強い。シンプルにそう思える
クロワデュノールの勝利だった。
昨年引退した
イクイノックスのような畏怖すら覚えるほどの鮮烈さはなく、先日引退した
ドウデュースのように劇的なスピード感があるわけでもない。
だが、今回のメンバー相手では何回走ってもそう簡単には負けないだろうと思える”強さ”がそこにあった。
普通に走って、普通に勝つ。そうやっていくつもの勲章を獲得した父
キタサンブラックを彷彿とさせる走りではなかっただろうか。
レースは
ジュンアサヒソラの思い切りのいい逃げでスタートした。
しかし、これに競りかける馬がおらず、後続の隊列もスムーズに固まったことでペースはスローに。これにより力む挙動を見せる馬が多く、特に外目を進んだ人気の一角
マジックサンズは抑えが利かずに鞍上が苦心していた。
近い位置にいた
クロワデュノールも力みが強くなりかけたが、徐々に平常心を取り戻し、後半戦に向けてしっかりと溜めを作ろうとしていた。
そのタイミングで後方から一気に動いてきたのが、発馬時に不利を受けて後方にいた
ファウストラーゼン。
凝縮した馬群を一気に抜き去り、マクり切ろうとする姿勢を見せるが、そうはさせじと
ジュンアサヒソラが呼応したことで、レースが一気に動き出した。
だが、その他の後続馬の動きは思いのほか鈍く、一時は前2頭が残るかという雰囲気すら感じられた。
そんな中でただ1頭追撃体制をとっていたのが
クロワデュノールだった。
ファウストラーゼンの動きに乗じるように位置を上げると、直線では抜群の手応えのまま前2頭をかわし去る。
後続からは
ジョバンニが必死の追い上げを見せるも、その差は歴然。1倍台の支持を集めたスケール感を見せつけるかのように、堂々と無敗G1制覇のゴールへと飛び込んでいった。
まさに完勝という内容で押し切った
クロワデュノール。
レースを見返すと序盤から外へ進路を切るような動きを見せており、これは”多少外を回ることになっても包まれなければ勝てる”という自信の表れ。2着の
ジョバンニがインをぴったりと回ってきての結果だったことを考えると、着差以上の能力差を感じる勝ち方だったと言える。
それでいてまだ調教でも動ききれていないような面があり、半姉の
アースライズの本格化が4歳~5歳にかけてだったことを考えると、本馬もまだまだ奥がありそう。来年のクラシック戦線の主役の座は確約されたが、それ以降も楽しめそうな存在と言える。
2着には堅実派
ジョバンニがしっかりと能力を見せた。
ここまで
エリキングに2連敗、そして今回は
クロワデュノールに完敗と、強い相手に頭を押さえつけられているが、3着以下には結構な差を付けており、これから世代の物差し的な存在になりそうな雰囲気がある。
血統的にはマイル~中距離あたりがベストと思われ、ダービーというよりは
皐月賞向きな印象。ワンパンチ足りない感は否めないが、春までにどれだけ成長できるか。
3着
ファウストラーゼンは思い切ったマクりが奏功。鞍上の杉原騎手のファインプレーが大きい。
2000mで軌道に乗ったものの、父
モズアスコットも母
ペイシャフェリスもスピードの勝ったタイプだったので、真の適性がどこにあるか非常に分かりにくい馬。ややズルさを感じる癖の強い気性な分この距離で結果が出ているが、ゆくゆくは主戦場が変わっても何ら不思議ないと思える。お世辞にも人気になるタイプとは言えないし、忘れた頃に激走するようなタイプになる予感。
一方、
クロワデュノールに続く人気を集めた馬たちは揃って大苦戦。
2番人気の
マジックサンズは前述の通り序盤から非常に力みが強く、全く溜めを作れないまま外々を回る形で失速。明らかに本来の走りが出来ておらず、参考外と思える内容だった。
3番人気の
ピコチャンブラックは道中好位で折り合えているように映ったが、
ファウストラーゼンのマクりや
クロワデュノールの追撃に全く抵抗できず、4コーナーを前にすでに劣勢の手応え。ここまでの2戦で見せていた伸びは影を潜めた。
はっきりとした敗因は不明だが、全く脚を使えなかったあたりは違和感があり、こちらも参考外の走りだった可能性がある。
4番人気の
マスカレードボールは外枠なりのロスがあったし、懸念されていた右回りのコーナーで全く加速できず。
直線では外にモタれるような走りになり、鞍上も強く追っていない様子だったので、この馬もやはり走れていない。
上位人気馬が揃って本来の走りを見失うというのは珍しいが、それだけに次走以降一気の巻き返しがあってもおかしくなさそう。すぐには見限らないほうが懸命と思える。
このまま
クロワデュノールがクラシック戦線も独走するのか、敗れた馬たちのリベンジがあるのか、まだ見ぬ有力馬が現れるのか、来春に向けて楽しみは増すばかり。
予想する側としても、きっちりと的中できるよう目を養っておきたいものだ。