ブエナビスタの降着という後味の悪い結末になった
ジャパンC。「基準が分かりにくい」という声も多く出ており、サンケイスポーツではJRAの審判担当者に緊急インタビューを行った。諸外国との違いや降着、騎乗停止の基準など、改めてJRAとしての指針を取材。その内容をお届けする。 (聞き手・黒田栄一郎)
--スミヨン騎手が不信感をあらわにして、ムーア騎手も疑問を呈した今回の決定。外国人騎手が日本の裁決に不満を持つ実情をどう感じるか
中村嘉宏・JRA審判部部長補佐「日本では、各騎手がきれいな競馬をするように心がけています。これに対して、外国から来る騎手は確かに優秀な実績がありますが、スキあらば狭いところを突くという競馬が身についています。騎乗馬の力を発揮することが第一なのは確かですが、そこに神経が行き過ぎると、我々から見ると荒い競馬になってしまう。日本の競馬施行形態の中では、レースを乱してしまうところがまま見受けられます」
--施行規定は世界で統一されていないのか
「世界的に統一されたルールはありません。施行されている国の統括団体が定めたルールに基づいてレースをすることが前提です。日本では日本のルールに則ってもらうことになります」
--日本と諸外国との間ではどのような違いがあるのか
「英国、アイルランド、香港、豪州、ドバイなどは、脚いろや着差を重視する傾向があります。制裁するかしないかは別ですが、加害馬の脚いろが明らかに違って、被害馬に大きく先着した場合などは、そちらに重きを置いて(着順を変更しないなどの)判断をするようです。逆に日本や米国は、被害馬の程度を重視します。フランスはこの中間になるでしょうか。ムーア騎手の感想も、英国の騎手だからだと思います」
--今回の
ブエナビスタの場合、脚いろは上回っていたように見えるが
「JRAも脚いろをまったく見ないわけではありませんが、被害馬の能力発揮への影響度が重大だと判断すれば、降着の対象になります」
--08年の
オークスでは、優勝馬
トールポピーが降着にならず、騎手は騎乗停止となった。こうしたケースとの違いを改めてうかがいたい
「あの時は、影響を受けた馬の数は多かったのですが、個々についてみれば影響度で重大な馬はいませんでした。ただ、修正せずに斜行をしたことが制裁の対象であり、着順の変更はなかったのです。我々は斜行の程度ではなく、あくまでも被害の影響度を見て判断します。この時の映像は、裁決委員の国際会議でも上映しましたが、米、仏の担当者も“着順を変更しないだろう”という意見でした。また、この件からは対外的な説明も必要だと判断し、JRAのホームページで裁決の基準を細かくご説明させていただいております」
--確定までに時間がかかったことへの批判については
「今回は3カ所の審議事象があったことに加えて(意思疎通に時間を要する)外国人騎手も関係したため、時間がかかってしまいました。この点に関してはファンの皆さまにご迷惑をおかけして、大変申し訳なく感じております」
--関係者に事情を聞くことを疑問視する声も出ているが
「我々が被害馬の騎手から話を聞くのは状況を確認するためです。映像だけでは足りない部分もあり、参考に聞いています。到達順位の変更がない場合の確定前に被害馬の調教師に声をかけるのは決定事項の通達で、不服申し立てにつながる手続きの有無を確認する意味合いがあります」
--フェアな競馬と、ギリギリの迫力ある競馬は、両立しないようにも思える
「いい意味でギリギリの技術を駆使することは大切ですが、何よりすべての馬が能力を発揮し切ったうえで着順を得ることが望ましいのです。フェアなレースをして勝ってこそ称賛される…という基準は、日本人の国民性からも受け入れられているのではないか、と個人的には思っています」