近年、予想していると「オッズが渋いなぁ」と感じることが増えた。 作業する中で見つけた穴馬を「しめしめ」といった気分で確認すると平気で上位人気に推されていたり、「美味しいとこで決まった!」と思ったら、締切直前にガッツリと買われていて旨みが半減したり……といった具合にだ。 今回のエリザベス女王杯も、そうした感覚があった。 一番人気に推されていたブレイディヴェーグの単勝オッズは、他馬よりも頭一つ抜けた2.4倍。 戦績だけ見れば”重賞未勝利かつクラシック不出走の3歳馬”であり、他馬との力関係も未知な部分が多々。筆者は割と早い段階でこの馬を評価してはいたが、正直なところ戦前は「3~5倍はつくかな、ふひひ」などと邪な推測をしていた。それが蓋を開けてみればこのオッズである。競馬ファン全体の予想技術の向上を実感させられる結果となった。 こうした、見方によってはやや過剰とも思える人気を集めたのは、ブレイディヴェーグのスケール感や能力の高さといったものが、未知の要素という些細なものを打ち消すほどに溢れ出ていたからだろう。 現状唯一の弱点と言えるスタートの遅さも、ルメール騎手がすぐさまカバーして道中は絶好の位置。序盤こそ走りに力みが見られたが、中盤を迎える頃にはしっかりと折り合いも付いていた。 これまで後方からの競馬が多かっただけに、距離延長で好位から運んでどうかという懸念はあったが、直線で追い出させてからの伸びはこれまでと同等。非常に綺麗な競馬での完勝だった。 デビューしてから骨折を繰り返してきた馬で、体質もまだ安定していないということを考えれば、ハイレベルだったローズS後に秋華賞を自重するという選択は、正に陣営の英断。中間の追い切りの動きが示す通りに、不安のない体調で臨めたのは大きかったはずだ。 しかし、レースレベルとしては例年よりもやや低調。微妙な降雨で見た目以上に力を要する馬場となり、距離の長さも相まって、タフな条件と化したのが影響したのかもしれない。 ブレイディヴェーグも、これまでが非常に軽く時計の速い馬場で結果を出してきた馬なだけに、正反対とも言える条件でも押し切れたのは地力の差か。速い馬場のマイル~2000mであれば、より高いパフォーマンスが発揮できるように思う。 2着のルージュエヴァイユは、序盤でかなり力む面を見せていたが、そこで徹底してインコースを確保しながら抑え切ったことが最後の伸びに繋がった。 発馬や道中の挙動に課題を抱える馬ながら、今年に入ってからは明らかにレースレベルが一段上がっており、牝馬路線や混合G3クラスであれば安定して勝ち負け可能な水準に達している。さすがにG1となると更なるステップアップが必要だが、重賞ウイナーになる日は着々と近づいている。 3着のハーパーはやや低調と思えた秋華賞の内容から大幅にパフォーマンスを上げた。 距離延長やタフな馬場を苦にしない血統も効いたが、鞍上の川田騎手の絶妙な位置取りもさすがと言えるものだった。 こちらは前述の上位2頭よりも中長距離色が濃く、今後の進路がどのようなものになるか注目されるが、G3級のメンバーで2000m超の舞台であれば極端な大崩れはなさそう。半姉のヴァレーデラルナがダートで活躍していることから、舞台を変えて新たな挑戦をしてくる可能性もあるのでは。 ここまでに挙げた3頭は道中ぴったりとインコースのラチ沿いを確保していたが、4~7着のライラック、ジェラルディーナ、サリエラ、ディヴィーナは枠や出遅れもあって終始外目を回る形となり、直線に向くまでのロスがかなり大きかったように映る。 それでも最後はそれぞれに伸びてきており、力は示した格好。着順ほど能力に差はなさそうで、条件や展開が変われば巻き返してくる可能性は十分にあるだろう。 しかし、悩ましいのはジェラルディーナ。 元々気性面に難しい部分のある馬だが、レースに行っての出遅れが悪化しているように映る。 今回はムーア騎手の手腕もあって善戦まで持ち込んできたが、気持ちの面で徐々に後ろ向きになっているように思えてならない。基礎能力の面では大きな衰えは見られないだけに、予想する側としては付き合い方が非常に難しい馬になってしまった。