エルコンドルパサーや
マンハッタンカフェとのコンビで平成の競馬界を盛り上げたジョッキーがまた一人、ターフを去った。
蛯名正義騎手(51)=美・フリー=が、2月28日の
中山記念(
ゴーフォザサミット4着)を最後に騎手を引退。最終レース後の引退式でファンや仲間、家族に感謝を伝え、ムチを置いた。1日からは調教師・
蛯名正義がスタートする。
敗れても、最後の表情は晴れやかだった。2万1183戦目に迎えたラストライド。
蛯名正義が騎乗した
ゴーフォザサミットは、懸命に差を詰めたものの4着に敗れた。かなわなかった有終の美。しかしターフに一礼してから引き揚げてきた検量室前では「本当に良く頑張った」とパートナーをねぎらい、「狙っていた最高の位置で運べた。やりたい競馬はできた」と胸を張った。
少年時代にテレビで見たグリーングラスの
菊花賞に憧れ、飛び込んだ世界。同期の
武豊騎手が瞬く間にスターダムにのし上がるなか、地道に腕を磨いた。“勝つことが正義”とばかり、負けん気でのし上がるエビショー魂はこの日も健在。5Rは4番人気
シルバースピリットで、10Rは9番人気の
スマートアルタイルで快勝。ファンに最後の恩返しも果たした。
最終レース終了後は無観客のウイナーズサークルで引退式。
武豊騎手から「究極の夢は蛯名厩舎の馬で
凱旋門賞」とVTRでエールが届けられた。ファンに向けては「皆さんの応援に励まされ、勇気づけられて楽しく頑張って来られました。チーム蛯名をサポートしてくださった方々、友人、たくさんの方々にお世話になりました」と惜別のメッセージ。「それとやっぱり、家族…」と声を詰まらせると、「どんな時も支えてもらって、頑張ってこられた騎手人生だったと思います」と目を潤ませた。
式終了後は、大勢の騎手仲間からの祝福に笑顔を取り戻し「好きなことをやらせてもらって、親にも感謝したい。大変だけど、ジョッキーというのは本当に素晴らしい仕事だと思います」とうなずいた。
通算2541勝、重賞129勝、GI26勝。34年間の騎手道は大団円を迎えたが、忘れ物もある。
日本ダービー制覇、そして日本馬初の
凱旋門賞優勝の夢を“
蛯名正義厩舎”に託す声は多い。
「騎手として燃え尽きて調教師になるんじゃない。それに、やるからには負けたくない」と感傷に浸る間もなく第二のホースマン人生を歩み出す勝負師。来春に予定される開業まで、名門・藤沢和厩舎で研鑽を積む日が続く。 (内海裕介)
蛯名 正義(えびな・まさよし) 1969(昭和44)年3月19日生まれ、51歳。北海道出身。87年3月1日に美浦・矢野進厩舎所属でデビュー。同期に
武豊騎手らがいる。同年に30勝を挙げて関東新人騎手賞を受賞。96年の
天皇賞・秋(
バブルガムフェロー)でGI初勝利を果たした。98年には136勝で初の関東リーディングを獲得。2001年は133勝で全国リーディングに輝いた。10年は
アパパネで牝馬3冠。JRA通算2万1183戦2541勝は現役3位で歴代4位。JRA重賞はGI26勝を含む129勝。