今年は本当に多くのスターホースたちが現役を退いた。 世界最強の座に就いたまま新たなステージへと赴いたイクイノックスをはじめ、逃げという形で観衆を沸かせ続けたタイトルホルダーやパンサラッサ、マイル路線で鎬を削ったソングラインとシュネルマイスター、全盛期の輝きは素晴らしいものだったエフフォーリアなどなど、挙げ始めればキリがない。ただ強いだけではなく、それぞれに明確な個性があり、記録にも記憶にも残る馬たちが多かっただけに、寂しさも大きい。 しかし、その分次世代からスターは生まれてくる。今回ホープフルSを制したレガレイラは、その素質を十分に持った一頭と言えるだろう。 レースはアンモシエラとヴェロキラプトルのハナ争いから始まり、やや制御に苦しむような挙動でショウナンラプンタも前へ行く。ダートからの転戦となったサンライズジパングもこれに続き、内からは人気のシンエンペラーがぐいぐいと強気に押し上げる。彼らの動きによって、極端なハイペースではないにしろ、終始同じペースで息を入れるタイミングも難しい、絶妙なペースが形成されていった。 その中でレガレイラは、やや遅めのスタートから慌てず騒がずじっくりと進めていく。 「気性に若さを残す」と陣営が評する馬ではあるが、今回はルメール騎手の指示に極めて忠実に従っており、3コーナー過ぎからの進出もスムーズ。最終コーナーを回る頃には抜群の手応えで進路を探すだけの余裕があった。 直線では横に馬群が広がったり、抜け出したシンエンペラーが外に大きくヨレたりと、2歳馬らしい荒々しさが表れた攻防となったが、ここでもレガレイラは冷静に大外へと出し進路を確保。あとは手応え通りに前の馬たちを差し切るだけだった。 牡馬相手の中距離G1という決して楽ではないチャレンジを、いとも簡単に乗り越えてしまったレガレイラ。指数的に見るとやや低調なレベルのレースではあったが、本馬は楽な感じで加速ラップを差し切っており、まだまだ奥がありそうな印象を受ける。操縦性も高く、今のところ母のロカや半兄のドゥラドーレスが見せていたような”レースに行って難しい気性”も出していない。スタートが遅いのが少々気になるくらいか。 これで4月生まれの馬なのだから、来春のクラシックの頃には更にもう一段上の成長が見込めるはず。牝馬路線に行くのか、このまま牡馬相手の路線に挑むのか、しばらくは両睨みということになるのだろうが、いずれにせよ目が離せない存在が現れたのは確かだ。血統的にはマイルから長距離まで幅広くこなせる下地があり、十分に王道を歩んでいける適性を持つ馬。独特のローテも含め、常識外の名牝になる可能性は十分に秘めている。 レガレイラの切れ味に屈したものの、2着のシンエンペラーも能力は示した。 この中間、当レースに向けての立ち上げが順調ではなく、追い切り本数も少なくなっていたようだが、レースではそれを感じさせない前向きな走りを披露。直線で完全に抜け出してからソラを使い、派手に外へとヨレてしまったが、こうした気性面の若さは戦前から陣営も課題に挙げており、来春までにこのあたりがどの程度成長してくるかが鍵となる。 レガレイラよりも更に遅い4月30日の生まれだが、この時点で一線級にいることができ、レースでも王道の先行抜け出しで好走してくるあたり、能力はかなり高い。凱旋門賞馬ソットサスの全弟という血統も踏まえると、本馬の可能性も勝ち馬と同等以上と言えるだろう。 血統に加えて陣営も海外志向が強いだけに、本馬もこれまでの固定観念を超えたローテを歩む可能性がありそうだが、果たしてどんな選択がなされるだろうか。 3着には13番人気の伏兵・サンライズジパングが飛び込んだ。 シンエンペラーがヨレた影響をまともに受けてしまい、それがなければ2着もあり得た内容で、人気薄とは思えない堂々とした走りで新味を発揮した。 芝では初戦で結果が出ず、その後はダート路線を歩み、2走前には交流重賞のJBC2歳優駿でも2着に入っている。それだけに、G1の舞台で再度の芝挑戦というのは高いハードルであるように感じたが、結果的には大正解の選択。陣営の慧眼を讃えたい。 父キズナの持つ芝・ダート兼用の適性や、本馬自身が持つ恵まれた馬格がダートで上手く作用していたようだが、母系の血も含めるとどちらかといえば芝要素の濃い血統構成。半兄のグランシエロは青葉賞4着馬なので、芝でもダートでもゆったりと運べる舞台ならば力を出せるのかもしれない。 4、5着にはいずれもキャリア2戦目の馬が飛び込んだ。 4着アドミラルシップはブラックホール、ライラックといった実績馬を兄姉に持つが、ブラックホールは2戦目、ライラックは3戦目とキャリアの浅い段階で重賞を制していた。 本馬も2戦目でG1・4着。兄姉と同等の能力は示しただけに、重賞路線でコンスタントに好走する存在になる可能性はありそうだ。 惜しかったのは5着のミスタージーティー。 手応え十分に最終コーナーを迎え、コースロスを避けてインを狙ったものの、結果的にはこの判断が完全に裏目。直線では十分な進路がなく、直線の大半を追えないまま終わってしまった。勝ち負けに加わっても不思議ないだけの手応えだっただけに、残念な結果だったと言える。 母系はかなり晩成の血統で、そこに父がドゥラメンテならば完成は明らかに来年以降。現時点でこれだけ走れるのならば、来春にはダークホースとして化ける可能性がある。今回の不利があまりにも目立ちすぎているだけに、馬券妙味としては薄い存在になってしまうだろうが、この後の走りには注目しておきたいところだ。