皐月賞でワンツーフィニッシュを決めた１着ジオグリフ、２着イクイノックスを、〝競馬の祭典〟日本ダービーにも送り込む木村哲也調教師（４９）＝美浦＝を直撃。それぞれの調整過程や手応え、開業１２年目で初制覇が懸かるダービーへの思いなどを聞いた。（聞き手・板津雄志）

◇

──皐月賞は２頭出しでワンツーフィニッシュ

「ジオグリフが勝ったといううれしさは当然あるけど、その一方でもう１頭のイクイノックスは…と思うと、振り返るのが正直つらいですね」


──ジオグリフには戦前『この馬の名誉を回復したい』と言っていた

「体調が良かった。それが大前提。共同通信杯（２着）は気持ちが空回りしたというか、こちらがうまく段取りできなかった。（皐月賞へは）いろんな準備をしていった。調教で意識的に馬の多い時間帯に出して、その環境の中でも力を発揮してくださいとか。結果論だけど、それらがうまくいった」

──２着イクイノックスのレースぶりは

「接触する不利があったり、それで馬が怒って向こう正面まで…。最後も内にモタれたというか、止まったというか。厩舎にいた１カ月で、どの部分がそうさせたのかと考えている」

──２頭とも放牧を挟んで帰厩。まずジオグリフの状態を

「厩舎に帰ってきて感動しました。皐月賞が終わって週明けに見て、やっぱり走ってきたなという体つきで。ここからさらにダービーで頑張れというのは葛藤があったけど、へこたれずに帰ってきてくれた。むしろ良くなっているくらい。馬が自信を持って歩き、毛づやもさらに良くなった」

──イクイノックスは

「体質の弱さがあり、異例と言われるレース間隔でＧⅠを使って、レース後のリカバリーはこの馬の生命力に賭けざるを得ないところだったけど、皐月賞後の全休日明けに見たら馬体がパンプアップしていた。（放牧からも）問題のない状態で帰ってきてくれたし、良くなっていると思う。こちらも感動しました」


──東京芝２４００メートルの適性は

「ジオグリフは（父が短距離馬のドレフォンで）誰しも短いところという先入観でスタートして、それを彼は自分の実力で覆してきた。適性があるのか分からないけど、悩むところはない。イクイノックスも向き不向きじゃなく体調が大事」

──ダービーとは

「たぶん、とてつもない世界。ダービートレーナー、ダービージョッキーしか分からないような。皐月賞を勝ったときでも反響が違った。ダービーとなると見える景色が段違いだと思う」

──その大一番も２頭出しで挑む

「（コロナ前は）ダービーになると、みんな徹夜で並んでいて。それを見ると、もっと仕事しなきゃってエネルギーをもらうわけです。出ていても出ていなくても、魂を揺さぶられますよね。だから、ダービーの１つの枠は簡単に使ってはいけないと思うし、それを２つ使わせていただく立場は特別。感謝ですね。ちゃんと責任を果たせるような仕事をしたい」

■木村　哲也（きむら・てつや）１９７２（昭和４７）年１１月１６日生まれ、４９歳。神奈川県出身。神奈川大卒業後、北海道の牧場で３年働き、アイルランドでも研修。その後、ＪＲＡ競馬学校の厩務員課程に入学し厩務員、調教助手を経て、２０１１年に調教師免許を取得。同７月に厩舎を開業した。ＪＲＡ通算３０６勝、重賞はＧⅠ２勝を含む１８勝。

木村厩舎の２頭は２２日に美浦で日曜追いを消化。ジオグリフは坂路でブレッシングレイン（古馬１勝）と併せて４ハロン５４秒８－１２秒４で馬なり併入。イクイノックスも坂路でミアマンテ（２勝）と併せ、４ハロン５４秒２－１１秒９で半馬身先着した。「ジオグリフはリズム良く走れて、皐月賞前と同じような調整で進められています。イクイノックスも雰囲気は良かった。ジオグリフと比べると、まだ体質的にはそこまでではない部分もあるのですが、こちらも前回と同じようなコンディションをキープできています」と木村調教師は話した。


◇

日本ダービーでの同一厩舎のワンツーは過去４度あり、達成すれば５５年ぶりの快挙。このうち１９５２年と６３年は皐月賞の１、２着馬がそのままダービーでも１、２着となっている。もし、イクイノックスのほうが勝てば、異なる馬で同一年の皐月賞＆ダービー制覇となり、これは２０１９年の角居勝彦元調教師（皐月賞＝サートゥルナーリア、ダービー＝ロジャーバローズ）に次ぐ史上２人目の記録となる。

この記事はいかがでしたか？

 (7)