「これは天皇賞・夏だ」
筆者の周りでもこんな声がちらほらと聞こえた今年の
札幌記念。
春の
大阪杯でG1制覇を遂げた
ジャックドール、ダービー馬の
シャフリヤールをはじめ、これまで各路線を盛り上げてきた有力馬達が多数集結。スーパーG2の名に相応しい組み合わせだったと思う。
とはいえ、どの馬も見据えるのは秋の王道。流石にG1仕様の仕上げを施している陣営は少なく、レースそのものも様子見感の強い内容になるのだろうと思っていたが、実際は真逆。重賞ではあまり見たことのないトリッキーな展開が待っていた。
ユニコーンライオン、
アフリカンゴールドら”行くだけ行く”逃げ馬達が引っ張る展開はシナリオ通りだったが、レース中盤、彼らが息を入れたい場面で3歳馬の
トップナイフが一気にエンジンを掛けていく。そこに
プログノーシスや
ジャックドール、
ダノンベルーガらが追従したことで、最終コーナーを待たずして先行勢が壊滅。この流れに乗れなかった後方勢は完全に踏み遅れ、最終的には”動くべき時に動いた”馬達の消耗戦と化し、強力メンバーが揃ったとは思えないほどに大きな着差が目立つ結果となった。
そんなタフなレース展開から楽々と抜け出し、圧勝を決めたのが
プログノーシス。
あまり上手ではないスタートから溜めて溜めて直線でズドン!というイメージのあった馬だが、この日は中盤までに後方からスルスルと内を通って位置を上げ、
トップナイフの動きにも難なく対応。4コーナーでは馬場の良い所を探して外に行くほどの余裕もあり、直線もその手応えのまま後続を千切った。
5歳の割にキャリアが浅く、イマイチ一線級との力関係が分かりにくかった馬だが、今回のメンバーを相手にこれだけの勝ち方を見せたのは驚き。今回は展開が特殊だったし、各馬の仕上がり具合もバラつきが大きく、何よりも見た目以上に巧拙が分かれる状態となっていた馬場がその着差増大の原因だと思われるが、こうしたタフな条件というのは
ディープインパクト産駒の得意条件とはかなり外れているだけに、それを能力でこなしていたとすれば、こちらの想像以上に奥がある馬という可能性がある。目標となる
天皇賞・秋はまた全く違う条件下でのレースとなりそうだが、そこでどんな走りを見せてくるか。本当の評価が定まるのは次だろう。
強気に動いて波乱を演出したのが、唯一の3歳馬
トップナイフ。
ここまでの実績が示す通り、同世代の中でも主役というよりはいぶし銀の脇役的存在だった馬だが、逃げ差し自在な脚質と軽い斤量、そして特殊な馬場への適性が上手くフィットした印象。
横山和生騎手の仕掛け所も本当に絶妙だった。
軽い馬場における切れ味勝負だと分が悪いという弱点はあるものの、自身のスタートや他馬の動きに応じてどんな立ち回りもできるというのは地味ながらかなり強力な個性で、特に小回りやローカルの舞台では今後も注目すべき存在だろう。
この後は
菊花賞を目標に調整されるようだが、父系の血を考えるとさすがに3000m級の長距離レースはやや適性外であるように思う。が、半兄の
ステラウインドは3000m戦の勝ち鞍があり、母系がそれなりのスタミナを供給する血統に思えるだけに、完全にノーチャンスとも言えない。長距離における立ち回りがどんなものになるか、動き方が楽しみな馬だ。
3着
ソーヴァリアントは、不可解な敗戦が続いたここ2戦から見事に復調。
3歳時に札幌の洋芝で物凄い勝ち方を見せていたように、馬場も好相性だったのだろうが、やや燃え尽き癖のある母系出身なだけに、ここで再度上昇を果たせたのは大きい。ハミを替えるなど、陣営の手腕も光った。
この馬もなかなか順調に事が運ばず、真の適性や一線級との力関係が分かりにくい馬だが、
ダノンベルーガ、
ヒシイグアス、
ジャックドールを抑える事ができるなら、G1の舞台でも馬券候補に挙げられるくらいの能力は秘めているものと思われる。これまで通り小回りに徹したローテを組んでくるのか、
天皇賞・秋の路線に乗ってくるのか、今後の動向には注目しておきたいが、東京コースにおける活躍馬も多く出ている一族なので、個人的には天皇賞路線で東京の走りを見てみたい。
4着
ダノンベルーガはスタート直後に
シャフリヤールと
ヤマニンサルバムに挟まれ後退。この不利があったことで序盤の位置取りや折り合いも難しくなってしまった印象が強い。勝負所も
トップナイフと
プログノーシスに比べると後手を踏む動き方になっていたし、通っていた部分の馬場も決して良いようには思えなかった。それで4着ならば評価を落とす必要はないと感じるし、かなり陣営の泣きが入っていたように、状態面も完調ではなかったか。今回も含め、これまでもどこか不運な面が目立つ馬なだけに、秋の雪辱を期待したい1頭と言える。状態と展開がハマれば、一気に着順を上げられるだけのポテンシャルはあるはずだ。
5着
ヒシイグアスは上位4頭と異なり、終始後方から勝負所も外を回って追い込む形。
馬場状態や展開を考えればよく押し上げてきたと思えるし、状態が整っていればまだまだ侮れない存在と言えそうだが、その状態の維持が本馬にとって最大の課題。中間の調教内容や陣営のコメントには気を配っておきたいし、当日の馬体重も変動が激しいので、予想的にはかなり付き合い方が難しい。その分極端に人気になるタイプではないので、上手く好走タイミングを捉えたいところだ。
人気を裏切る形となった
ジャックドールは6着がやっと。
戦績を見返すと雨の影響が残る重い馬場の経験がほとんどなく、更に高速馬場で実績を重ねてきた馬なので、今回の馬場のような特殊な状態が向かなかった可能性が高い。それでも序盤から先行した組が軒並み壊滅する中粘れているので、舞台や馬場が変われば結果も変わってくるだろう。自分の庭と言える速い馬場での反撃を期待したい。
○霧(きり)プロフィール
ウマニティ公認プロ予想家。レース研究で培った独自の血統イメージに加え、レース戦績や指数等から各馬の力関係・適性を割り出す”予想界のファンタジスタ”。2023年1月には、長年の活躍が認められ殿堂プロ入りを果たす。
霧プロの最新予想ページはこちら
※週末の枠順発表までは直前週結果ページへ遷移します。