単勝オッズ1.1倍。
数多くレースが組まれている中で、ここまで人気が被るシーンというのはそれほど多くない。ましてやG1。それぞれに強い競馬をしてきた馬が集う中でこれほどの支持を集めるのは、並大抵の馬では不可能な芸当だ。
それに加え、ゴールしてみるまで何が起こるか分からないのが競馬。圧倒的な支持を集めたとて、それにきっちり応えることが本当に本当に難しいというのは、恐らく誰もが感じていることだろう。予想をしていた人、馬券を握りしめていた人、応援していた人も勿論緊張しただろうが、そうした馬を送り出す関係者の方々の重圧はいかほどのものか想像もできない。
それだけに、今回最終コーナーで見せたリバティアイランドの急加速は相当に爽快なものだったのではないだろうか。「あ、これは大丈夫だ」と瞬時に思わせる末脚は、その後の直線を完全に独演会場にしてみせた。豪快で、鮮烈で、そして完璧。文句なしの牝馬三冠達成だった。

レースは序盤から各馬が前にごった返すような形になったが、どの馬もガリガリと競り合う形にはならず、ペースは思ったほど上がらず。まるで欧州競馬のような一団の馬群が形成された。
その中を好位で運んでいたリバティアイランドは、”包まれて身動きが取れず”という最悪の状況を回避するためか、外へ外へという意識がかなり強い動き方。通常、スローペースの中で外を回るというのは勝負所で負荷が大きくなりがちだが、この馬であれば直線で進路が開いてさえいれば大丈夫という、馬に対する川田騎手の絶対的な信頼が感じられた。そしてその選択はしっかりと奏功。直線を待たずして勝負を決することとなった。

勿論、こんな競馬が可能となるのは馬に相当な力があってこそ。リバティアイランドの能力が同世代の牝馬の枠には収まらない器だというのは誰が見ても明らかで、今後は更に上、国内最強の座や世界を見据えた戦いに身を投じることになるが。、指数的な見地で見た場合、オークスの時点であのアーモンドアイを超える数字を記録していた馬。イクイノックスらスターホースとの対決はまだ先だが、既に肩を並べるレベルにあるのではと思えてならない。どこまで強くなり、どこまでの高みまで上り詰めるのか、今後も楽しみに見守りたい存在と言える。

そんなリバティアイランドと同等の印象を残したのが2着のマスクトディーヴァ。
馬が緊張していたということで僅かにバランスの崩れたスタートになり、最終コーナーから直線にかけて進路確保に時間を要したことを考えれば、かなり中身の濃い走りであったように感じる。
3着にハーパー、4着にドゥーラと、オークス上位勢が順当に上位に来ていたが、本馬の最後の脚はこの馬たちすら全く問題にしない、少し異質にすら感じられるほどの威力だっただけに、レース直後の筆者の脳裏に浮かんだ感想は「化け物が2頭いた」というものであった。現時点ではレース巧者ぶりも含めてリバティアイランドの完成度が上という印象だが、この馬も古馬まで含めた国内一線級を相手にしても十分にやり合えるだけの能力を有しているはずだ。
クラシック全体の結果だけ見ると、リバティアイランドが抜きん出ていて、本馬やハーパー、ドゥーラといった辺りが第2グループという評価になるのだろうが、個人的にはリバティアイランドが横綱で、本馬が限りなく横綱に近い大関、そしてローズＳにおいて本馬と同等のスケール感を示したブレイディヴェーグも大関として並び立っている3強世代という印象。リバティアイランドだけの世代ではない！ と自らの脚で証明する機会が来ても何ら不思議ではないはずで、今後に向けての楽しみも多く残したクラシック戦線であったように思う。


※来週の当記事は筆者都合により休載いたします。ご了承ください。



○霧（きり）プロフィール
ウマニティ公認プロ予想家。レース研究で培った独自の血統イメージに加え、レース戦績や指数等から各馬の力関係・適性を割り出す”予想界のファンタジスタ”。2023年1月には、長年の活躍が認められ殿堂プロ入りを果たす。

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