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GIメモリアル ~朝日杯フューチュリティステークス 2010年への序章~

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GⅠメモリアル ~1990年 朝日杯3歳ステークス~

 オタク気質の人間というのは、得意分野において自分より知識や経験の豊富な人間の存在をあまり好ましく思わないものだ(仲良くなってしまえば別だけど)。自分がいちばん詳しい人間でありたい。聞いてくれる人がいたら、知識をひけらかしたい。「すごいね」と一目置かれたい。そんな願望や欲求に満ちている。
 その傾向は若いころほど顕著。とくに同じ趣味を持つ同級生や年下に遭遇した際は、急にライバル心を燃やしたりする。鉄道好きの小学生が集まり、ひとりが「俺は○○線の駅名を全部言えるぜ」と自慢すれば、別のひとりが「俺は○○線が」となる。ひとりが「○○線に乗ったことがあるぜ」と言えば、別のひとりが「俺なんか○○線に」という具合に対抗する。
 小学生なんて知識も経験も浅いくせにプライドだけは高いから、対抗するネタが尽きるとウソが飛び出すこともしばしば。行ったこともないのに「俺は○○に行ったことがある」と言ったり、乗ったこともない電車に「乗ったことがある」と言ったり。子供のころは友人の出まかせを何度も聞いたし、負けたくないあまりに自ら適当なことを言ったりもした。

 小学生時代、競馬が話題にのぼることは皆無に等しかった。おそらく、毎週せっせと見ていたのはひとりだけだったと思う。間違いなく同じ小学校には、自分より競馬に詳しい人間はいなかった。
 中学生時代は一転、競馬のことを口にする友人が増えた。空前の競馬ブームに突入しかけた時代だったこともあり、競馬の知識を持っていると、カッコイイと見られる風潮も若干ながらあった。ただそれでも、聞こえてくるのはGⅠ関連の話ばかり。訳知り顔で語る者もいたが、誰も彼も初心者の域は出ていなかった。
 条件馬も守備範囲に入っている俺からすれば、カワイイもんだな~。
 そこにはいつも、超上から目線で内心つぶやく自分がいた。いま思うと、本当に嫌な中学生である。

 状況が一変するのは、高校生になってからである。入学して間もないある日の休み時間、廊下を歩いているとこんな会話が聞こえてきた。
「春天はスーパークリークで間違いねぇな」
「へぇ、そうなんだぁ」
 見たことのない顔がエラそうに天皇賞の見解を述べている。話を聞いているのは、同じクラスのS本だった。どうせ素人だろうと思いながらも、近くで競馬の話をしている連中を見過ごすわけにはいかない。競馬オタクの闘争心に完全に火がついてしまい、いても立ってもいられず会話に入り込むことにした。
「ま、イナリワンとの一騎打ちでしょ」
 その瞬間、見知らぬ顔から鋭い視線が向けられた。その顔にはハッキリと、「知ったかぶってんじゃねぇ」と書いてある。どうやら抱いている感情はお互い一緒の様子。自分より競馬に詳しいヤツがいるわけがない! 向こうも自意識過剰の競馬オタクだったのだ。
 これが、その後に濃ゆーい競馬鹿青春時代をともに過ごす、H田との出会いだった。聞けばS本とH田は同じ中学出身で、その中学校では競馬がものすごく流行っていたそうなのである。

 先に仕掛けてきたのはH田のほうだった。ヤツは好戦的な性格で、1球目からストレートの剛速球を投げてきた。
「どうせそんなに詳しくないんでしょ。スバルボーイとか言ってもわかんないよね?」
 カチンときた。誰に向かってものを言ってるんだと思った。コイツには現実を思い知らせてやらなければならない。完全に冷静さを失った自分は、アツくなって全力で言い返した。
目黒記念もブラッドストーンSも見せ場はなかったし、やっぱダート馬でしょ」
「へぇ、けっこう知ってんじゃん」
 いまだこちらを見下ろしながらしゃべるH田に頭にきて、うかつにも小学生並みに応戦してしまった。
ハシノケンシロウって知ってる? 八木沢厩舎の」
「セントポーリア賞はまぁまぁ強かったんじゃない。だからなに?」
 いちいち嫌味なヤツだ。でも、返ってきた答えを聞いて、コイツは本物だと認めざるを得なかった。同世代にこんなヤツがいるとは……。ちょっとビックリした。
 それは向こうもまったく同じ。ひと通りやり合ったあと“お主、できるな”という表情を浮かべ、お互いを認め合った。そして、次の休み時間も同じ場所で競馬の話をしようという約束を取り付けた。オタク同士は打ち解けると一気に絆が深まるもの。H田とは、一瞬にして大親友になったのである。

 この日を境に、年がら年中、H田とつるむようになった。アトサキでジュースを賭けた。2人POGをやった。お金がないので、『週刊競馬報知』を1週おきに交替で買って回し読みした。大きく書けないような悪さもいっぱいしでかした。
 当連載のマイルチャンピオンシップの回で書いた修学旅行時の淀ライブ観戦。もちろん、H田も同じ行動をとっていた。高校3年間の競馬の思い出は、H田なしには語れない。ヤツがいたから、充実した高校競馬ライフが送れたことは間違いないのだ。

 朝日杯と聞いて真っ先に思い出すのは1990年である。12月7日金曜日、誰もいない放課後の教室で2人検討会を開いた。週末に行われるダブルGⅠ、朝日杯3歳Sと阪神3歳Sを真剣予想。ふだんまったく当たらないうえ、見解がかぶることのない2人の意見が奇しくも一致した。
「東がリンドシェーバー、西がイブキマイカグラ
 月曜日、学校で顔を合わせるとすぐに、笑顔でガッチリと握手した。「当然でしょ」とかなんとか言いながら、勝った2頭の強さを語り合った。その時間が、ただただ楽しかった。
 以後、2人同時にここまでバッチリ当たったことは一度もない。初めて出会った競馬友達と喜びを分かち合うことができた貴重な瞬間。それゆえに、この年の朝日杯をめぐる一連の出来事は、忘れえぬ思い出として強烈に記憶に残っているのである。
 毎年この週になると、ヤツの顔が脳裏によみがえる。H田は「獣医になって競馬関係の仕事に就く」と言っていたが、浪人中にお母さんが倒れたことを受け、将来の夢を変更。人間を診るほうの医者になった。高校生のときのように、熱心に競馬を見ているヒマはないと言っていた。
 ここ数年会っていないので、久々に連絡をとってみよう。競馬と疎遠になっているのなら、再び引き込んでやろう。この原稿を書いていて、なんとなくそんな気になった。

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