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その勝利は、”彼”からのエールだったのかもしれない。
土曜福島7R・ゼットカレンの勝利は、弟弟子である高杉吏麒騎手への。
中山グランドジャンプ・イロゴトシの完勝は、先輩である黒岩悠騎手への。
日曜福島メイン・福島民報杯におけるリフレーミングの快勝は、同期である丸田恭介騎手への。
そして、皐月賞・ジャスティンミラノの劇的勝利は、携わった全ての競馬関係者と、どこか重い気持ちでその戦いを見つめていたであろう、私たち競馬ファンへのエール。
さぁ、またこれだけ強い馬が出てきたぞ。競馬から目を離すな、前を向け。
そんな風に言われているようで、直線ではいつものように歓声を挙げていた。
レースは序盤から火花散る攻防で始まった。
好スタートを決め、ハナを切らんとするほどの勢いで前を目指すジャンタルマンタル。アレグロブリランテやシリウスコルトもそれに続くが、持ち前の前進気勢に任せて内からメイショウタバルが前に出る。
これで勢いが付いたメイショウタバルが刻んだのは、1000m通過が57秒5というハイペース。好天に恵まれ、かなり高速化していた馬場ではあったが、2000mでこのペースはさすがに速い。現状の完成度や能力差がもろに出る流れでレースは進んでいく。
その中を、ジャスティンミラノは好位の外で、コスモキュランダは中団のインで、スタートも含め、序盤でゆったりと入ったレガレイラやアーバンシックは後方で折り合いに専念していた。
そして4コーナー。レースを動かしたのはジャンタルマンタル。
抜群の機動力で位置を押し上げ、早々にメイショウタバルを捉えにかかると、そこから一気に後続を離しにかかる。急坂を上り切る時点ではかなりのリードがあり、押し切りかと思えるシーンもあったが、苦しい中でも牙を研いでいたジャスティンミラノとコスモキュランダが残り100mで強襲。最後は完全に3頭の競り合いとなったが、勝ったのはジャスティンミラノ。前のジャンタルマンタルを捉え、後ろから来たコスモキュランダの逆転を許さず、ねじ伏せるような凄みをもってクラシック一冠目のゴールへと飛び込んだ。
ここまでの2戦はいずれも超スローペースの競馬で、G1特有の厳しいペースへの対応力が課題とされていたジャスティンミラノ。
蓋を開けてみれば、これまでとは真逆の消耗戦でもしっかりと好位から運び、全馬が苦しくなる局面でも大きくラップを落とさずに伸び切るという、高い能力と奥の深さを同時に見せる内容。世代の主役に相応しい強さを見せての勝利だったように思う。
父キズナも、そしてその産駒も、どちらかと言えば厳しい流れのレースで結果を出しているように、血統的には前2戦の内容のほうがむしろイレギュラーだったのかもしれない。今回のペースで勝ち切ったこと、そして刻んだラップの内容から、400mの距離延長が極端なマイナスになるとは思えず、当然ダービーも最有力の1頭だろう。長い直線における切れ味勝負でもすでに結果を出しているだけに、二冠制覇に期待が高まる。
2着惜敗のコスモキュランダは、鞍上のモレイラ騎手の手腕がクローズアップされがちだが、この短期間における馬自身の上昇度も凄まじい。
思えば、父のアルアインも同時期に低レベル決着だった毎日杯から皐月賞本番で一気にパフォーマンスを上げており、本馬の上昇カーブはそっくりだ。父はその後、主に小回り巧者として活躍し、古馬になって大阪杯を制したが、本馬はどのような戦績を刻んでいくだろうか。次に控えるダービーの舞台は、デビュー戦で最下位に終わった苦い経験のある東京コース。血統や戦績から、どうしても父同様の小回り巧者のイメージが強くなってしまうが、今の上昇度でどこまで走れるか。キーホースの1頭として挑むことになりそうだ。
3着のジャンタルマンタルは、これぞ負けて強しという競馬。
速いペースもあってか、ここ数戦に比べると折り合い面はスムーズ。一気に後続を引き離した直線の瞬発力はさすがと思わせるものだったが、残り100mを切った辺りで脚が鈍った。バテバテだったというほどラップを落としているわけではないが、仕掛けのタイミングと本質的な距離適性の差が最後の最後に出たような印象。1600mと2000mならば、どちらかと言えば前者向きであるように思えた。
とは言え、ジャスティンミラノとコスモキュランダとの差は僅かで、後ろにはかなりの差を付けている。世代の中でも総合力上位なのは間違いなく、レースの流れや質が大きく異なってくるダービーも、展開やレース運びひとつでチャンスがあるだろう。目先を変えてNHKマイルカップ参戦の可能性もありそうだが、いずれにしても目を離せない存在になりそうだ。
4着のアーバンシックはいつも通りにゆったりとしたスタートから後方追走。だが、序盤では意外と前進気勢が強く、鞍上が折り合いに苦心する様子が窺えた。
勝負所は勝負所で、4コーナーから直線入口にかけて、モタれるような面を見せて上手くエンジンが掛からない感じに。本格的に伸び始めたのは坂を上りきった辺りからだったように映る。上位馬と比べると粗削り感が強い走りで、色々な部分でまだまだ改善の余地がありそうだ。
いかにも東京向きと思わせる走りでの敗戦だったがゆえに、ダービーでは大きく人気を上げることになりそうだが、あと1ヶ月で完成度の差がどこまで埋まるか。当日の馬場傾向や展開にも大きく左右されそうなタイプなだけに、評価に悩む存在だ。
5着のシンエンペラーは、やや淡白だった弥生賞に比べるとだいぶ上昇。勝負所での手応えには見どころがあった。
それでも直線は内にモタれる感じの走りで、坂を上る頃には前に離され気味。現状の能力差とも考えられるが、個人的にはこの馬こそマイラー質の強い馬であると見ており、厳しいペースのなかで距離適性の差が出たように映る。凱旋門賞馬の全弟という血統イメージが先行しているが、父はスプリンターに近いタイプだっただけに、兄とは少し違ったタイプに出ていても不思議ではないはずだ。
この後は当然ダービーが目標になると思われるが、東京コースに舞台が変わるのは大歓迎でも、さらに距離が延びてどうなるか。そこが本馬にとってキャリアの分かれ目になってくるのではないだろうか。
最終的に1番人気に推されたレガレイラは、スタートから下げる形で後方3番手から。3~4コーナーでは他馬に囲まれて動きにくそうなシーンがあったし、直線では外へ外へ行こうとするアーバンシックに追いやられる形で大きく外を通ることに。しっかりと伸びる雰囲気を感じたのは坂を上り切った辺りからだっただけに、全体的に不完全燃焼感の強い内容だった。
陣営によれば返し馬の雰囲気もあまり良くなく、勝負所から苦しさを出していたということで、体調面で万全でなかった可能性も考えられる。中間の調教時計の出方は素晴らしかったが、見ようによっては時計が出すぎていたと考えることもできる。木村調教師は”調教の失敗”も敗因の一つに挙げていたが、それがどういった失敗だったのか、次走までには精査しておきたいところだ。能力が世代上位なのは間違いないので、次走以降の巻き返しに期待がかかる。
恐らく多くの方がそうだったと思うが、筆者もまた気持ちの面で重さの残る開催だった。
それでも、レースに出ている馬の頑張り、騎手の奮闘、陣営の努力。こうした”全力”を目の当たりにすると、自然と気持ちは熱くなってくるし、応援しようという気持ちにさせられる。自分は競馬が好きなのだなぁと再認識するのだ。
”彼”の兄、藤岡佑介騎手は言っていた。
「競馬を応援してくださるファンの方々の記憶の中に、悲しい出来事として残ってしまうことを康太は臨んでいないと思います」と。きっと”彼”……藤岡康太騎手ならそう考えるのだろう。遺された方々が紡ぐ言葉の一つ一つに、故人の人柄が浮かぶ。
そんな彼が最後の最後まで調教を付けていたジャスティンミラノ。これからも勝ち続けるかもしれないし、時には敗れることもあるだろう。だが、どんな戦績を刻んだとしても、その走りの中に康太騎手がいるという記憶は消えない。その血が繋がれば、さらに後世に語り継がれるだろう。筆者もまた、その一端を担うために全力で競馬を楽しんで行きたいと思う。もちろん、全ての人馬の無事を心から祈りながら。
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