”強い”という感想には、様々な種類がある。
ディープインパクトのように「うわーーーっ!」という爽快感のある強さもあれば、
オルフェーヴルにように「うっわ……」となる暴力的な強さや、
イクイノックスのように「はぁ……!?」となる意味不明な強さもある。
これらは少々極端な例で、今回
ロマンチックウォリアーが見せた強さはまた違ったものだった。
「強い!」
見ている誰もがそう思ったであろう、シンプルな強さ。今回の相手であれば、何度走っても、どんな展開であっても勝ち切ってくるのではないか。そう思わせる迫力があった。
日本の名馬で例えるならば、年間無敗を決めた頃の
テイエムオペラオーが近いだろうか。距離も舞台も問わず、ただただ伸びて、そして勝つ。競走馬として理想的な闘争心……名馬の魂のようなものを彼の走りから感じた。
レースは大方の予想通り
ドーブネや
ウインカーネリアンが先手を主張していく形だったが、実は最もいいスタートを決めていたのは
ロマンチックウォリアー。勢いを付けながらしっかり抑えも利かせ、逃げ・先行馬たちを見て運ぶ余裕を見せていた。
しかし、日本勢も黙ってはいない。
4コーナーを過ぎて直線を向くと、
横山典弘・
ステラヴェローチェが外から
ロマンチックウォリアーをがっちりとブロック。前には
フィアスプライドがおり、楽な進路確保を許さなかった。
それでも王者は揺るがない。
ステラヴェローチェと削り合いながらも、
フィアスプライドが内へ行って前が開くと一気の加速。後方からは
ナミュールと
ソウルラッシュが迫っていたが、これまで数々の強豪を抑え込んできた末脚は揺らがず。盤石の形でG1・8勝目のゴールへと飛び込んだ。
初の日本競馬、初の東京、久しぶりのマイルでも格の違いを見せつけた
ロマンチックウォリアー。
馬体減の数字が示す通り、多少は輸送等の影響もあったように思えるが、レースでは全くそれを感じさせない走り。これまでも”全く伸びない”という負け方が皆無の馬で、とにかくその精神力は素晴らしいの一言。
登録のあった
宝塚記念には出走しない可能性が高いのは残念だが、年末の香港国際競走では再び日本勢の大きな壁となって立ちはだかることが予想される。この先どこまで連勝やG1勝ちを伸ばしていくのか、帰国後も注目しておきたい存在だ。
ロマンチックウォリアーには届かなかったものの、日本勢も2~4番人気の実績馬が順当に上位を独占し、それぞれ能力は見せた格好。
特に2着の
ナミュールは、大出遅れから行きっぷりも悪かった
ヴィクトリアマイルから一気の復調。今回も出遅れ気味で発馬直後に他馬に寄られてもいたが、道中の雰囲気は一変していた。
前走の敗戦から僅か2週でここまでの立て直しは見事と言わざるを得ないが、高野厩舎は先日のNHKマイルCでも難しいローテだった
ジャンタルマンタルを勝利に導いており、厩舎力の素晴らしさは目を引く。
馬自身もなかなか勝ち切れない競馬が続くものの、相手関係を考えれば立派な内容。国内のマイル路線では最上位クラスの馬なのは間違いなく、マイルCS連覇への挑戦も含め、秋の飛躍に期待がかかる。
ソウルラッシュは三度目の
安田記念で初の馬券圏内。今年の充実度は示し、面目は保ったものの、G1になると一歩足りないキャラを脱却するまでには至らなかった。
実績が示す通り、休み明け初戦が最もパフォーマンスが高く、他馬の仕上がりが進んでくる本番では末脚の持続時間の短さがネックになっている印象。指数的に見ても最もパフォーマンスが高いのは中山なので、本質的には小回り向きの馬なのかもしれない。
マイル路線のG1は全て直線の長いコースで、本馬の適性にピタリとハマる大舞台がないのは辛いところだが、総合力は路線の中で明らかに上位。秋にリベンジを達成する可能性はゼロではないはずだ。
4着の
ガイアフォースは好スタートを切ったものの、若干初速が足りずに中団から。
直線も内枠が災いして進路を切り返すシーンもあり、力は見せたが不完全燃焼感もある内容だった。
依然真の適性がはっきりしない馬ではあるが、本質的はマイラーというよりは中距離寄りの印象が強い。1800mあたりで急かせずのびのびと走れれば一番良さそうなのだが、残念ながら国内の芝レースにはそうした条件のG1がない。ダートも含めてこなせる条件が幅広い反面、もう一押しが足りない面が目立つ現状だが、この後はどういった進路を歩んでくるだろうか。
5着の
セリフォスは一昨年に制したマイルCSを思わせる後方待機策。直線も伸びてはいるが、前を脅かすまでには至らなかった。
陣営は馬場の悪化を敗因に挙げたものの、指数的には3歳時から大きな伸びがなく、緩やかに下降傾向にある。父の
ダイワメジャーは5歳秋から急激に強くなり、6歳までそのパフォーマンスを維持し続けたが、本馬はここから再上昇を果たせるだろうか。秋初戦の走りに注目したい。
もう1頭の香港馬
ヴォイッジバブルは、パドックから雰囲気が冴えず、レースでもホームで見せるようなスタートダッシュが影を潜めた。
能力的には
ロマンチックウォリアーともそう大きな差はないはずだが、2走前の
ドバイターフと似たような不可解な敗戦で、遠征や左回りへの対応力という課題が改めて浮き彫りになってしまった格好か。帰国後にどれだけ立て直し成るか、こちらの動向もチェックしておきたい。