歴史的快挙を阻んだのは、同じ美浦所属の牝馬だった。
安田記念が7日、東京競馬場で14頭によって争われ、3番人気の
グランアレグリアが直線で抜け出してGI2勝目をマーク。池添騎手は、レース中の負傷で右目を腫らしながらも笑顔で喜びを爆発させた。史上初の芝GI8勝目が懸かっていた断然人気の
アーモンドアイは猛追したが2馬身半差の2着。連覇を狙った2番人気の
インディチャンプは3着だった。
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血染めでつかんだ勲章だ。昨年の
桜花賞馬
グランアレグリアが、圧倒的人気を集めた
アーモンドアイに2馬身半差をつけてGI2勝目。池添騎手は「やったー」と叫びながら、馬上で何度もガッツポーズ。引き揚げてきてゴーグルを外すと、腫れあがった右目から鮮血がしたたり落ちた。
「こんな醜い顔で恥ずかしいんですけど、自分の仕事はしっかりできたと思います。うれしさの方が勝っているので、目はもう痛くないです」
気丈に振舞ったが、試合後のボクサーのような顔が、ダメージの大きさを物語っていた。アクシデントが起きたのは3コーナー過ぎ。時速70キロものスピードで疾走するなか、前の馬が跳ね上げた巨大な芝の塊が顔面を直撃。脳しんとうを起こしかけるほどの衝撃だった。何とか意識を保つと、直線入り口で一気にスパート。馬場の真ん中から早めに先頭に立たせ、懸命にステッキをふるって後続との差を広げた。
「外から1頭来ていたので、蓋をされるより気分のいいときに行った方がいいと思って。(自分の)目はふさがりかけていましたが、必死すぎて忘れていました。逆に(衝撃で)力が抜けたのが良かったのかもしれませんね」。インタビュー中には、ルメール騎手からアイシングの氷を差し入れられ、「ハードワーク!」と声をかけられる一幕も。敗者も称賛を惜しまない、ガッツあふれる騎乗だった。
「手応えが良かったので、4コーナーを回るときは安心して見ていられました。強い相手に強い競馬で勝ってくれました」と笑顔の藤沢和調教師。もしアーモンドが勝っていれば、自身が調教助手時代に手がけた
シンボリルドルフなどの“芝GI最多7勝”の記録が塗り替えられていた。それだけに「(負けたら)野平のじいちゃん(ルドルフを管理した故・野平祐二元調教師)に怒られるからね」と、ホッとした表情を見せた。
今後は休養し、秋も短距離路線を歩む予定だ。
「すごいメンバーに勝てて、価値が上がったと思います。チャンスがあるならずっと乗っていたいですね」と池添騎手。次はファンの戻った競馬場で、大歓声(スペイン語で“
グランアレグリア”)を呼び起こす。(漆山貴禎)
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安田記念」の着順&払戻金はこちら
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グランアレグリア 父
ディープインパクト、母タピッツフライ、母の父タピット。鹿毛の牝4歳。美浦・
藤沢和雄厩舎所属。北海道安平町・ノーザンファームの生産馬。馬主は(有)サンデーレーシング。戦績8戦5勝。獲得賞金4億5324万3000円。重賞は2018年GIII
サウジアラビアRC、19年GI
桜花賞、GII阪神Cに次いで4勝目。
安田記念は
藤沢和雄調教師が1997年
タイキブリザード、98年
タイキシャトルに次いで3勝目、
池添謙一騎手は初勝利。馬名は「大歓声(スペイン語)」。
★
池添謙一騎手…10度目の挑戦で初勝利。これまで最高は2002年(
ダンツフレーム)、05年(
スイープトウショウ)の2着。JRA・GIは19年
マイルCS(
インディチャンプ)以来の26勝目で、6年連続のJRA・GI勝利。
★
藤沢和雄調教師…1998年(
タイキシャトル)以来、22年ぶり3勝目で、
堀宣行調教師に並ぶ最多。JRA・GIは19年
スプリンターズS(
タワーオブロンドン)以来、自身の持つ歴代最多記録を更新する通算30勝目。JRA重賞は
シンザン記念(
サンクテュエール)以来の今年2勝目で通算121勝目。
★
ディープインパクト産駒…17年(
サトノアラジン)以来の通算3勝目で、種牡馬別
安田記念勝利数単独1位になった。JRA・GIは
日本ダービー(
コントレイル)に続く2週連続の今年4勝目で、通算56勝目(ほかにJ・GIを1勝)。JRA重賞は
日本ダービーに続く2週連続で今年16勝目。通算232勝目。
★馬主 (有)サンデーレーシング…所有馬延べ15頭の出走で初勝利。これまで最高は18、19年(ともに
アエロリット)の2着。JRA・GIは
天皇賞・春(
フィエールマン)以来の今年3勝目で通算51勝目(ほかにJ・GIを2勝)。JRA重賞は前日の
鳴尾記念に続く今年7勝目で通算187勝目。
★生産牧場 ノーザンファーム…19年(
インディチャンプ)に続く2年連続で通算4勝目。JRA・GIは
ヴィクトリアマイル(
アーモンドアイ)以来の今年4勝目で通算148勝目(ほかにJ・GIを3勝)。JRA重賞は前日の
鳴尾記念に続く今年24勝目で通算628勝目。
★GI馬10頭出走…14年の9頭を抜いて
安田記念史上最多出走数。
★関東馬の勝利…16年(
ロゴタイプ)以来、4年ぶり。通算成績は関東馬、関西馬ともに17勝。ほかに外国馬が3勝している。
★牝馬の優勝…09年(
ウオッカ)以来11年ぶりで通算5勝目。
★4歳馬の勝利…18年(
モズアスコット)から3年連続の通算13勝目。
◆売り上げ
安田記念の売り上げは190億2941万8000円で、前年比93・0%となった。今年、これまでの平地GI11レースで、前年比減は
日本ダービーに続いて9レース目。前年比増は
高松宮記念と
ヴィクトリアマイルの2レース。