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あの日を境に停滞した武豊騎手の『日記』。武邦彦さんの「生前の言葉」として最後に綴られた内容が猛烈に切ない─Gambling Journal ギャンブルジャーナル/2016.08.19
武豊騎手の父にして「ターフの魔術師」として、競馬界を沸かせた武邦彦さんが肺がんのため亡くなった12日から1週間が過ぎた。
15日に行なわれた告別式では、三男にあたる武豊騎手が家族を代表して「1カ月ほど前から覚悟はしていましたが、現実を突きつけられるとつらくて悲しいです。本当に優しい方でした。父の示した道を家族で歩んで参りたいと思います。誠に、ありがとうございました」と時折涙ぐみながら、声を絞り出すように挨拶。その沈痛な面持ちが、ありありとうかがえた。
福永祐一騎手の父にして「天才」といわれた福永洋一騎手のライバルとしてTTG時代の競馬を彩り、調教師としても数々のビッグタイトルを勝利した武邦彦さん。
そして何よりも、武豊、幸四郎の兄弟騎手や、弟弟子の河内洋現調教師を世に送り出した功績は測り知ることができないものだけに、我々のような末端の競馬ファンにとっても残念でならないという気持ちは未だ収まるものではない。
だが、そういった中でも父が亡くなるという掛け替えのない瞬間に、武豊が4年ぶりに騎乗停止になっていたことは、武家の豪運、運命の強さを感じずにはいられない。
まったくの偶然で父の死と向き合う時間が生まれたのは、武豊という「特別な騎手」が競馬を通じて本当に数多くの人々に感動を与えてきたことに対する"競馬の神様"からの贈り物なのかもしれないとすら思える。
今の武豊騎手の心中を我々には推し量ることしかできないが、そういった中でも武豊騎手の『公式サイト』の日記の更新が8月3日のまま途絶えていることが何とも切なく、痛ましい。
この『公式サイト』だけでも2004年の7月から12年間続いている武豊騎手からの「声」。だいたい1週間、長い時でも2週間に1度は随時更新されており、いつも多くのファンが楽しみにしている。だが、今回ばかりはすでに2週間以上更新がない。やはり気持ちの整理がついていないのだろうか。
そして、その切なさに拍車を掛けているのが、8月3日のタイトルだ。
次のページ▶▶▶ 武豊騎手が語った父の「生前の言葉」
『出張したら、そのまま行きっぱなしさ』。これは武豊騎手の言葉ではなく、幼い頃に武豊騎手が聞いた武邦彦さんの言葉だ。日記によると、武豊騎手が8月6日に小倉、7日に新潟で騎乗することに関して、武邦彦さんが騎手として活躍されていた頃は、まだ交通機関が発達しておらず、滋賀県の栗東から福岡県の小倉まで8時間以上かかったらしい。
それで武邦彦さんが「出張したら、そのまま行きっぱなしさ」と武豊騎手に話したのだ。なんとも武邦彦さんらしい、ぶっきらぼうな言葉である。
思い返せば、武豊騎手が父親のことを日記の題材にすることは本当に珍しいことだ。おそらく日記が書かれた3日の時点で、武邦彦さんの容態はかなり悪かったのではないか。実際に武豊騎手も告別式で「1カ月ほど前から覚悟はしていた」と語っていたように、もしかしたら武豊騎手もある覚悟を持って、父との思い出話を打ち明けてくれたのかもしれない。
そう思って、改めて8月3日の更新で止まっている武豊騎手の『公式サイト』の日記を改めて見ると、何とも言えない切なさが込み上げてくる。
無論、日記を更新してほしいなどといえる状況ではないが、まずは武豊騎手にとって選考委員会選出での出場が決まっているワールドオールスタージョッキーズを含めた27日、28日の競馬で、元気な姿を見せてほしい。
そして、気が向いた時にどんな話題でも構わないので、これまでのように日記を通じて競馬界やファンへ明るい話題を提供してくれればと切に願うばかりだ。
(文=浅井宗次郎)
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