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近年の競馬ファンの見立ては恐ろしく正確だ。
今から1年近く前、昨夏の時点でチェルヴィニアはすでに”世代ナンバーワン”の評価を受けていた。
だが2歳女王決定戦である阪神JFを回避すると、その後の調整にも苦労。何とか間に合わせた桜花賞では13着と、屈辱の大敗を喫した。
この結果は、声援を送っていたファンはもちろん、管理する陣営も相当に悔しかったはずだ。馬に人間のような感情があるならば、チェルヴィニア自身もそう感じていただろう。
ナンバーワンの称号が地に落ち、泥に塗れる。勝負事である以上仕方のないことだとは言え、こうした転落劇は容赦なく、残酷だ。
だが、チェルヴィニアが放つ強者のオーラは、泥に塗れ続けることを許さなかった。
ヴィントシュティレとショウナンマヌエラが暴走気味に逃げて作ったペースは、1000m通過が57秒7と短距離戦のような激流。当然後続は深追いしなかったが、動くタイミングなどにかなりの難しさを与えた展開だったのは確かだ。
その中をチェルヴィニアは中団後方外目から、ライバルである桜花賞馬ステレンボッシュを見る形でじっくりと運ぶ。ルメール騎手の巧みな位置取りもあり、ステレンボッシュを内目の窮屈な場所に封じ込めた上で、自身はすぐに進路が確保できる場所をキープしていた。
直線に入ると、早めに動いたクイーンズウォークとランスオブクイーンが競り合いを演じる。
その外からチェルヴィニア、スウィープフィート、ライトバックらが迫るが、内に押し込められていたステレンボッシュが強靭な精神力をもって強襲。道中の鬱憤を晴らすようにねじ伏せにかかる。
が、完全に抜け出すのとほぼ同時に、ステレンボッシュは大きく外に膨らんだ。後に判明した落鉄の影響があった可能性が考えられるが、走りが乱れたのだ。
その隙をチェルヴィニアは突く。
自身も苦しかったであろう残り100mでさらに末脚のギアを上げてステレンボッシュに迫ると、ゴール間際で半馬身逆転。阪神JF、桜花賞と回り道をしてきた悔しさを爆発力に転化して、堂々と”世代ナンバーワン”の座を奪取して見せた。
終わってみれば、チェルヴィニアは単勝オッズ4倍台の2番人気。桜花賞馬と比べても大きな人気差はなく、それに応えるように快勝したことになる。
桜花賞の惨敗があってもこの馬の能力を疑わず、懸命に立て直しを図った陣営の厩舎力とファンの眼力、そしてチェルヴィニア自身の素質の高さには驚くばかりだ。
ステレンボッシュと共に後続に付けた差は決定的で、NHKマイルCに回ったアスコリピチェーノも含めた3頭が世代のトップと見て間違いなく、三冠最終戦の秋華賞では再び3頭がぶつかることになるかもしれない。桜花賞では本馬が完調手前で力を出せなかったが、万全の状態ならばどの馬が一番強いのか。ぜひ実現してほしい対決だと思う。
2着のステレンボッシュも負けて強しという内容。
人気馬ゆえのマークの厳しさもあり、道中は負荷の強い位置取りだった上、落鉄もあった。そんな中でもチェルヴィニア以外には力の差を見せつけており、基礎能力と安定感は疑う余地がない。
ここから秋に向けて描いてくる成長曲線次第では世代の中で頭一つ抜け出す可能性も十分にあるし、引き続きこの馬を中心にクラシック戦線が回って行くのは間違いなさそうだ。
3着にはライトバックが入り、桜花賞に続いて3着という珍しい記録を達成。
レース前はいつものようにチャカ付く仕草を見せており、その影響が心配されたものの、道中の折り合いや追走の雰囲気は非常に良く、その分が最後の一伸びに繋がった。
それでも前は遠く、現状では完成度や気性面の分遅れを取っている印象だが、このあたりが秋までにどこまで成長してくるか。関東への輸送や距離延長でも崩れなかったように、2歳時よりも精神面の成長は顕著であるように映るので、心身共にさらに一段上の域に到達するようであれば面白い。
4着のクイーンズウォークは自身の大きなストライドを完璧に活かすレース運び。一時はこの馬が押し切るかという雰囲気を使ったほどだったが、その後の伸びは現状の力差を感じさせるものだった。
今回の走りを見ても、世代のトップ3を追いかける第2グループにいるのは確か。ライトバック共々今後の成長を注視したいところだ。
熾烈な3着争いで僅かに遅れをとったものの、5着ランスオブクイーンは大健闘。
前から離れていたとは言え、先行していた馬たちには非常に優しくない展開の中でここまで踏ん張ったのは非常に評価できる。いずれはオープンクラス近くまで上がってくる馬だろう。
芝はもちろんだが、血統構成からはダートでも良さを発揮してきそうで、色々な可能性を秘めた馬だと感じる。動向には注目しておきたい。
終わってみれば、1~3番人気の馬が上位を独占。
馬連のオッズも3連複のオッズも1番人気で至極順当な結果となり、変化球打ちの筆者にとっては見送り三振を喫したような気分だった。このレースだけでなく、平場でもこうした結果は増えているように感じるだけに、近年ファンの予想力は明らかに上がっている。
こうした決着を素直に見抜ける眼力と、先週のヴィクトリアマイルのような結果を察知する野生の勘が同時に欲しいなぁ……などと夢想する日々だ。