「頑張れ!……頑張れっ!!……頑張れっ!!!」
JRAが昨日公開したジョッキーカメラ映像には、魂の叱咤激励が鮮明に記録されていた。
その声の主は、普段クールな印象を受ける
坂井瑠星騎手であり、その声に応えるように必死の粘りを見せていたのは間違いなく
レモンポップだ。
ダート王者が最後の最後に見せた泥臭い強さは、名前通りの爽やかな余韻となって引退の花道に彩りを与えた。
内目の枠に有力な先行馬が固まり、どんな展開になるか見解が大きく分かれた今回。目立つスタートダッシュを決めたのは
レモンポップであった。
前走で彼を徹底的にマークした
ペプチドナイルも好スタートを決めていたが無理に競りかけることはなく、外から迫った
ミトノオーも、すぐに1,2コーナーが訪れるコースレイアウトでハナを奪うのはロスが大きいと判断したのか、強引に動かず2番手で落ち着いた。
ミトノオーに張り付かれる形にはなったものの、思いの外あっさりと隊列が決まったことで、
レモンポップは上手く自分でペースを作ることに成功。1000m通過は60秒8であり、60秒9で通過した昨年とほぼ同じだった。
しかし、序盤でたっぷりと息を入れることのできた昨年と異なり、今年は明確に息を入れることができたのは中盤の僅かな区間のみ。勝負どころでのペースアップも昨年より若干早く、鞍上の坂井騎手は見た目よりもずっと攻めた騎乗をしていたように思う。
その先にあったのが、冒頭で記した叱咤激励だ。
直線半ばでさすがにスピードの落ち始めた
レモンポップだが、鞍上の気持ちに応えるように減速が止まり、さらには盛り返す。
後方からは文字通り”鬼と化して”いた
ウィルソンテソーロと川田騎手が猛追してきていたが、人馬一体の走りがもたらした粘りの分だけ
レモンポップが先着。最後まで王者の走りを見せつけて、現役生活を終えることになった。
中京競馬場に訪れたファンと、全国各地で声援を送ったファンに感動を与えての勝利となった
レモンポップ。
結局国内では一度も連対を外すことがなく、最後の最後まで完璧な王者のまま次の戦いへと赴く。
戦績通りダート路線での活躍が見込まれるのはもちろんのことだが、父のレモンドロップキッドは芝で活躍したビーチパトロール(現種牡馬)も出しているように、キングマンボ系らしく芝への適性も秘めている。
レモンポップ自身、母父は芝・ダート不問の万能ホースだったジャイアンツコーズウェイなので、配合によっては芝で良さを出すタイプも出てくるかもしれない。
現役生活同様、種牡馬としても完璧で堅実な結果を残すことができるか、これからも注目したいところだ。
2着の
ウィルソンテソーロは昨年に続き豪快な末脚を見せたものの、惜しくも届かず。
インから2列目を確保してロスを抑えながら、3~4コーナーでも無駄に動かず、されど虎視眈々と進路確保を狙う姿はさすが川田騎手と思えるもの。素晴らしい立ち回りだったように思う。
ウィルソンテソーロ自身も決して楽なローテではない中での激走で、このタフさは称賛に値する。
レモンポップが現役を退き、同馬主の
ウシュバテソーロも来年で8歳と、ダート路線の一つの時代が終わっていく中で、本馬はこれからどのような戦績を刻んでいくだろうか。もしもう一段上を目指す成長力があるようならば、王者の座を狙える1頭だろう。
そして3着も昨年と同じく
ドゥラエレーデ。1~3着が前年と同じ馬だったというのは筆者にも記憶がない珍事だ。
近走内容から今年も人気は上がっていなかったが、後方インで徹底的に我慢させ、直線も最内を突いて伸びるという一切無駄がない立ち回り。先行のイメージが強かった本馬に差し競馬を実現させ、しっかり結果も残すあたりはムーア騎手の手腕によるものが大きいか。
2017年の当レースでは不振に陥っていた
ゴールドドリームを復活させたこともあり、改めて世界的名手の凄さを実感した。
本馬自身、濃いキャリアを積んでいる分実感が湧かないが、来年でまだ5歳。ようやく脂が乗ってくる時期と言える。今回発揮した新味が来年に繋がる可能性も十分にあり、稀代のトリックスターとしての活躍はまだまだ続きそうだ。
4着の
ハギノアレグリアスと5着の
ペプチドナイルもロスの少ない立ち回りで自身の力はしっかり出している。
ペプチドナイルに関しては、やはり1800mよりもマイル以下のほうが適性的にフィットする印象で、連覇を狙う
フェブラリーSではまた有力候補の一頭になってくるだろう。
そして今後に向けての可能性を示したのが6着の3歳馬
サンライズジパング。
不器用という陣営の危惧通りに、序盤から位置を確保することができず、1コーナーの入りの時点でインから5頭分ほど外の位置。
その後もずっと外々を回り続け、中京でこの立ち回りでは並の馬ならば大惨敗だったはずだが、それでも6着。基礎能力の高さやスタミナの豊富さはかなりのレベルにあると判断できる。
器用さというのはなかなか成長しても身に付くものではないが、もし来年以降もさらに成長してくるようならば、絶対能力で強引に押し切るタイプへと変貌していく可能性がある。
この馬を相手にしない
フォーエバーヤングの存在も含め、現3歳世代のダートホースたちがこの路線を制圧していく可能性も十分にありそうで、本馬のみならず有力各馬の動向にも注目していきたい。
私事だが、昨年印を打てなかった
レモンポップを今年になって追うというのは自分の中でご法度だったため、今年も彼には重い印を打てなかった。
当然のように大惨敗したわけだが、ヤケ酒をあおりながら見たジョッキーカメラ映像を見て、普段は爽やかな
レモンポップと坂井騎手が見せたアツさに見事にアテられてしまった。
「へへっ、お前たちもやるじゃねーか」
と、少年漫画のノリで鼻の下を擦ってみたが、筆者が負け犬であるという事実は変わらない。
いいさ、今度は産駒で返してもらうから! と負け惜しみを心に抱きつつ、気持ちを次週に移していくことにしよう。