グリーンセンスセラさんの競馬日記

コロナ禍で競馬が無観客開催続ける大きな意…

 公開

434

コロナ禍で競馬が無観客開催続ける大きな意義 震災乗り越えた8年前と対照的な福島競馬場
東洋経済オンライン / 2020年4月25日 7時45分 https://toyokeizai.net/articles/-/346256

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。緊急事態宣言はついに全国に広がった。こんな時でも中央競馬は無観客とはいえ開催を続けている。日本中央競馬会(JRA)は4月23日、あらためて5月末まで無観客で開催することを発表した。5月31日に東京競馬場で行われる競馬の祭典第87回日本ダービー(2400m芝)も無観客となった。

筆者のホームである福島競馬も4月11日に開幕した。1918年6月28日に初めて福島競馬が開催されてから、102年の歴史の中でも無観客での競馬開催は史上初めてとなった。

コロナ禍で競馬を開催する意義とは何か、そして歴史的な無観客競馬を書き残すことに意味があると考えて、そのことを記したい。

■初の無観客競馬で何が起こったのか
中央競馬は新型コロナウイルス対策のため政府のイベント自粛の要請に応えて、2月29日から無観客開催となっている。この日は中山・阪神・中京の3競馬場が無観客となった。

日本中央競馬会(JRA)の前身となる日本競馬会時代に、1944年にダービーなどを無観客で能力検定競走として実施したケースがあったが、1954年のJRA発足以降では初の無観客開催だった。筆者も2月29日、中山競馬場で取材した。

中山競馬場は正門などに無観客開催を告知する看板を設置。騎手、厩舎関係者と出走馬の馬主、開催に最低限必要な係員とメディア関係者など一部の人だけが競馬場に入場したが、普段なら歓声が響くスタンドにファンの姿はなく静まりかえった。通常通りパドックの周回や本馬場入場はあったが、レースの実況と競走馬の走る足音が響くだけで、不思議な静寂の中で終日レースが行われた。

勝負どころで沸くはずの歓声がない。何より、お客さんの姿がないパドックを競走馬が周回する光景には違和感があった。この日のメイン11RサンシャインSを勝ったサンアップルトンを管理する中野栄治調教師は騎手時代にアイネスフウジンで大観衆のダービーを制している。「声援がないのはさびしい」との言葉を筆者は重く受け止めた。

3月1日の中山記念をダノンキングリーに騎乗して制したベテラン横山典弘騎手は「お客さんがいてファンあっての競馬なんだとあらためて感じた。声援がないので、やっぱり勝ってもさびしい。(新型コロナが)早く収束して大勢のお客さんがいるところで大きいところを勝ちたいと思う」と神妙な表情を見せた。

3月7日の阪神のチューリップ賞でマルターズディオサに騎乗して1着となった福島県二本松市出身の田辺裕信騎手は「桜花賞はお客さんが入って開催できて、皆さんに見ていただければ。ボクらはやれることをやるだけ」と語った。3月8日、武豊騎手は今年からディープインパクト記念の名称が付いた中山の弥生賞でディープインパクト産駒のサトノフラッグに騎乗して父を彷彿とさせる豪脚で勝利に導いた。

「3コーナーから自分から上がって行こうとしていたのが、本当にお父さんが中山を走っている時の感じで、それを思い出した」と振り返った。記念撮影後には無人のスタンドに向かって手を上げた。「お客さんがいるつもりで手を上げた。見てほしかった」と語った。それでも、我々を含めてこの当時はまだ無観客がそれほど長くは続かないだろうとどこかで思っていた。

しかし、新型コロナウイルスは感染拡大を続けた。田辺騎手が「桜花賞はお客さんが入って…」と語っていた時とは状況が変わった。3月29日の中京の高松宮記念はGⅠ初の無観客。4月5日の阪神の大阪杯を前に皐月賞を開催する4月19日までの無観客が決まった。これで4月11日に開幕する福島競馬の無観客が決定した。4月7日に緊急事態宣言が出されて以降も無観客開催は続いている。

1918年6月28日に初めて福島競馬が開催されて以来、太平洋戦争や東日本大震災などの影響のため開催ができなかった時期はあるが、福島競馬は競馬熱の高い市民に支えられ、常に歓声とともに熱戦を繰り広げてきた。

しかし、4月11日の1Rは静寂の中でファンファーレだけが響いた。放送のためのレース実況が場内に流れ、ターフビジョンに映像も流れたが、観戦する人はいない。

ダートコースを馬たちは迫力満点に駆け抜けたが、本来聞こえてくるはずの「行け」「差せ」「そのまま」の掛け声や、騎手を応援する声援もない。サラブレッドの駆ける足音と騎手の気合を入れる掛け声、ステッキの音が聞こえるだけだった。

レース前にはファンのいないパドックを競走馬と騎手が淡々と周回した。

それは、2月29日に中山競馬場で見た光景と同じだった。それでも、やはり地元福島での無観客にはさびしさが込み上げた。4月11日から福島競馬は静寂の中でレースが続けられている。

■震災が福島競馬に与えた試練
2012年4月7日。筆者は今回と対照的な1Rを目撃している。2011年3月11日の東日本大震災で福島競馬場は大きなダメージを受けた。

スタンドが損壊し、馬券発売のためのコンピューターや電源システムが致命的ダメージを受けた。原発事故の影響で放射線量も高くなった。競馬の開催どころか馬券発売も困難な状況となった。しかし、それでも競馬場は避難場所として被災者を受け入れ、市民とともに復活への歩みを始めた。
使える場所から馬券発売を再開し、スタンドは安全確保のために徹底した耐震補強に取り組んだ。何より、徹底した除染で放射線量を下げて安全な場所に生まれ変わった。安全な競馬場に多くの待ちかねた市民だけでなく、全国のファンを呼び戻す。その強い思いで関係者はわずか1年での競馬再開にこぎつけた。

2010年11月21日以来、福島競馬場で競走馬が走ったのは実に503日ぶりだった。あの日の1R。スターターが壇上に上がってファンファーレが鳴り終わると、場内から拍手が巻き起こった。

GⅠでも重賞でもないただのレースに自然発生で大きな拍手が起きた。筆者は震災当日に競馬場のスタンド6階にいた。この拍手でさまざまな思いが込み上げた。1Rはスタンド前のゴール手前50m付近で見ていたが不覚にも視界が曇った。福島競馬場の関係者も近くで見ていたのだが目を潤ませていた。競馬復活を喜ぶ温かい拍手だった。それはやはり観戦するファンがいるからこその拍手だった。

くしくもあの日は4月7日。8年後の同じ日付に緊急事態宣言が発出された。

そして、今年の4月11日の1Rは、あの感動の1Rとは全く違う光景を見ることになった。

静寂の中で、ファン不在の中でレースが行われたのは残念で、やはり複雑な気持ちだった。

■無観客でも競馬ができるのはありがたい
福島競馬無観客の初日、福島県会津若松市出身の五十嵐雄祐騎手は4Rと5Rで騎乗した。五十嵐騎手は過去、JRA賞の障害騎手部門を表彰する最多勝利障害騎手を3回、最優秀障害騎手を1回受賞している障害の第一人者。

ここまで他の競馬場で無観客競馬を経験してきたが、あらためて地元福島競馬場での初めての無観客に「福島は応援してくれる人も多い。だからこそファンの声援がないのはさびしい。感染者が出ないように関係者みんなで頑張っている。無観客でも競馬をさせてもらえるのはありがたいし。自分たちはできることをやるだけ。早く元のにぎやかな形に戻れば」と表情を曇らせた。

福島の障害コースは馬場の内側を斜めに横切るタスキコースがある。ここに障害が設置されており、ファンは馬場内で間近に障害を飛越するところを見ることができる。

「タスキのところでファンが観戦してくれるのは福島のいいところ。そこで声援が聞こえないのは残念」と障害ジョッキーならではの感想も述べてくれた。

本来なら場内でコーヒーショップ「柳屋」を営む半沢聡嘉(あきよし)さんと妻洋子さんは複雑な気持ちでレースをテレビで観戦した。福島市置賜町で喫茶店を経営し週末は朝から競馬場の店を営業する生活を60年以上続けてきた。
2月29日から馬券発売のない福島競馬場は閉鎖。福島競馬の開幕日も場内の店は営業できなかった。現在、喫茶店の開店は不定期で、競馬場のショップは大きな収入源だ。聡嘉さんは「こんな状況なので仕方ないが、いつまで続くか先が見えないのが不安」と語る。

洋子さんは「震災後に再開した時はしばらく会えなかった常連さんと再会できた。神様に早くコロナが終息することを祈っている。元気ですかと連絡をくれる人がいるのはうれしい。元通りになってまたお店に立って、皆さんに会えるのを待ちたい」と前を向く。

無観客開催を迎えた福島競馬場の後藤浩之場長は「無観客になったのは残念で、楽しみにしていたお客様にはご理解いただいきたい」と沈痛な表情を見せた。

「万全な衛生管理と環境のもとで開催している。テレビやインターネットなどを通して、外出できない人たちに競馬を楽しんでいただくことに開催する意義があると思う。

新型コロナウイルスも皆さんと一緒に克服し明るい福島を取り戻せれば」と初日を終えて語った。

震災直後、当時も先が見えないと感じたことは確かだった。福島競馬場は施設にダメージを受けただけでなく、放射線量との戦いもあったからだ。放射線も目に見えない。それはコロナウイルスも同じだ。とはいえ、放射線量は測定が可能だった。幸い、高い数値ではなかった。早い段階で数字を下げるという目標も設定できた。

当時、福島で競馬再開に向けて熱意を持って尽力したJRA職員と震災当時を振り返る機会があった。「あの時は一刻も早く必ず再開するという目標があって前向きだった」と振り返る。

今回のコロナウイルスはまだまだ先が見えない。具体策が見つからない。ひたすら感染を防ぐしかない。「3つの密」を避けて不要不急の外出を控えて耐えるしかない。

■関係者の努力で開催は続けられている
4月23日現在、JRA職員には新型コロナウイルスの感染者が出たが、騎手や厩舎関係者からは1人も感染者が出ていない。緊急事態宣言が出てからは騎手や競走馬の東西の移動も制限。

騎手はレース前日に調整ルームに入ることが義務づけられているが、現状は感染のリスクを回避するために認定調整ルームとして自宅やホテルから競馬場入りすることも認めた。

無観客でも開催を続けることに最大限努力している。騎手たちはもともとレースの騎乗後には必ず手や顔を洗う。そのことは徹底されている。

現在は美浦・栗東トレセンでの調教での騎乗も最低限に抑えられている。こうした対策と関係者の努力で何とか無観客の開催を続けている。特に感染者が1人も出ていないジョッキーたちの取り組みには頭が下がる。
日本騎手クラブは4月13日に新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた人々を支援する基金の設立を発表した。4月11日から各騎手がJRAで1レース騎乗するごとに1000円を積み立てる。

同クラブの会長を務める武豊騎手は「現在、無観客ではあるものの、競馬開催を続けられていることに騎手一同、大変感謝しているところです。1日も早く、皆様の日常が取り戻せるように心から願っております。我々も競馬開催を継続できるよう関係者全体で取り組んでまいります。今後とも応援をよろしくお願い申し上げます」とコメントを発表した。

武豊騎手は自身のオフィシャルサイトで「私たちは競馬ができることを何よりの幸せと感じて、週末の貴重な娯楽としての競馬に全力を注ぎます。各自が健康に十分留意して、レースでは全力プレーを。競馬が皆さんに希望を与えられる存在となるように頑張ってまいります」と第一人者として騎手の気持ちを代弁して述べている。

スポーツ界がほぼ休止している現在、エンターテインメントも含めて、競馬はライブの楽しさを発信している貴重な存在と言えるだろう。

日本馬主協会連合会も4月15日、新型コロナウイルス感染症対策としての支援のため、1000万円を計上したと発表した。日本競走馬協会(吉田照哉会長代行)は4月15日、新型コロナウイルス感染症への既存薬の治療効果を研究している国立研究開発法人国立国際医療研究センターに1000万円を寄付した。馬主も含めてサークル全体で支援の輪も広げている。

我々取材者もマスクを必ず着用し、手の消毒を欠かすことはない。筆者が出演している競馬中継はアナウンサーと現場のリモート中継を始めている。実は競馬場で出演しながら無観客クラシックとなった桜花賞と皐月賞を映像で観戦したのだが、いつもなら場内からGⅠファンファーレに合わせて巻き起こる手拍子や歓声がないことに気づいた。こんなところでもあらためて無観客であることを感じた。

ラジオにも出演しているが、換気のいいスタンドの外側のバルコニーの実況席でアナウンサーと解説者で十分な間隔を取って中継している。騎手らと接触する検量室周辺は競馬記者クラブ加盟社で1社2人までに限定して取材を続けている。

■コロナ禍の今、競馬開催の意義
競馬は売得金の一部を国庫納付金として納めている。中央競馬は昨年、約3000億円を納付した。国の貴重な財源となっていることは確かだ。

現在は電話・インターネットの投票に限定されているが、緊急事態宣言以降、桜花賞も皐月賞も前年の8割以上の売り上げを記録。今春の福島競馬の開催4日分の売得金は電話・ネット投票限定ながら昨年を5.7%上回った。これは驚異的だ。無観客となってからネット投票の加入者も増えている。
JRAが5月31日まで無観客で開催することを発表したことで、春の福島競馬はすべて無観客となることが正式に決まった。さらに、日本ダービーが1944年以来の無観客となることも決まった。競馬に携わる者としてダービーが無観客となるのは重い事実だ。それでも競馬を無事に開催するためには当然の決定でもある。

JRAの後藤正幸理事長は『このたびの新型コロナウイルス感染症に罹患された皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。新型コロナウイルス感染拡大の影響に鑑み、私どもは4月25日(土)から日本ダービー当日の5月31日(日)までの間、お客様をお迎えすることなく無観客で競馬を開催することといたしました。中央競馬をお楽しみいただいているお客様にはご不便とご迷惑をお掛けいたしますが、何卒ご理解、ご協力くださいますようお願いいたします。引き続き、中央競馬を御愛顧いただきますよう重ねてお願い申し上げます』とコメントを発表した。

外出を控えなければならない状況の中、競馬が貴重な娯楽としての役割を果たしているのだろう。それでも今後の新型コロナウイルスの感染拡大次第では無観客競馬を続けることも予断を許さない状況だ。

我々競馬に携わる者は気を引き締めながら、サークル全体で無観客開催を続けるための努力をしていく。取材者の立場といえどもそれは同じである。

高橋 利明:福島民報 記者

📸福島競馬初の無観客となった1Rのスタート(2020年4月11日、筆者撮影)

この日記へのコメント

コメントはありません。

関連競馬日記

新着競馬日記

人気競馬日記