「これほどまでに強いのか」は、2015年の皐月賞馬ドゥラメンテを称えた言葉だ。 4コーナーで大きく外に膨れると、カメラは先頭にズームし、ドゥラメンテは一旦画面から姿を消す。全体を映す引きの画になっても、まだ厳しいかという位置。そこから、残り200mの脚が強烈だった。 フットワークの次元が違う。興奮からか、デムーロ騎手は前を交わす際にクビを左右に振っている。「こんな凄い馬がいるのか」と驚いた。 その時の上がり3ハロンは33秒9。グレード制導入以降、上がり33秒台で皐月賞を勝った馬は、ドゥラメンテとダイワメジャーしかいない。ディープインパクトは34秒0だった。 上がり3ハロンは、ゴールから逆に進路を取り、600mの区間を示す言葉。競馬新聞の馬柱にも記載され、メジャーな部類に入る競馬用語だ。一般的に、単に上がりと言えば、上がり3ハロンを差している。 競争馬の能力を図るひとつの指標であり、予想ファクターでもある。厄介なのは馬場やコース、距離やペースで、その性格を変えることだ。 上がりを出しやすい、上がりを出しにくい状況がある。なので、前述した皐月賞の上がりだけを吟味し、ドゥラメンテはディープインパクトより上とは当然言えない。 そもそも、なぜ上がり3ハロンなのか。プロの予想家には、上がり2ハロンを重視する方もいるし、競馬関連の記事を読むと、後半4ハロンや5ハロンの記録を採用し、過去の事例と比べていたりする。 便宜上の区分なのだろうか。ただ、その一面から競走馬間の優劣を考えるとき、有効に機能するのだから無下にはできない。 前段が長くなったが、JRAの上がり3ハロン史上最速は31秒4。 この数字を記録したのは2頭、ルッジェーロとリバティアイランドだ。 ルッジェーロは新潟芝1000mで、道中は16頭立ての最後方だった。5着に終わっており、評価を与えづらい。 対するリバティアイランドは新潟芝1600mの新馬戦、道中は12頭立ての7番手だった。1000m通過63秒8と緩く、逃げた3着馬さえ上がり3ハロン32秒5。 ペースが緩い・直線が長い・馬場が軽いという、上がりが出やすい状況が整っていた。 とはいえ、上がり2位を0秒7上回り、着差のつきにくい展開のなか、番手から2着の馬を3馬身も離している。 レースの上がり3ハロンは10.9-10.2-10.9。リバティアイランドは10.2の区間で前を交わした。一体、自身はどれだけ速いラップを踏んだのか。 新潟の新馬戦には、毎年のように目を引く上がりを使う馬が出現するが、そのなかでも間違いなく異質な速さだった。 その後の活躍は言わずもがな、追い出しの遅れたアルテミスSこそ2着も、暮れの阪神JFを勝ち、翌年は牝馬三冠を達成する。 桜花賞の上がり32秒9はレース史上最速タイ、オークスを勝った際は「これほどまでに強いのか」と、父と同じ賛辞を贈られた。 戦歴が彩れば彩るほど、過去の数字も価値を強める。今後同様の水準で新潟マイルを勝つ馬が出れば「リバティアイランドの再来」と騒がれるだろう。 やはり上がり3ハロンは馬鹿にできない。何かと何かを比較し、正しく序列付け行うことは、的中への近道でもある。 第二のリバティアイランドは、現れるのだろうか。