今回の「馬人」は、新潟大賞典2着のアトミックフォースでエプソムCに挑戦する武藤善則調教師(53)=美浦=を取り上げる。心身ともに充実した時期を迎えた4歳馬。その鞍上には前走に続き、長男の雅騎手(22)=美浦・水野=を起用する。ラインカリーナで制した昨年の交流GII関東オークスに次ぎ、今度は父子タッグでのJRA重賞初勝利に挑む。
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今年でデビュー4年目となった長男・武藤雅騎手を、武藤善則調教師は優しく、時には厳しく見守ってきた。父子タッグでJRA重賞初挑戦となった今春の新潟大賞典。7番人気のアトミックフォースを2着に逃げ粘らせた息子の騎乗ぶりを、父であるトレーナーはこう振り返る。
「雅(武藤騎手)はうまく乗ったと思うし、アトミックフォースも重賞に手が届くところまできた感じだね。後続に脚を使わせる理想的な形だったが、勝ち馬(トーセンスーリヤ)にマークされたぶん、最後は差されてしまったけど」
2017年3月に雅騎手がデビューしてから先週まで、父子コンビでのJRA通算成績は217戦10勝。初Vとなった17年8月19日の新潟5R・2歳新馬戦では、11番人気のノーブルバルカンでファンの度肝を抜いた。
雅騎手自身、昨年はJRA39勝で自己最多記録を更新した。今年も16勝と、順調に勝ち星を伸ばしている。
「最近は雅とレースの話をよくするようになった。結果はもちろんだけど、納得できる競馬をすることが大事。僕も騎手を経験して、30年以上もこの世界で競馬を見ているから伝えられることは伝えたい。まだ足りていない部分も多いけど、重賞を勝つことでさらにステップアップできると思う」
このエプソムCは武藤師が騎手時代の1988年、ニシノミラーで3着に敗れ、悔しい思いをしたという。それから32年、今度はトレーナーとして息子とともに挑む。アトミックフォースと雅騎手のコンビは今回で5戦目。昨秋以降は田辺騎手が主戦を務めていたが「(田辺騎手が新潟大賞典と同じ日の)NHKマイルCに騎乗馬がいたので、以前に騎乗経験があるジョッキーの中からオーナーにお願いして雅を乗せてもらった」と手綱を託した経緯を説明する。
地方重賞では、昨年の交流GII関東オークス(ラインカリーナ)で父子コンビVを決めた。今度は息子のJRA重賞初勝利をアシストしたい。調教師、元騎手、父として、人馬そろっての活躍を心から願っている。(片岡良典)
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■武藤善則(むとう・よしのり) 1967(昭和42)年3月21日、神奈川県出身。53歳。競馬学校騎手課程1期生。86年3月に美浦・黒坂洋基厩舎からデビューし、JRA通算2865戦154勝。重賞は89年GIII金杯(現中山金杯・ニシノミラー)の1勝。2001年に調教師免許を取得し、03年3月に厩舎開業。11日現在、JRA通算4464戦269勝。うち重賞は3勝。地方では19年交流GII関東オークス(ラインカリーナ)で勝利を収めている。