「河内の夢か、ユタカの意地か、どっちだー!!!」
この名実況が生まれたのは2000年の
日本ダービー。
東京の長い直線を舞台に、
アグネスフライトと
エアシャカール、そして
河内洋騎手と
武豊騎手による激闘は、約25年経った今でも鮮明に思い出せる。映像を見返すと毎回鳥肌が立つほどだ。
それにほど近い光景が、今年の
東京新聞杯では繰り広げられた。
レースは最低人気の伏兵
メイショウチタンが逃げを打ち、
セオがこれを追うかたち。
他馬はその少し後ろで一団の馬群を形成し、あまり動きのない平穏な道中となった。
とは言え、
メイショウチタンはそれほどスローで逃げるタイプではなく、途中のラップはあまり落ちない。その中で迎える東京の長い直線は、各馬の持つ末脚の威力と持続力のバランスを試す試練と化した。
その中で良さを発揮したのは、まず逃げていた
メイショウチタン。
自分の形を早々に作れたことで、持ち前の粘り強さを120%発揮。ぴったりと張り付いていた
セオに並ぶことを許さず、差しに構えた組にも大きなプレッシャーを与えにかかる。
ブレイディヴェーグや
ジュンブロッサムといった末脚自慢たちの動きも思いの外鈍く、一時は大番狂わせかと思えるシーンもあった。
しかし、そうはさせじと馬群を割ってきたのが
ボンドガールと
武豊騎手。昨春の
NHKマイルCにおいてトラウマ級の不利を受けた舞台だが、その記憶を振り払うように猛追。念願の重賞制覇に向けて脚を伸ばし続けた。
だが、その"ユタカの意地"は
河内洋”調教師”の管理する
ウォーターリヒトによって破られた。近走で磨きの掛かった極上の末脚は今回も健在。
ボンドガールの末脚を遥かに上回る威力でこれをねじ伏せ、ゴール寸前で重賞タイトルを奪取することに成功したのだ。
昨年もこの時期に
シンザン記念、
きさらぎ賞と連続好走していたものの、わずかに勝利までは届いていなかった
ウォーターリヒト。
皐月賞や
NHKマイルCでは強敵相手に歯が立たなかったが、夏を越してからの充実ぶりが凄まじく、どんな展開や馬場傾向でもしっかりと自分の脚は使う、堅実な差し馬へと変貌を遂げている。今回はG3ながら実績馬が多く、彼らをまとめてなで切ったというのは評価していいだろう。
この後は当然マイル路線を中心に歩んでいくことになるのだろうが、しっかり溜めが利くタイプだし、今ならば中距離でも良さを出せるかもしれない。
残念ながら河内調教師は3月で定年となってしまうが、本馬が走る限り”河内の夢”は続いていくはずだ。
惜しくも2着に敗れた
ボンドガールだが、マイル路線に早々に目処を立てたのは大きい。
この距離でも前進気勢は強めで、しっかりと溜めが利いているのか心配になる道中だったが、東京の直線を伸び切れたという経験は今後に繋がっていくはずだ。
こちらは牝馬である分
ヴィクトリアマイルという目標もあり、その先には
安田記念なども視野に入ってくるはず。
なかなか勝ち星を挙げられないもどかしさはあるが、今回で作ったいい流れを保持していけば、大舞台で2勝目を挙げる結果になっても何ら驚けない。
自分の形を貫き通して3着に粘りきり、波乱を演出した
メイショウチタンも立派。
左回りの1400~1600mで今回のような形になるととにかくしぶとく、オープン入り後に二桁人気で激走したのは今回でなんと4回目。崩れるときは豪快で、年齢的にも8歳と上積みが厳しいと思わせておいてのこうした走りは素晴らしい。毎回安定して走れるタイプではないが、今回と同様の展開が望めそうな時は警戒が必要だろう。
少し抜けた一番人気に推されていた
ブレイディヴェーグは僅差の4着。
発馬でバランスを崩しがちなのはいつものことで、今回も微妙な出負け。そこから位置を確保しに行ったが、
マイルCSほどの好位までは取れず、凝縮馬群の中で忙しそうな様子を見せていた。
陣営が「マイルでは少しスピード不足」と語っていたように、やや適性外の距離だった上、+14㎏と余裕残しの作りだったのも脚が溜まりきらなかった要因だろう。
それでも勝ち馬との差はわずか0秒2差なので、悲観するほどの結果とは思わないし、続く
ドバイターフの舞台は本馬にとってベストに近い条件のはず。世界の舞台で本気の豪脚が炸裂することを期待したい。