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競馬の世界で誰もが夢焦がれ、生涯目指し続ける日本ダービー。2021年に誕生した7906頭(国内7737頭、輸入外国産馬169頭)のサラブレッドから出走のチャンスを奪取した18頭の生産者も5月26日の本番に胸を高鳴らせている。
〝あの子馬が晴れ舞台に立つ〟〝とにかく無事に〟。それぞれのドラマを乗り越えてきたわが子に北の国からエールが届いた。
ダノンデサイルとショウナンラプンタを送り出す北海道千歳市の社台ファームの思いとは――。(取材構成・鈴木学)
◇
皐月賞のゲートイン直前にそれは起こった。何かのトラブルなのか発走時刻が遅れている。その後、ダノンデサイルの競走除外がアナウンスされた。理由は右前肢跛行(はこう)。
「状態がとてもいいと思っていたので、がっかりしましたね。なんでこんなことが起きるの?って…」
社台ファームの吉田照哉代表が〝悪夢〟を振り返る。16番枠に入るはずだったエピファネイアの息子が不在のまま皐月賞のゲートが切られた。3頭出しから2頭出しとなった社台ファームの生産馬はジャンタルマンタルの3着が最高だった。もし京成杯を直線外から豪快に差し切ったダノンデサイルが無事に出ていたら…。関係者にとって、そう思ってしまいたくなるアクシデントだった。
「あとで皐月賞の録画を見たら、トモ(後肢)の送りが本当じゃない感じでしたね。でも一過性のものでよかった。あそこで無理して競馬を使わなかったのも良かった。そのあと、すごく具合がいいと聞いていますから」
生まれたときから見栄えのする立派な体で、2歳になって牧場で調教を初めてからも期待の大きさは変わらなかった。「体が良くて将来性があると思っていましたよ。母(トップデサイル)はBCジュベナイルフィリーズで追い込んで、ちょっとだけ届かず2着。ゴールを過ぎてから突き抜けていたので勝ちに等しい馬です。2歳の子(父イスラボニータ)もすごく走りそうですよ」。その母にしてこの子あり。しかもダノンデサイルの父は、3冠牝馬デアリングタクトや皐月賞、天皇賞・秋、有馬記念のGⅠ3勝馬エフフォーリア、今年の桜花賞馬ステレンボッシュなど産駒が大レースに強いエピファネイア。2022年のセレクトセール(1歳)にて(株)ダノックスに1億3500万円(税抜き)で落札されたのも当然といえる結果だった。「よく走る種馬ですよね」と照哉さん。
ショウナンラプンタの父キズナも産駒の活躍が目覚ましい種牡馬。今年の皐月賞を制したジャスティンミラノも同じく2013年の第80回日本ダービー馬なのだ。
「キズナこそ今年(の3歳世代)は当たり年かな。うまくハマったんじゃないかな」。ショウナンラプンタを管理する高野友和調教師は入厩当初、同じ厩舎のジャンタルマンタルより「上のイメージ」だったという。ところがセンス抜群のジャンタルマンタルより口向きに難しいところがあり、青写真通りにはいかなかった。そうはいってもデビュー4戦目で2勝目を挙げ、続く青葉賞で長くいい脚を使い勝ち馬シュガークンに際どく迫ってダービー行きの切符をつかみ取ったのだから、2022年のセレクトセール(1歳)で9400万円で落札されたのはだてではなかった。
「青葉賞を見て、だんだん良くなってきているというイメージですね」
社台ファームの生産馬が初めてダービーを制したのは1986年。社台ファームの土台を築いたと言っても過言ではない大種牡馬ノーザンテーストの子、ダイナガリバーだった。照哉さんにとって最も印象的なダービーでもある。「(社台ファームの創始者である)おやじ(吉田善哉さん)が泣くほど感動していたので、僕もすごくうれしかったのを覚えています」
その後、生産界のガリバー的存在となり、95年にタヤスツヨシ、2000年にアグネスフライト、03年にネオユニヴァーズ、10年にエイシンフラッシュがダービー馬に輝いた(96年のフサイチコンコルドも生産名義は社台ファームだが、実質的な生産者はノーザンファーム)。だが、栄光のダービーの軌跡はエイシンフラッシュで途絶えている。
「ははは」。大きな声で笑い飛ばした後、「あまりうれしくないけど…。感想は別にないよ」。少しだけ見せた本音とプライド。「一昨年が3着(アスクビクターモア)で、昨年が2着(ソールオリエンス)だから『今年は1着だといいな』と言っていますけどね」
昨年の2着は牧場にとって、歯がみをするほど悔しい2着だったに違いない。無敗で皐月賞を制して単勝オッズ1.8倍という圧倒的人気を背負いながらクビ差届かず2着。「競馬だからしようがないけど、うまくいけば勝ったかもしれないとは思いますよね」。
照哉さんにとってダービーとはどのような位置付けなのか。
「もちろん、目標です。冷静になって考えれば3歳春のクラシックは牧場での育成から間がないので、牧場で育てた成果が反映するレースでもあり、3歳春での完成度を競うレース」。それだけに勝てば牧場スタッフの励みにもなる。
今年のクラシックからディープインパクト産駒は不在。「どこから(どの種牡馬からダービー馬が)出てくるか分からないから面白い。2頭とも状態がうまく上がってきちっと実力を発揮できれば勝ってもおかしくないですよ」
一昨年3着、昨年2着と来て…。ホップ・ステップ・ジャンプを決めて、14年ぶりの栄光が訪れるのか注目だ。
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