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週末に行われる中央重賞の過去の優勝馬をピックアップして回顧し、競馬の長い歴史の狭間できらめいた馬を紹介する「中央重賞懐古的回顧」。第4回は2010年のエルムS
優勝馬クリールパッションを取り上げる。
重賞級では近頃あまり見受けられなくなった印象があるが、函館・札幌開催で構成される夏の北海道シリーズの競走に毎年照準を合わせてくる、ある種の風物詩とでも言うべき馬が中央競馬には存在する。函館記念や札幌記念、ダートならエルムS…あるいは地域色あるオープン特別で走る姿をひとたび見掛ければ、思わず夏を意識する。そんな風鈴や蚊取り線香のような存在の馬に親しみの念を抱くファンも少なくあるまい。
2010年代前半のダート戦線で言えば、エーシンモアオバーとクリールパッションがそんな存在であった。いつも淡々と逃げる西のエーシンモアオバー、そして末脚堅実な東のクリールパッション。6年連続でエルムSに出走しているこの2騎の獲得賞金額を比較すると前者が後者の2倍近いのだが、こと「エルムSらしい馬」という観点で比べれば6戦全て6着以内にまとめた上で2010年に優勝している後者に軍配が上がるだろう。言うなれば彼は「ミスターエルムS」である。
その2010年のG3・エルムS。中団から絶妙なタイミングで動いた5歳馬クリールパッションが前を行くエーシンモアオバーやオーロマイスターを差し切る姿は、早い時期から強豪に揉まれた彼のポテンシャルの高さを示すのに十分だった。2着に敗れたオーロマイスターは、続く南部杯にて当時無敵状態にあったエスポワールシチーを完封する大金星を挙げるのだが、片やクリールパッションは以後29戦するも勝ち星ゼロ、3着が1回あっただけで9歳の秋に競馬場を去ることになる。
エルムS優勝後のクリールパッションが不振に陥った理由はいくつか考えられる。そのうちの最たるものは、彼の競走馬としての“スイートスポット”が小さかったことだろう。
芝スタートのコースではよく立ち遅れる上に器用でも無く、距離は千七・千八がベストで2000mは長いし、同配合のトランセンドが持ち合わせていたような推進力にも乏しい。加えて高速馬場を苦手とするのだが、砂の深い地方交流重賞に活路を見出すにしても適距離の競走は少ない。その中で唯一条件が合いそうな船橋・日本テレビ盃ではG3・1勝の彼は補欠止まりで選出されなかった。G1では一枚足りない実力面も相まって、千七且つ円形コースでコーナーが緩めな札幌のエルムSで彼が最も輝いたのも当然の帰結だった。
それでも通算58戦をひたむきに走り抜き、多くのレースで本賞金ないし出走奨励金を稼いだクリールパッションという馬は、実に馬主孝行であったと言える。ラストランとなった2014年のエルムSでは不得手な雨中の不良馬場で泥にまみれながら馬群を割り、懸命に脚を伸ばして5着に健闘。4年前の王者は、この時単勝最低人気であった。やがて哀しきミスターエルムS。夏らしい馬名を持ち、毎年の北海道シリーズにおける風物詩とも呼べた彼だが、水色を基調とした涼しげなその勝負服には晩夏に抱く感情のような侘しさと哀愁を宿していたように今では思う。
クリールパッション
牡 鹿毛 2005年生
父ワイルドラッシュ 母イマジネーション 母父トニービン
競走成績:中央53戦8勝 地方5戦0勝
主な勝ち鞍:エルムS
(文・古橋うなぎ)
このニュースへのコメント
三枝応援
2010年9月20日、もう12年も前になるのか。札幌競馬場でのダート重賞、エルムステークスは私にとって忘れられないレースのひとつである。クリールパッションはパドックで堂々と落ち着いており、馬体も光り輝いていた。その時点では単勝3番人気だったが、他のどの馬よりも断然よく見えた。勝つのはこの馬と直感的にわかった。迷う材料などなかった。もちろん単勝馬券は早々と決めた。
けれども相手が見つからない。1番人気の逃げ馬のエーシンモアオバーは馬体も毛ヅヤもどうも冴えない。他の馬もあてにしていいのが全く見つからない。結果として2着にきたオーロマイスターは踏み込みも弱く、500キロ超の馬体がどうも小さく見えたので買わなかった。
レースはやや速めのペースで先行する4,5頭を4コーナーから進出したクリールパッションがまとめて差し切った。差し足が力強く、ゴールの1ハロン手前ではまだ5馬身以上後ろにいたがはやばやと勝利を確信できた。
単勝しか的中しなかったけれども、観戦して大満足のレースであった。
その思い出が蘇る記事を読めて嬉しい。
2022年8月1日 22:01