週末に行われる中央重賞の過去の優勝馬をピックアップして回顧し、競馬の長い歴史の狭間できらめいた馬を紹介する「中央重賞懐古的回顧」。第48回は2002年の京成杯優勝馬の座を分け合ったヤマニンセラフィムとローマンエンパイアを取り上げる。
ヤマニンセラフィムとローマンエンパイアによる無敗馬対決が繰り広げられた京成杯も、もう21年前の話。すでに年長者の昔話という扱いであろう。2000mへの距離延長以降の同競走としては、これがベストレースではないかと私は今でも思っている。
2002年のクラシックと言えば多士済々のハイレベルという前評判だった。SS全盛期にBTの大物、加えて強豪マル外、そして萌芽し始めた内国産種牡馬と、多彩なラインが混じり合った絶妙な時期がこの2002年だったのだと思う。世代最初の重賞・京成杯(この年は振替開催のため東京芝2000mで施行)も例に漏れず好メンバーが覇を競った。
単勝オッズ1.9倍の1番人気ローマンエンパイアはデビュー戦を大マクリで制し、続くさざんか賞も脅威の末脚で5馬身差圧勝。例年ならば1倍台前半でもおかしくない馬だったが、この年は単勝2.9倍のヤマニンセラフィムがいた。「マル外の天才少女」ヤマニンパラダイスの初仔であるヤマニンセラフィムは、SS産駒の良血馬が集ったエリカ賞を制してデビュー2連勝。大物感ではやはりSS産駒にして葉牡丹賞勝ちのサスガも引けを取らず、この3頭が4番手以下を引き離す評価を得た。
レースはこれもSS産駒のサンデーサンサンが淡々と引っ張り、蛯名正義騎手が鞍上のヤマニンセラフィムは好位のイン。一方武幸四郎騎手が駆るローマンエンパイアは後方の大外を回した。ここまで2走した阪神コースと旧東京コースは勝手が違うとみえ、武騎手はそれまでのマクリの手ではなく直線一気を図った。府中の直線に入ると、まず内からヤマニンセラフィムが抜けだしたが、残り200mほどでローマンエンパイアが並びかける。一度は外の馬が前に出たように見えたが、馬体を併せようとすると内のヤマニンセラフィムがもうひと伸び…ゴールイン! まもなく前を行く蛯名騎手と武騎手は顔を見合わせた。
中央重賞では5年ぶりとなる1着同着決着。2頭の無敗馬は揃って戦績を3戦3勝とした。ローマンエンパイアを生産した中島牧場は浦河の小牧場であり、エイユーギャル(ライデンリーダーが勝った4歳牝馬特別・西の2着馬)で同牧場と縁を得た古川平調教師もクラシック制覇の望みを抱けるような大物に初めて恵まれた。そしてローマンエンパイアはあのサクラローレルの初年度産駒である。SS産駒のヤマニンセラフィムと比較するとスマートさには欠けるが、ダービーを勝つのはこの馬だ。私はそう思った。ここまで読むとなんとなく伝わるかも知れないが、当時の筆者はローマンエンパイアの方に相当肩入れしていた。
前に取り上げたテイエムオペラオーもそうだが、「泥臭いが大物感ある血統」「決して華やかではない人的背景」「着実且つ豪快な脚質」の3要素が揃うと私は好きになっちゃうらしい。しかしながら、1着同着で幕を閉じた重賞の優勝馬2頭の明暗が分かれるというのはよくある話だが、この2頭に関してはその後どちらも故障がちで大成しなかった…悲しいなあ。
ヤマニンセラフィム
牡 栗毛 1999年生
父サンデーサイレンス 母ヤマニンパラダイス 母父Danzig
競走成績:中央6戦3勝
主な勝ち鞍:京成杯
ローマンエンパイア
牡 黒鹿毛 1999年生
父サクラローレル 母ローマステーション 母父Law Society
競走成績:中央25戦4勝 地方1戦1勝
主な勝ち鞍:京成杯
(文:古橋うなぎ)