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実家に帰ったら母が電話で誰かと話していた。長いこと話していたが話が終わると、慌ててTVをつけた。
「あぁっ、早くしなきゃ……今日、皇帝が死ぬんだよ!」
一発で韓国ドラマだと分かった。
「誰か! 誰か!」ベッドの上で苦悶の形相を浮かべた“皇帝”らしき人物はひとしきり苦しんだ後、息を引き取った。見守ったのは恐らく側室の一人で、皇帝が苦しむ様子を冷ややかに見下ろし、恨み言を言いながら涙を流している。見れば誰にでもわかる展開を横から母が説明してくれた。
「助けてくれ~って皇帝がお願いするんだけど、この人がや~だよ! って言って死ぬんだよ」
大まかには合っていそうだが、側室らしき女性は“や~だよ”とは一言も言っていないし、何より、結末も終わり方も分かっているドラマを見ることに何の意味があるのだろう(笑)。5分にも足らぬエンディングを見られたことで満足したのか、母は韓国ドラマおなじみの、目上の人に対して両腕を重ねて会釈する独特のポーズで無言の挨拶を私に向けると、いそいそと畑へ出ていった。
実家の近所には老人しかいない。忙しい、忙しいと母は言うが、そして確かに狭い畑を彼女はちょこちょこと歩き回り、毎日毎日作物の手入れをしているが、私に言わせればここは毎日が日曜日の、のどかな村だ。母の井戸端ネットワークでなぜか韓国ドラマが流行っていて、私も時々つきあわされて見るが、時代劇と同じで韓国ドラマの結論は皆同じだ。王宮ものは、不憫な思いをした女性が困難を乗り越えて最後に笑う、というストーリー。前回見せられたドラマの最後を、今回の最後にくっつけても辻褄が合うのでは? と思うくらい話が似ていて、思わず、皇帝が息を引き取った変なタイミングで笑ってしまった。
さて、最後に女性が笑うのは王宮モノの韓国ドラマだが、「女性が強い」といえば競馬だ。そして今週土曜、京都競馬場のメイン競走・葵Sは「女性」関連の金言が勝ち馬予想に役に立つレース。今週の金言を紹介しよう。
曰く「3歳春までは牝馬、夏からは牡馬」。
葵S過去5年、3着以内馬15頭を見ると、60%にあたる9頭が牝馬で、スピード自慢が好走している。3歳戦は夏以降、牡馬のほうが強くなるが、梅雨に入る直前のこの時期までは、まだ牝馬が若干優勢で、このレースも狙うならば牝馬だ。
エトヴプレは3勝馬。桜花賞トライアルのFレビューを逃げ切った快速自慢で、この時レーティングは107。勝てるか否かは判らぬが、今回のメンバーでスピード上位は間違いなく、チャンスだ。
近所の床屋さんに来た作業着姿のおばちゃんが、店先でうやうやしく頭を下げながら、両手を交差して挨拶をしていた。おおかた今朝の韓国ドラマを見たのだろう。そういえば、父もこの世を去り、実家の近所で韓国流の挨拶をかわしているのはおばあちゃんだけで、おじいさんがそうしているのを見たことはないし、そもそも生息数も少ない。
いつの世も女性は最強だ(笑)。
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