(ダービーニュース社)に飛び込み、以後、ずっと欠かさ
有馬記念を生で見、昭和50年代の半ばからは移った日刊ゲンダイで本誌予想をしてきた。ざっと数
えて30年、この間にはさまざまな名馬に出会い、名勝負に心躍らせてきた。もちろん、ヒット予想、痛恨
予想の有馬記念も、、、。思い出は数え切れないほどあるが、忘れられない有馬記念というなら平成17
年の第50回をおいてほかにない。

 平成17年といえば、前年の12月にデビューしたあのディープインパクトが無キズの7連勝で三冠を達
成した年だが、私はこのディープの2戦め・若駒Sを見たその直後に、あまりの脚力のすさまじさに、”今
後、ディープインパクトが日本で負けることはない”と、断言させてもらったほど。だから、それ以降は常に、
どんなパフォーマンスで勝ってくれるのか、2着に何が飛び込んでくるのか、この2点だけに注目し、ディー
プが出走するレースを迎えていたのである。もちろん、史上2頭めの無敗の三冠馬になって当たり前、そ
んなことは一冠めの皐月賞前にすでに確信していたことである。

 そのディープインパクトがその年の有馬記念で2着に負けてしまったから、第50回の有馬記念は忘れ
れない。”ね、競馬に絶対はないでしょう”と、勝ち馬ハーツクライの単勝を片手に誇らしげに私に話しか
けた奴もいたー。でも、いまでも私は”競馬に絶対はある”と思っている。それはそう思えるレースは年に
何鞍もあるわけではないが、やっぱり、競馬に絶対はある、そう思えるレースがなければ、いや、そのよ
に見極められる馬、レースを見つけたくてこの仕事を続けているといったほうがいい。

 第50回、グランプリ有馬記念のパドック、「鈴木さん、ディープはどうですか」との問いに、「いいんじゃ
ないですか」と答えながら、自信を持って「文句なしですよ」といえない自分がいた。心のどこかに”いつ
もとは違うディープ”を感じていたのである。その原因はどこにあったのか、具体的にはいまでもはっきり
とはわからない。体重の440キロがデビュー(452キロ)以来の最低だったからなのか、事前の調べで
通常の最終追い切り日に併せ馬で時計をだしていながら、レース前々日にも同じような時計を出した不
思議を知っていたからなのか、それは判然とはしない。しかし、いつもとは違うディープがあのパドックに
いたことだけは確かである。

 4角3番手、ルメールの早めスパートでハーツクライディープインパクトの末脚を封じ込んだと、翌日
の新聞でルメールの好騎乗が多く報じられた。ディープの不敗伝説が消えたそのときのショックは、いま
でも私の中に鮮明に残されている。でも、相手馬、相手騎手の好騎乗くらいで負けてしまう、ディープはそ
んな次元の馬ではないのだ。出走のたびに”競馬に絶対はない”を否定し、”絶対のV”を感じさせ、それを
実現させてきた馬、それがディープインパクトなのである。ルメールの絶妙の騎乗、ハーツクライの大駆け
があったとしても負けるようなディープではない。

 それならなぜ、それほどのディープが13戦3勝馬でしかないハーツクライごとき(失礼)に負けてしまった
のか。それは”いつもとは違う”ディープにあったのだと思う。言葉を変えていえば”体調不良”、つまり、持
る力を100パーセント発揮できなかったため。これが初めての敗走、その後を含めて日本での唯一の敗
走となってしまったのである。

 ●ディープインパクトが上がり3ハロンを34秒6でしか走れないなんて

 この有馬記念におけるディープの走りは、それまでと比べていかにも動けていない。過去7戦をすべて差
し、追い込みで決着をつけてきたことはご承知の通り。上がり3ハロンを列記すると33秒1、33秒6、34秒
1、34秒0、33秒4、34秒1、33秒3でどれも出走メンバーのずば抜けた最高記録だったと思う。どのよう
な展開、流れであろうと、ラストの600メートルを最遅でも34秒1でまとめられ、気が向けば(?)、いや必要
があれば33秒1で上がることができるのがディープなのだ。

 この最遅の記録で走っていれば、それでもディープは有馬記念を勝っていた。ハーツクライとの着差はた
ったの半馬身、せめて34秒1の上がりならいとも簡単に捕らえられたはずなのである。それがどうしたこと
か、武豊のいう「飛ぶような走り」がウソのよう、この日はこれまでの最遅記録ですら走れず、34秒6の上が
りにとどまってハーツの後塵を拝することになったのである。実力を出し切らないでの結果、、、。

 実力を100パーセント発揮できない、その理由にはレース中の不利、出遅れなどがあげられるが、その
多くは体調不良がほとんど。有馬記念におけるディープは体調そのものに問題があったー、それ以外にあ
の敗戦の理由は私には考えられない。

 10月23日の菊花賞からディープは1ヶ月以上も時計を出していない。出していないのではなく出せなか
ったのだろう。菊花賞3000メートルの初めての長丁場を3分4秒6、上がり33秒3の激走の疲れがなか
なか癒えなかったからに違いない。この時点で管理する池江泰郎調教師に有馬記念出走が頭にあったか
どうか。これは私の想像だが、生涯一度の皐月賞、ダービー、菊花賞のクラシックならともかく、有馬記念
は来年もある、師は”休養させるべき”に傾いていたのではなかろうか。それほどクラシック三冠を戦い抜
いたことの疲労が蓄積されていたのだと想像される。

 無敗の三冠馬ディープインパクトが出走するとしないでは、有馬記念の盛り上がりが違う。ディープ不在
では馬券だって売れない。もちろん私の想像でしかないが、これを危惧したJRAが”ディープ”サイドに出
走してほしいとの要請をしていたのではあるまいか。

 ●サラブレッドは1年を通して絶好調ではいられない

 いずれにしても有馬記念に向けてディープが本格的に始動したのは、菊花賞から1ヶ月が過ぎた11月
下旬になってからのことである。6ハロンからの初時計は11月24日で84秒5-40秒2。12月に入ると
1、8、14、17日と6ハロンから時計を出し、そして、最終追い切りが21日の83秒0-39秒2-11秒6
の併せ馬。これでレースに臨むのかと思いきや、23日に再び82秒5-38秒7-12秒4を出す異例さ。
万全を期したといえば聞こえはいいが、体調に問題がなければレースの前々日に再度の追い切りをかけ
るなどのギャンブルに踏み切るだろうか。

 もちろん、私はそんな不安をチラッと考えてはいたが、それでも「もう日本では負けることはない」と断言
したディープインパクトである。迷わず◎を打ったし、レース当日のパドックに心躍らせて向かった。それ
から先は冒頭から書いてきた通りである。2着に負けた大ショックのあとにもらった教訓は、”ディープイン
パクトほどの馬でも体調が整わなくてはレースを勝つことはできない”。”サラブレッドは1年を通して絶好
調ではいられない”ということ。そいいえばこのディープ、もうひとつの敗走も遠征当初にノドの疾患うんぬ
んがいわれた仏の凱旋門賞(3着→のちに失格)だった。

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