ダービー馬の称号は重い。
最も注目を集めるレースである以上それは宿命のようなものなのだが、ダービーを制した馬は当然のようにその後の大活躍を求められる。
この点で、
ダノンデサイルや陣営に掛かるプレッシャーは相当なものであったと推測する。
菊花賞、
有馬記念とも決して悪いレースではなかったが、"勝てなかった"のは事実。ダービーを9番人気という穴馬の立場で制した点も懐疑的な目で見られがちな要素だし、
エピファネイア産駒に見られる燃え尽き症候群を危惧する声もあった。
陣営が
有馬記念→
AJCCという異例のローテを選択したのも、今後への危機感や
ダノンデサイルへ課す試練的な感情が少なからずあったはずだ。
そういった重い物全てを背負って、
ダノンデサイルは勝った。
展開的には決して楽なレースではなく、特に中盤以降の展開は極めてタフであった。
序盤から逃げた
アウスヴァールがそれほどペースを落とさない中、後方にいた
コスモキュランダがお家芸のマクりを発動。2番手に付けていた
チャックネイトがこれに呼応してロングスパートを敢行したことで、実に6ハロンにも及ぶ持久力勝負がゴングを鳴らすことになったのだ。
直線に入るとさすがに
チャックネイトの脚色が鈍り、
コスモキュランダがそれに代わって先頭に立つ。
好位にいながら仕掛けをワンテンポずらしていた
マテンロウレオが追撃し、この2頭を見るかたちで
ダノンデサイルが外から脚を伸ばす。
クラシックを共に戦った同期と、
マテンロウレオの背にいた無二の戦友・
横山典弘騎手の姿を横目に見ながらのスパートとなったが、坂下ではもう”これは差し切る”と思わせる脚色。着差は僅かではあったが、明確な力差を見せつけるような走りであるように映った。
ダービー馬らしいねじ伏せるような走りで、久々の勝利を挙げた
ダノンデサイル。
序盤はやや力みが見えて折り合うのに時間を要したが、中盤以降はスムーズな追走。とは言え、包まれないための安全策をとった分、
コスモキュランダが動いた後あたりからはかなり外々を回るかたちになっていた。その状態からロングスパート勝負を勝ち切ったことで、改めてスタミナや末脚の持続力の高さを証明したと言える。
戦法も、前走の逃げから一転して控える競馬。展開や他馬の動きに応じて自在に立ち回れるのは大きな強みだし、今回手綱をとった戸崎騎手によれば、まだ遊んで走っているような面があるとのこと。気性面も含めてまだまだ伸びしろはありそうだ。
この後は国内戦に専念するのか、海外を見据えるのか、様々な選択肢が考えられるが、この日の走りであればどんな舞台でも大きくは崩れないと思われる。どれだけ勝ち星を積み上げてくるか、今後も要注目の存在だ。
巧みな立ち回りが光った
マテンロウレオは、最後
コスモキュランダを抑えて2着。
ダノンデサイルの主戦である
横山典弘騎手が、本気で相棒を倒しに来た姿に痺れた方も多かっただろう。
元々は4歳時に重賞、G1を見据えるレベルまで上昇していた馬だが、その後は気性が妙に前向きになり、レースに行っての難しさが前面に出てしまっていた。
前走の
中日新聞杯でも序盤はそうした面を見せていたものの、中盤からはスムーズで直線もしっかり。今回はそれ以上にスムーズな立ち回りで、ようやくいい頃に近い心身のバランスが戻ってきたように感じられる。
一度上がって、下がって、また上がる……こういった成長曲線を見せる馬は珍しいが、この状態を維持できれば重賞タイトル獲得は近い。
3着の
コスモキュランダは今回もスタートひと息で後方から。途中で上手くマクり上げることはできたものの、
チャックネイトの動きがやや誤算だったか。
それでも、ある程度マクり切った後からのロングスパート勝負になったことを考えると、相当に長く脚を使っているし、能力の高さも見せている。
今のところ好走は中山に集中しているものの、右回りの小回りであれば適性を生かすことができそうで、そういった条件を狙っていけばどこかでチャンスはありそうだ。
一方、
ダノンデサイルと同等の人気を集めていた
レーベンスティールは直線で伸びがなく12着。らしくない結果に終わった。
鞍上のルメール騎手は距離を敗因に挙げており、今回のようなタフな流れになると2200mはやや長い様子。
戦前から陣営は過剰な前進気勢を課題に挙げていたし、父の
リアルスティールも現役生活終盤は1800m専用機のような戦績を刻んでいたことを考えると、本馬も1800m前後が現在のベストなのかもしれない。
これまでは中距離を主体に戦ってきたが、マイル戦への挑戦もありそうな雰囲気を感じるだけに、陣営のレース選択が注目される。