重賞おさらい2024年9月1日
【有馬記念2023】重賞レースおさらい帳 不屈のダービー馬、レジェンドと共に復活! ドウデュースが有馬記念を制覇
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執筆者:霧
ウマニティ公認プロ予想家。レース研究で培った独自の血統イメージに加え、レース戦績や指数等から各馬の力関係・適性を割り出す”予想界のファンタジスタ”。23年1月、長年の活躍が認められ殿堂プロ入りを果たす。
2強対決や3強対決、多くて4強対決辺りまでは目にしたことがあるような気がするが、それなりに長くなった筆者の競馬歴の中でも、”G1で7強対決”というのは記憶にない。

ジャスティンパレスドウデューススルーセブンシーズソールオリエンスタスティエーラタイトルホルダースターズオンアースの7頭がほとんど差のない単勝オッズで並び、予想段階で何度目眩に襲われたか分からない。とにかく難しい。そんな有馬記念であったように思う。

しかし、視点を変えればこんなに贅沢な話はない。
天皇賞(秋)ジャパンカップと圧倒的な存在感を発揮したイクイノックスが現役を退いてもなお、これだけの強者達が残り、同じレースに集い、その戦いを見られたのだ。この時代に生き、楽しく競馬を観ることができている。それは最高の喜びだ。色々な方面に感謝せねばなるまい。

レースの盛り上がりも最高だった。
大外枠を引き、その戦法が注目されていたスターズオンアースが1頭抜けた好スタートを切り、鞍上のルメール騎手が逃げる勢いで前へ前へと押し上げる。”神騎乗中の神騎乗”と言われた菊花賞ドゥレッツァを彷彿とさせるような強気の運び。最早魔法とも言っていいほどの騎乗で、あっという間に大外枠のロスを帳消しにしてしまった。
しかし、黙っていなかったのはここがラストランだったタイトルホルダー
全盛期の姿からすると初速こそ見劣ったものの、鞍上の横山和生騎手が迷いなく押していき、馬もそれに応える。そのまま後続を少しずつ離す”これぞタイトルホルダー”というレースぶりで、ゴールだけを見据えて逃げ続ける。
他の有力馬に目をやると、タスティエーラソールオリエンスの3歳2騎は中団後方で虎視眈々。スルーセブンシーズも同じような位置にいたが、明らかに力み気味の走り。鞍上が折り合いに苦労する姿があった。ドウデュースジャスティンパレスはやや出負け気味のスタートもあって後方から。ドウデュースは相変わらず強い前進気勢のある走りで、どうにか我慢させつつ。ジャスティンパレスはコースロスを嫌ってか、腹を括った最後方待機策に打って出た。

そして3コーナー過ぎにレースは動く。
後方にいたドウデュースが凄まじいまでの機動力をもって外目をマクり上げていく。
それに呼応するように他馬も動き始めるが、タイトルホルダーを射程に入れて追撃できたのは真っ先に動いたドウデュースと、2番手で進めていたスターズオンアースのみ。勝負は3頭に絞られた。
最後の戦いで魂の粘りを見せるタイトルホルダー、内にモタれながらも鞍上と共に少しずつ差を詰めるスターズオンアース、ロングスパートで苦しい中でも伸びることをやめないドウデュース。三者三様の意地のぶつかり合いだったが、それを制したのはドウデュース。ゴール後僅かに挙がった武豊騎手の右手が、激戦の勝者をアピールしていた。

勝ったドウデュースは、ここが秋シーズンの3戦目。
近年では皆勤する馬すら少なくなった秋古馬三冠に全て挑み、最後の最後で栄冠を勝ち取った。
春のドバイ遠征での出走取消、武豊騎手の負傷、宿敵イクイノックスの本格化等で苦しい戦いを強いられたシーズンだったが、それに屈せず最高の走りを発揮した馬自身や陣営の力は見事。ここ2走で代打騎乗していた戸崎騎手が、馬の良さや闘争心を殺さずに武騎手へと繋いだのも大きい。
道中の挙動を見ると今回も前進気勢は強く、よく2500mを伸び切ったと思える内容。能力の高さがあるのは勿論だが、小回りのコース形態で持ち前の機動力が最大限に生きたのも勝因だろう。
ダービー馬という勲章に加え、父が広いコース向きのハーツクライということもあり、どうしても東京向きというイメージが先行してしまうが、今回見せた3~4コーナーにかけての押し上げ方は完全に小回り巧者の走り。有力馬の中でも特に中山コースがプラスに働いた1頭だった。
本質的にはマイル〜中距離がベストと思われるだけに、今後は別路線での活躍も期待したいところだが、陣営の最大目標はやはりフランス・凱旋門賞にあるようだ。天候や馬場状態によっては完全に別物へと変貌してしまうレースなだけに、適性云々を語るのは難しいが、今回の走りが示すように、見ている者を熱くさせ、関係者の夢も背負える存在。もし再挑戦が実現するようであれば、いちファンとして心からのエールを送りたいところだ。

2着には大外枠の不利を跳ね返したスターズオンアースが飛び込んだ。
前述したようにルメール騎手の手腕が素晴らしいのは勿論のことだが、かつてはスタートで遅れがちな馬だったことを考えると、本馬自身の成長度も相当なもの。位置確保のために序盤に脚を使い、ベストとは言えない右回りで終始内にモタれ気味の走りになっていたことを踏まえれば、負けて強しという言葉がぴったりだろう。
来年以降も一つ下のリバティアイランドをはじめ、強いライバルが揃っているが、中長距離路線ならば簡単には崩れそうにない。東京などの左回りであればなお安定するだろう。

3着は最後まで自分の走りを貫き通したタイトルホルダー
ハナに行くまでに要した時間の長さから、やはりピークアウト気味だったのは間違いないだろうが、引退式における横山和生騎手の言葉を借りれば、行き切って後続を離していく姿は本当にカッコ良かった。
スタミナや末脚の持続力という点では近年でも屈指の存在だったのは間違いないし、早逝した父ドゥラメンテの貴重な後継者。その血に掛かる期待は大きく、どんな産駒がデビューしてくるのか今から楽しみだ。
凱旋門賞における惨敗や、天皇賞(春)における競走中止など、イメージよりもずっと波乱万丈のキャリアを歩んでいた名馬。その都度立ち上がり前を目指した馬自身、そして携わった関係者の方々には、素晴らしい走りを見せてくれてありがとうという感謝の気持ちしかない。本当にお疲れ様でした。

4着には後方からジャスティンパレスが追い込んだ。
スタートにおけるロスや道中の位置取り、そしてベストとは言えない中山コースと、色々な要素が試練のように襲ってきたレースだったが、それでもここまで押し上げたあたり、やはり馬は相当に強い。
広いコースや今年勝ち切ったのと同じ舞台に戻れば巻き返す可能性は高いだろうし、兄アイアンバローズが6歳になってもパフォーマンスを落としていないように、本馬も息の長い活躍が期待できるのではないだろうか。同期のドウデュースと共に、来年以降も中長距離路線を引っ張る役割を担い続けるだろう。

5着シャフリヤールは近走内容や香港取消直後という臨戦過程が嫌われてか、人気はかなり離されていたものの、ダービー馬としての意地を感じる伸び。存在感を十分に示した。
海外の様々なレースに挑戦し続けているために国内では評価の難しい存在だが、走りやすい良馬場でさえあればまだまだ一線級の能力を維持しているという印象で、条件の揃ったレースでは警戒が必要そうだ。

次代を担う3歳勢は、タスティエーラが6着、ソールオリエンスが8着と古馬の壁に跳ね返される結果に。
だが、いずれも4コーナー~直線にかけてかなりタイトな位置を走る格好になっていた上、タスティエーラに関してはジャスティンパレスに前に入られて挟まれる不利があり、ソールオリエンスは内にモタれ気味の走りで末脚が上手く点火していない感じに。悲観するほどの差はないように思えた。これから更に成長していくはずの2頭なだけに、来年の初戦でどんな走りを見せるか注目したいところだ。

宝塚記念凱旋門賞で好走し、人気の一角を担ったスルーセブンシーズは12着と厳しい結果に。
枠順抽選会で池添騎手が表情を曇らせていたように、そもそも難しい枠であったし、馬自身も具合が良すぎたのか最初からエキサイトしていたような走りだった。
前2走は上手く抑えて末脚に転化できていたが、元々こうした気性が顔を出すことのあった馬でもあり、2500mという距離も結果的には長かったのかもしれない。クラブの規定により残す現役生活は短く、この後の進路が気になるところだが、条件さえ整っていれば巻き返しがあっても何ら不思議はないはず。果敢な挑戦で今年の競馬を盛り上げてくれた1頭であるのは間違いないところなので、最後にもう一花咲かせて欲しいものだ。

普段よりも長い回顧となってしまったが、正直なところまだ余韻が抜けない。それだけ筆者にとっても印象深い有馬記念だったのだろう。
全ての出走馬の走りと陣営の努力、そうしたものを心に刻み、今年最後の開催日に挑むこととしたい。
本当に素晴らしいレースだった。

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