やぶれたふんどし Ⅱ
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◇タマキングの本は読むたびに「こんなに面白くていいのか!」と衝撃を受ける。という文庫本
の帯に、まず引っ掛かった。その昔の『笑点』だったかの謎掛けで、トボケた咄家が
「足尾銅山とかけて何ととく」
「破れた褌ととく」
「その心は…」
「タマタマキンが出る」(爆笑)
とやった。銅山からでもタマにはキン(金)が出る。そのタマ・キンが、破れたフンドシから
顔を出すというオチなのだが、それがTjrのジュニア(お稲荷さん=イナリ寿司)とも重なっ
てしまった。
◇話せば長くなるので5行以内に。新潟競馬&大花火ご招待で長岡豪遊。F枝クミチョー宅
(卓球ができるくらいに広い)にベロベロン旅打ち8人衆がゴロ寝。その一人(Tjr)のパン
ツから、一握りもあろうかというお稲荷さん(タマキン)がはみ出していて…(翌朝、皆で大爆
笑!!)。
◇タマキングの文庫本には30くらいのエッセーが収められていたが、サッサと拾い読みしつ
つ、名状し難い違和感に苛まれはじめた。実馬を見たことがない初見の人気馬に漂う違和感、ア
ブナサに似た怪しげな感覚。ウマの場合は血統表も戦歴も詳細に調べることができるから、馬名
だけでも目付き(気の悪い三白眼とか)や肢勢(曲がり具合とか)などいろいろ想像できる。
が、宮田珠己。兵庫生まれ。旅とレジャーのエッセイを中心に執筆活動を続けるーーだけのデー
タからは、馬齢も体高(背丈)も、毛色(髪)も、歩様もまったく想像できない。できるとすれ
ば、熱帯夜にパンツの脇からお稲荷さん(タマキン)を覗かせ血に飢えた羽斑蚊(マラリア媒
介)に吸わせて独りヨガル怪人!?
◇でもって冒頭の「発作と遭難」、3つ目の「ディープうどんインパクト」を読み、評論家に
されてしまうほどのジェットコースター狂というキーワードから、タマキング号(昔府中の高木
厩舎にタマクイーンという美麗な快速牝馬がいた)の本質を見抜いた。
①紛れもないレトリック巧者。寺山修司言うところの「猛獣使いのような言葉使い」であるに
はちがいない。が、その手法が計算づくでヒネクレていて独りよがりで、まるでオモロクな
い。
②そうしたレトリックは「私は食べるのが面倒くさい」というコケ脅しで始まる、これでもか
というほどのさぬきうどん礼賛、絶賛の病的なダメ押し、どんでん返しにも見てとれる。
③しかしもっとも気になったのは、正規の道ではない、道なき道や落ちれば確実に死ぬ断崖絶
壁などを憑かれたように突き進んだり、よじ登ったりする常人離れしたクソ度胸(フツーじゃな
い!)と、それを臆面もなく売り物にするしたたかさ、思い上がり、自己陶酔の源泉はいったい
どこからきているのか? ということだった。
◇そこまで来たとき、ある決定的な概念が鎌首をもたげた。M(マゾ)。それは15年くらい
前に映画監督の森田芳光さんをインタビューしたときの、監督が発した衝撃的な一語だった。
◇騎手の話から生死にかかわるような落馬事故のこと、かれらの驚異的な回復力などにも話が
および、自分が見聞した騎手の異常なまでの生命力が理解できない。たとえば野平祐二調教師
(故人)は嶋田功騎手(現調教師)の歩く姿を見て「あれは人間の歩様じゃありませんね(度重
なる落馬事故の後遺症でガタガタ)。だけどウマの背に跨ると少年のようによみがえる。凄いで
すよ」
功ちゃんよりもっと酷いのが昭ちゃん(大崎昭一騎手)でした。何度も落ちてボキボキやって
いますけど、ミスオリオンを抱いたまま後ろ向きに引っ繰り返った事故なんて、命があったのが
不思議なくらいの惨事でした。仁王立ちになった牝馬が腰が甘くて、騎手を乗せたままズデン。
馬を両脚で挟んだまま仰向けに下敷きですからね。股関節バラバラ、何本の骨が折れたか分から
ない。普通なら命があってよかった、もう馬には絶対乗らない…でしょう。ところが昭ちゃんは
復帰したんです。今でも毎週、整体に通いながら乗ってます。怖さ、恐怖心というものがないん
でしょうか。ボクなんか、20代に交通事故(泥酔運転で電柱に正面衝突&甲州街道でタン
クローリーと接触横転)で2度死にかけてから、ハンドルが握れなくなって免許を返上しまし
た。今だって助手席に座るのが怖い。勝手にブレーキ(床)を踏んでいたり、顔をそむけたり
で、落ち着いてはいられません。騎手だってそういう恐怖心というか、トラウマのようなものが
あるでしょう。なぜ、どうして、心身ともにガタガタ、ズタズタにされるような事故に遭っても
手綱が握れるのか…わからない…。
「Mですよ。M。そういう要素がなければできないでしょう」
誰もが解けなかったゴーディアス王の結び目(ゴーディアンノット)を、アレキサンダー大王
は一刀両断のもとに切り捨てた。その鋭い剣に匹敵するような衝撃的な解答だった。Mによっ
て、アクロバットなスカイダイバーやバンジージャンパーや苛烈なスタントマンや、飛んで火に
入る夏の虫のように絶叫マシーン(ジェットコースター)に群がるヒト離れしたヒト人たちのレ
ゾンデートル(存在理由)も氷解した。Mのチカラというようなものがあるのだ。人間を造った
神だかなんだかが100人に一人、1000人に一人くらいに刷り込んだ超能力。死ぬことを恐
れない、恐怖を快楽に転化させるような脳内物質を分泌する選ばれたヒトたち。その能力が決定
的に先天的なものなのか、訓練や経験の積み重ねによっても開発されていくものなのかというと
ころまでは分からないが、ともかく「M」は血液型のAだBだOだなどといった性格分析などよ
り断然に科学的であり、信憑性の高い説明になりうる。と、確信するに至った。
◇そんな折り(つい数日前)、結婚式を終えたばかりの市川海老蔵がNHKの『仕事の流儀・
プロフェッショナル』で話しているのを聞いた。膨大な台詞をどうやって覚えるのかといった質
問の答えが、これまた衝撃的なものだった。
「これ以上は猶予がないというぎりぎりまで放っておくと、土壇場になってリミッターが外れ
るんですよ。そうなるとまたたく間に入ってしまいます。火事場のバカ力みたいなもんでしょう
か」
そのリミッターは、たとえばマンションの2階のベランダから転落する我が子を、地上の井戸
端会議で目にした母親が、間に合うはずのない距離をオリンピック選手並みのダッシュで突っ走
り抱き留める、といった奇跡をももたらす。こういう能力はM力とは違って誰しも隠し持ってい
るらしい。肉体を保護するために7~8分の力にセットされているリミッター(制御装置)が、
火事場(命にかかわる緊急事態)で外れる。と、持てるはずのない荷物を持ってしまったり、跳
べるはずのない川を跳んでしまったり。ということは、海老蔵のリミッターには命がかかってい
る、それほどの極限まで自分を追いつめることができるということにもなる。すっげえ、ただモ
ンじゃあねえわ。
◇2週目三分三厘(3~4コーナー)を回り、やっとゴールが見えてきた。ハングオーヴァと
いうよりザ・デイ・アフター(つまり飲んだ日の翌日=ひどい二日酔い)の所在なさを紛らすた
めに本でも読もんでみっか。で、図書館が休みで、居間に転がっていた文庫本(長女のものだっ
た)をペラペラやっていて、ここまで来たわけだ。言うのも憚られるが、フィクション(小説と
か物語の類)は山本周五郎の短編を最後にこの20~30年ほとんど読んではいない(そんなは
ずはないが、すべて忘れてしまった。記憶にない)。エッセーの類も向田邦子、伊丹十三、寺
山修司、開高健(すべて故人)くらいしか思い浮かばない。現存作家では例外的に浅田次郎の勇
気凛々…とオー・マイ・ガア!だけは読ませていただいた。それだけ。面白くない。読む気がし
ない。というより飲む時間に取られて読む時間がないだけのことか。
◇それでも映画(含ビデオ)はよく観ている。『シービスケット』や『ソニアドール』は平尾
圭吾さんに試写会の招待券をいただいたし、新旧含めて劇場で観られなかったものはTUTAY
Aで調達し、ここ数年は光回線を機にオンデマンドTVとも契約してシネフィル・イマジカ、
ザ・シネマ、FOXムービー、アジアドラマチックTV、KBS Worldなどでめぼしいも
のはほとんんど観ている。
たとえばマイフェバリット(◎)の韓国時代劇は『チャングムの誓い』(54話)に始まり、
『張禧嬪』(チャンヒビン100話)、大祚榮(テジョヨン65話)、朱蒙(チュモン81
話)、一枝梅(イルジメ20話)などほとんど初回から観徹した。韓流現代劇はキモチ悪くて受
け入れられないが、時代劇は面白い。食・文化などの日本史との強い関わりが見てとれたり、青
銅→鉄器に以降する時代からの戦や武器の変遷、民を重んじる為政者の理念、肉親や仲間(恋
人)などに対する情念の深さ強さ、それらが揺るぎないドラマツルギー(シェイクスピア劇を基
本にしているかのような)によって、サービス精神旺盛に構成されれていて観るものを飽きさせ
ない。
◇今、おそらく、世界のTVドラマで群を抜いて面白いのが韓国時代劇ではないか。ストーリ
ー性もさることながら、女優(テジョヨンのアガシ=恋人チョリン=パク・イエジン、チュモン
の同ソソノ=ハン・ヘジン=来日中?)がいいし、男優(女優も)の馬術の達者さには舌を巻
く。疾駆する馬上で両手を離して難なく弓を射ることができる。それだけでも凄い!
◇というわけでThe day afterの、なかばヤケクソの八つ当たりの手綱をゆるめ
て鞭を置くことにする。すでに禁断症状が出始めているので。わかるでしょう、コレです。オイ
ナリさんを出さないように、フンドシのうえにステテコを履いて寝ることだけは肝に銘じつつ、
今日は今日の無かった人のために、明日は明日無き人のためにザンパ~イ!!
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