「マイルという距離でこの馬が日本で一番強いんだというレベルまで行ければいいなと思っています」
昨年
ジャンタルマンタルで
NHKマイルカップを制した時、川田騎手はこうコメントしていた。
実際にそれもじゅうぶんに可能と思わせるパフォーマンスであったし、さらに成長した暁にはどれほどの走りを見せてくれるのかと楽しみになる存在だったのは確かだ。
だが、それから彼がレースで走ったのは昨年末の
香港マイルのみ。しかも直線で早々に手応えを失っての惨敗だった。一頓挫明けでの海外遠征でこの結果は仕方のないものではあったが、それまでひたすらに強さを見せていた馬なだけに暗雲が立ち込めたのもまた事実で、今回はそれ以来の実戦。急仕上げ説、早熟説、万全説……いつにも増して様々な憶測が飛び交っていたように思う。
レースは
マッドクール、
ウインマーベルが積極的に出して行き、
ジャンタルマンタルは2頭を見るかたちで3番手。
シックスペンスも好位のインを確保し、虎視眈々と前を狙う。
序盤に
ロングランが掛かって前に並びかけるなど多少の動きはあったが、600m通過は35秒0と、G1であることを思えばかなりのスローペース。そのぶん後半にはかなり長くいい脚を使うことが要求された。
その中で
ジャンタルマンタルは
NHKマイルカップを彷彿とさせる先行抜け出し。抜群の手応えで早々に先頭に立つと、後続の馬に付け入る隙を与えない。後方から
ガイアフォース、
ソウルラッシュらベテラン勢が脚を伸ばすも大勢は覆らず、1馬身半差まで詰めるのがやっと。不安も憶測も吹き飛ばし、新たなマイル王が誕生する結果となった。
果たして走れる出来にあるのか。
予想する者の迷いが反映されたようなオッズだった
ジャンタルマンタル。高野調教師のトーンは戦前からかなり高かったが、その通りに状態面の不安を一掃する快勝だった。
大崩れの少ない安定した脚質と旺盛な競走意欲は健在で、一線級の
ソウルラッシュらも問題なく撃破。冒頭の川田騎手のコメント通り、一気にマイル日本一の座に就いたと言っていいだろう。
香港での惨敗という厳しい状況から前哨戦を使うという選択をせず、ここ一本に絞って見事に勝たせた陣営の手腕も素晴らしく、路線内で盤石の存在になっていきそうだ。
2着争いは
ガイアフォースが制した。
こちらも前走香港惨敗組で、今回は"10日競馬"でG1に挑むという異例のローテ。近走の不振もあって余計に人気を落としていた印象だが、当レース2年連続4着の実績は伊達ではなかった。
鞍上によればブリンカーも効いていたとのことだが、ここに来て再浮上を果たしたのは大きい。舞台によってムラがあるのはこれからも変わらないだろうが、好走歴のある舞台では特に警戒すべき存在か。
最終的に1番人気に支持された
ソウルラッシュはなんとか3着を確保。
序盤からやや忙しそうな挙動を見せ、スローペースの中、外から動くかたち。相応に負荷の高い内容だったが、いい脚の持続時間は今ひとつだった。
これまでの実績が示す通り、東京ではなぜかこうした競馬に終わることが多く、今回も"見えない壁"は突破できず。その主原因ははっきりせず、舞台適性の差というほかないか。
それでも馬券圏内は確保しているので、依然その能力は無視できない域にあるのだが、若い力の台頭をどこまで抑え込むことができるか。秋の走りにも注目が集まる。
4着の
ブレイディヴェーグは年初よりも絞れた身体で体調は良さそうだった。
不安定だったスタートも今回はしっかりと決めて好位から進むかたちで、現状の力は出し切った印象。昨年と比較しても大きく成長しているとの感触こそないが、ピークが過ぎているというところもない。
秋に進む路線がどうなるかは未定だが、
エリザベス女王杯を目標とした牝馬路線ならば上位評価可能な水準の能力を維持している。
評価が難しいのは大きく人気を下回る着順だった
シックスペンス。
久々のマイル戦でもそう無理せず好位確保が叶ったが、直線では早々に劣勢。自身初の2桁着順となってしまった。
陣営は緩い馬場を敗因に挙げており、4コーナーではバランスを崩すような様子も見られたが、それを踏まえても不可解なくらい淡白な負け方だったように感じる。
緩いとは言えど発表は良馬場。他場の開催後半と比較してもかなり良好な状態と言える東京でこれほどパフォーマンスが変わるとなると、今後は馬場状態にかなりナーバスになる必要性が出てきてしまう。
中山記念、
大阪杯で示したパフォーマンスはG1通用級と思えるだけに、今回に関しては馬場以外の要素も敗因の中に隠れているように思えてならない。