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「え、えええ???」
弥生賞ディープインパクト記念のゴール後、こんな反応をしてしまったのは筆者だけではないだろう。そこそこ長くなった競馬歴の中でも、かなり上位と思わえる”訳の分からなさ”が、目の前の結果にはあった。
オッズは4強体制だった。
既にG1で結果を残していたシンエンペラーと、底知れぬ勝ち方で連勝中だったダノンエアズロック、トロヴァトーレ、ファビュラススターがほとんど横一線の人気を集めていた。それぞれがここまでに大物感のあるレースをしてきており、下位人気の馬たちとはスケール感の面でかなりの差があるように感じたのは確かだ。この中の誰かが勝つ……そうした想いを反映した人気順であったように思う。
しかし、その評価は伏兵のマクりによってあえなく霧散することになる。
コスモキュランダ。6番人気のこの馬が打った勇敢な押し上げが、レースを大きく動かした。直線に向いてもなお衰えない彼の末脚の前に、人気上位馬たちはついていくことすらできない。追われて追われて最終コーナーを乗り切ったシンエンペラーだけが前を目指したが、並ぶことすらできず。終わってみれば完勝と言っていい結果だった。
勝ったコスモキュランダはここが7戦目。ビッグレッドファームの出身らしく、実戦で叩かれ叩かれ成長してきたが、デビュー戦は勝ち馬から5秒近く離された最下位に終わったほどの馬だった。
それから逃げに近い先行策に目覚めて未勝利戦を勝ち上がったが、今度はゲート難が顔を出す。昇級後の2戦は特にその難しさが出た内容で、今回の人気上位馬たちの綺麗な戦績と比べると、印象点が悪くなるのは仕方のないところ。恐らくだが重賞制覇した今となってもなお、人気を集めにくい馬だろう。
それでも皐月賞を見据えた時、本番と同じ舞台で2戦続けて2分を切るタイムで走破しているというのは紛れもない事実。世代の中でもかなり高いレベルの物差し馬であるシンエンペラーを下したというのも大きい。
思えば父のアルアインも、皐月賞において9番人気という低人気を覆した馬。そんな父にとって、産駒の重賞初制覇がこうした伏兵によるものだったというのは、ある意味”らしい”結果と言える。父はそれからも中距離路線において一線級の走りを続けたが、本馬はこれからどのような戦績を刻むだろうか。能力の序列もはっきりしていない現状だが、今回の勝利は皐月賞の後に真の評価が定まることになりそうだ。
人気馬の中で唯一意地を見せたのが、2着のシンエンペラー。
道中はインからロスの少ない運びを見せていたが、勝負を分けたのは機動力。コスモキュランダが動いた3コーナー以降、本馬も含めた他馬も追う構えを見せるが、その中でも本馬は特に鞍上の手が大きく動いていたにも関わらず、そのアクションに見合った押し上げを見せることができなかった。こうした不器用な面は以前から見せていただけに、本質的にはコーナーが緩くて直線も長い、いわゆる大箱コースのほうが走りやすいのかもしれない。
とは言え、賞金を十分に有する本馬にとっては、ここは試走感が強かったはず。皐月賞、そしてその先のダービーに向けて仕上がり具合も上げてくるはずで、ひとまずは及第点といったところか。
3着のシリウスコルトは、初の逃げの形でも結果を残してみせた。
これまでは差しに構えることが多かったが、以前から鞍上がゆったりした走りをする馬という評価をしていた馬。マイペースの逃げが叶ったことで、長所が存分に活きる格好になった。
前走のホープフルSでも6着に飛び込んでいるように、勝ち馬と同等、もしくはそれ以上に地味なイメージがあるが、着実に力は付けている。血統的にはダートを走っていても不思議なさそうで、今後も様々な舞台での活躍が期待できるのではないだろうか。
一方、無敗の戦績を引っ提げていた人気馬たちは、あまりにも脆かった。
ダノンエアズロックは序盤から行きっぷりが良すぎるくらいで、体調自体は悪くないように映ったが、直線を向く頃には完全に余力がなく、手前も替えていなかった。
前走からさらに増えた馬体がさすがに重すぎた、右回りや中山が合わなかった、距離が長い、神懸かっていた昨秋のモレイラ騎手の騎乗後だった等々、敗因候補はいくつも挙げることはできるが、どれも断定することはできない。筆者の受けた印象では、舞台適性と距離適性が大きな敗因であるように思えるが、今後のレース選択とそこで見せる走りで、ある程度の答えが出るように思う。
トロヴァトーレは1コーナーに入るまでにかなりエキサイトした走りを見せていたが、それ以降は落ち着きを取り戻したように映った。それでもダノンエアズロック同様、勝負所での手応えは完全に劣勢で、それまでに見せていた切れを思うと物足りない内容だった。
鞍上は3~4コーナーにおける馬場の悪さを敗因に挙げていたが、1コーナーまでのエキサイトぶりを見ると、これまでのソフトな調教内容とは時計の出方がだいぶ違う、かなり攻めた感じの追い切りを施したのもマイナスに出たかもしれない。血統的にも半兄のライツフォルや近親のリューベック、フリームファクシがいずれも気性的にマイル近辺に高い適性を示していることから、本馬も本質的にはマイル寄りの馬なのかもしれない。
ファビュラススターは前走時に見せていた右回りへの不安が、レース中に増大。終始紙一重の走りで鞍上が制御に苦労していたし、直線では早々にモタれて前走以上にまともに追えず、ムチを入れることもできないでいた。走る毎に難しさが表に出てきている印象で、モタれる癖は右回りでも左回りでもお構いなし。調教では素晴らしい時計を刻んでおり、素材の良さは間違いないのだが、それを遥かに超える難しさも持つ。どのように立て直し、どのようなレース選択をしてくるのか、陣営の手腕が相当に問われそうだ。
レース自体は見た目にもスローな流れに映り、なおかつ馬場の悪さを敗因に挙げる陣営もあった中、走破時計はレースレコード。前述した人気馬の無抵抗ぶりも含め、なんとも不思議な感覚が残るレースだったが、これが皐月賞にどう繋がっていくのだろうか。現状、筆者の頭の中にはハテナマークが無数に飛び交っている。
○霧(きり)プロフィール
ウマニティ公認プロ予想家。レース研究で培った独自の血統イメージに加え、レース戦績や指数等から各馬の力関係・適性を割り出す”予想界のファンタジスタ”。2023年1月には、長年の活躍が認められ殿堂プロ入りを果たす。
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