"先行馬が少なく、能力拮抗の混戦"。
根岸Sの出馬表を眺めた時の第一印象はこのようなものだった。
唯一の逃げ馬候補と言えた
ドンフランキーの出方から、どういった展開、隊列になるか想像した方は多かっただろう。前残りを警戒した予想も少なくなかったはずだ。筆者もまた、前にも後ろにもある程度警戒を払った予想を組み立てたつもりだった。
が、こうした作業は現実の出来事の前に見事に徒労と化した。
じわっとハナに立とうとした
ドンフランキーに、
アームズレイン、
サンライズフレイム、そして
サトノルフィアンが競りかけたことで、4頭雁行の先行争いという、重賞ではあまり見ないシーンが目の前に展開されたのだ。
とりわけ
サンライズフレイムと
サトノルフィアンの圧は強く、
ドンフランキーは全くペースを落とせない。1400mのレースでありながら、まるで1200mのような流れとなった上、直線入口では落馬してカラ馬となっていた
タガノビューティーが豪快に内に切れ込むというアクシデント。
このダブルショックで壊滅状態に陥った先行勢に代わって差し・追い込み勢が台頭してきたが、中でも1頭だけまるで違う脚を使ったのが
コスタノヴァだった。
スコーン! という擬音が似合う突き抜け方は、能力がまるで違うことの表れ。混戦という戦前のイメージはどこへやら、結末は"断然の一強”。鮮やかな重賞初制覇となった。
目の外傷で
武蔵野Sを使えず、しばらく実戦から遠ざかっていた
コスタノヴァ。
陣営も「まだ動きが重い」と評していたものの、同時に「前走よりいい状態」とも述べており、それを結果で証明したかたちとなった。
今回の猛ペースの中でも前進気勢が目立つ走りでありながら、刻んだラップは最後まで失速しておらず、その高い能力には舌を巻くばかり。3走前の欅Sでもスケールの大きさは示していたが、文句なしにG1級の素材と見ていいだろう。
レースぶりからは半兄
リレーションシップと同じく1400mがぴったりというタイプに映るが、これまでの実績が示す通りマイルでもじゅうぶんにハイレベルな走りができる馬。
フェブラリーSに矛先を向けてくれば有力候補となるのは間違いなさそうだ。
馬群や砂被りも苦にしないし、課題はスタートと距離が延びての折り合いくらいか。そのあたりもクリアしてくるようならば、一気にG1タイトルも掴み取るかもしれない。
2着の
ロードフォンスは直線でカラ馬の影響を受けるシーンがあったものの、立て直してからの伸びはしっかり。近走と同等以上のパフォーマンスで、初重賞でも結果を残してみせた。
デビュー戦こそ芝だったが、それも含めてここまでのキャリアは全て1400m戦。今後もこの路線を貫くのか、マイルへ挑戦するのか、距離短縮を視野に入れるのか、今回の好走は本馬にとって岐路になりそうだ。兄姉には芝馬もいるだけに、挑戦の選択肢は意外と広い。
3着の
アルファマムは後方待機という自分の形を持っている馬。今回も前の激流とは縁遠い位置におり、その分この着順まで押し上げられた印象だ。
今回が初めての重賞好走となったが、パフォーマンスのレベル自体は4歳頃から大きく変わっていない。常に自分の力の分だけはしっかりと走り、展開が向けば突っ込んでくる……という結果を繰り返している。
6歳になった今年も大きな能力減はないようだし、先行激化が予想できるレースでは引き続き警戒しておきたい。
4着の
サンライズフレイムは展開を思えば上々の粘り。
これまでは差しに近いかたちで構えることが多かった分、2番手から積極的に攻めていったのは意外だったが、こうしたレースができるのならば今後は1200mにも対応できるかもしれない。
今回は外傷からの休み明けという臨戦過程でもあったし、もう一段状態が上がってくるようなら重賞タイトルにもじゅうぶんに手が届くはずだ。
一方、ダート界の新星として期待と人気を集めた
フリームファクシは6着。中京で見せた豪快な伸び脚は鳴りを潜めた。
今回はスタートがあまり良くなく、二の脚も今一つ。道中で若干カラ馬の影響を受けるシーンもあったが、それを踏まえても行きっぷりが悪かった。
かなりの強行軍となったローテ、ハイペース、ダートスタートの舞台、凍結防止剤の影響等、勝った時とは異なる状況が揃っていたとはいえ、はっきりとした敗因は特定できず。元々ムラのあるタイプでもあるだけに評価が難しい。
強い時のパフォーマンスを踏まえると今後もダートが主戦場になってくる可能性は高く、出走するたびに頭を悩ませる存在になりそうだが、力があるのは間違いない。巻き返してくるタイミングを上手く見極めていきたいものだ。