第53回
宝塚記念(24日、阪神11R、GI、3歳以上、芝2200メートル、1着賞金1億3200万円=出走16頭)現役最強馬、完全復活-。中央競馬上半期の
グランプリは、
池添謙一騎手(32)=栗東・フリー=が騎乗したファン投票1位
オルフェーヴル(栗東・
池江泰寿厩舎、牡4歳)が、後方から直線で馬場の内めを通って抜け出し、2馬身差の快勝。1番人気に応えてGI5勝目を飾った。タイム2分10秒9(良)。天皇賞・春で11着に惨敗してから調子が戻らず、陣営は「7割の状態」と話していたが、それを吹き飛ばす圧勝劇。欧州最高峰レース、
凱旋門賞(10月7日、フランス・ロンシャン競馬場、GI、芝2400メートル)参戦の希望が再び膨らんだ。
信じていた。それでも相棒の鮮やかな復活に、ゴールを過ぎた
池添謙一騎手の頬には涙がつたった。スタンド前に戻り、6万1102人の大観衆から贈られた“オルフェ”コール。それに応えて、馬上で両手の人差し指を突き上げた。昨年の3冠+
有馬記念を制した
オルフェーヴルが、直線で突き抜けて快勝。梅雨の合間の日差しが注ぐ阪神競馬場で、黄金色の馬体が輝きを取り戻した。
「この馬が一番だと思っていた。やっと強いところを見せることができて良かった」。涙をこらえて池添が言葉を振り絞る。「昨年とはほど遠い状態で、これだけのパフォーマンス。(天皇賞・春の11着大敗で)精神的にもショックだったと思うが、たいしたもの」とパートナーを称えた。
今年初戦の
阪神大賞典(2着)は2周目3コーナーで外に暴走。調教再審査を科せられ、天皇賞前は慣れないダートコース(滋賀県・栗東トレーニングセンターのEコース)での調教を強いられた。今回は中間、短期放牧に出して、調教も坂路主体。昨年と同じ調整パターンに戻したが、完調手前は明らかだった。
だが、オルフェは王者の走りを見せた。10番手前後をリズムよく追走。3コーナー過ぎで前に馬が密集したが「いつでも行けるという手応え」の池添は悠然と構えた。
だからこそ、外が伸びる馬場状態でも、4コーナーでは迷いなく内へ。「馬場が悪くても加速した」と池添。直線では本来の沈み込むフットワークを見せて、ライバルを一気に抜き去った。外の
ルーラーシップに2馬身差。まさに貫禄勝ちだ。
池添にとっても、苦しい日々を拭い去る勝利となった。天皇賞後は「騎手を辞めようか、GIに乗らないほうがいいんじゃないか」と思い詰めてリズムを崩し、5月7日から6月22日まで1カ月半も勝てなかった。それでも筋肉トレーニングで肉体改造に取り組むなど、懸命な努力を続け、それを支えてくれた家族のおかげもあり立ち直った。「騎手としての壁を乗り越えられるのは、
オルフェーヴルとともに勝ってから。ボクが信じなきゃ、誰が信じるんだ」。その思いが実った。
池江泰寿調教師(43)=栗東=は「この馬は怪物だ」と脱帽。昨年から目標としてきた
凱旋門賞は「状態を確認してから」と前置きしたうえで「7割のデキで、伸びにくい馬場で伸びた。世界最高を狙える手応えはある」と自信を見せる。池添も「そこへ向かっていきたい」と意欲十分だ。
最大の試練を乗り越えて、日本最強の座に再び就いた
オルフェーヴル。この辛かった経験が、今度は世界一への大きな武器となる。 (板津雄志)
阪神競馬場に応援に駆けつけた池添騎手夫人・朝美さん(26)「(天皇賞・春後は)主人は、自宅のトレーニングルームにこもる時間が増えましたね。私も彼が集中して本番に臨めることを第一に考えました。最高の結果が出てよかった。
凱旋門賞に行くことになったら、また家族で応援に行きたいです」