とことん魅せてくれる馬だ。 春シーズンは不本意な結果に終わったドウデュースが、ラストランを控えた最後の秋初戦で豪脚を披露。4つ目のG1タイトルを獲得した。 難しい枠の並びから1コーナーまでに各鞍上の思惑が交錯するが、ホウオウビスケッツがハナを取り切ってからは一転穏やかな流れに。1000m通過が59秒9というのは、G1としてはかなりのスローペース。道中の隊列も直線に向くまでほとんど変わることがなかった。 こうなれば、一番楽なのはマイペースを刻んだ逃げ馬。その中でも終い勝負に耐え得る瞬発力を備えたホウオウビスケッツは、切れ負けせずにジリジリと後続を離しにかかる。 好位の外に陣取っていた人気のリバティアイランドが満を持してこれをとらえにかかるが、良好に見せていた手応えの割に全く伸びがない。 その間隙を縫ったタスティエーラが外から進出を図るが、その外から猛スピードで迫り、並び、あっという間にかわし去っていったのがドウデュースだった。 道中後方2番手という位置取りで溜めに溜められたエネルギーを一気に放出するような末脚は、あのイクイノックスを抑えた日本ダービーを彷彿とさせるもの。距離こそ違うが、同じ東京競馬場で改めてその存在感をアピールすることとなった。 これで4年連続のG1制覇となったドウデュース。 1600m、2000m、2400m、2500mと全て違う条件でタイトルを積み重ねたというのは偉業中の偉業。今回の勝利で種牡馬としての価値もさらに上がったはずだ。 あまりにも切れすぎる末脚ゆえにその持続時間は長くなく、脚の使い方で結果が大きく変わる馬。今回はスローの流れで固まった馬群になり、なおかつスムーズに折り合えて運べたのが非常に大きかった。 続くジャパンカップではまた違う流れになることが予想されるし、海外勢のゴリアットやオーギュストロダン、国内勢からもドゥレッツァやチェルヴィニアといった強敵が加わる。 これまでの戦績が示す通り、チャレンジャーとしての立場のほうが強さを発揮する馬なだけに、迎え打つ立場となってどんな結果を残すだろうか。 泣いても笑ってもその走りを見られるのはあと2戦。その勇姿をしっかりと目に焼き付けておきたい。 2着には1歳下のダービー馬タスティエーラがしぶとく伸びて入線。復活の狼煙をあげた。 この中間はカイ食いがいいとの情報通り、春から大きく馬体を増やしての出走。 追い切りでも同厩のダノンベルーガをあおり続けていたように、状態面が相当に上がっていたと思われる。 そもそも春の大阪杯では明らかに能力以外が敗因と思われる負け方をしており、そこから短い間隔だった天皇賞(春)では調整がかなり難しかったと思われる。 そこで無理せずリセットしたことが今回の好走に繋がった印象で、これが本当の姿だろう。距離適性の幅も広いだけに、この後の大レースでも侮れない存在になってきそうだ。 3着には逃げたホウオウビスケッツが粘り切った。 近い脚質のノースブリッジがスタートで後手を踏み、シルトホルンも外枠で位置を取りにくかったため、予想以上に楽な形でハナを切れたというのは大きかったが、それでも並み居る切れ者たちを抑え込んだのは立派。この夏に見せた上昇度は本物だった。 元々6月生まれで本格化はかなり遅くなると見込まれていた馬。ここからもう一段上の成長を見せる可能性もあり、今後もレースの展開の鍵を握る存在になってくるだろう。 一方、ドウデュースと人気を分け合う形だったリバティアイランドとレーベンスティールはそれぞれ13着と8着。共に大きく人気を裏切る格好になってしまった。 リバティアイランドはレース前からテンションの高い面が見受けられ、レースでは1コーナーまでに内に入ることができず、終始外々を回る形を強いられた。 ペースを考えると絶好位を確保しているように見えたが、追い出してから反応が全くなく、ズルズルと後退するばかり。これまで一度も”伸びなかったことがない”存在だっただけに、ショッキングな光景だった。 故障による休み明けの影響、大きく増えた馬体重、序盤からのロスと敗因はいくつか考えられるものの、見た目には手応えがありそうな状態からの失速。少々心配になる負け方だ。 が、これまでのイメージとはあまりにも異なる崩れ方なだけに、能力以外の部分に敗因がある可能性が極めて高く、しっかりと立て直されれば一気の浮上があっても不思議ないとも言える。そうした急浮上も可能なレベルの馬なだけに、反撃を期待したいところだ。 レーベンスティールは外枠が災いして1コーナーから苦しい入りに。その後他馬に寄られたことで、更にロスが拡大。馬自身もこのアクシデントで折り合いを欠くなど、序盤をスムーズに乗り切れなかったのが最後まで響いた。 ここ数週のルメール騎手の神がかった騎乗もあって人気を集めていた印象だが、同世代のタスティエーラやソールオリエンスと比べて図抜けたパフォーマンスを発揮した経験はまだなく、やや過剰人気だった感は否めない。 それでも、これまでの走りから世代上位の能力を秘めているのは明らか。ドウデュースには現状の力差を見せつけられた格好だが、まだ4歳で上昇の余地は大きい。仕切り直してどこまでやれるか、次走が試金石になるかもしれない。