第71回
オークス(23日、東京11R、GI、3歳牝馬オープン国際、定量=55キロ、芝2400メートル、1着本賞金9700万円=出走18頭)中央競馬史上、GI級のレースで初めて2頭の優勝馬が誕生した。牝馬クラシック第2弾の
オークスが23日、東京競馬場で行われ、
アパパネ(美浦・国枝厩舎)と
サンテミリオン(美浦・古賀慎厩舎)の2頭が1着同着でともに優勝した。1923年に現在の天皇賞にあたる帝室御賞典が始まって以来、GI級のレース87年の歴史で初の出来事。この
オークスの盛り上がりで、ダービー(30日、東京、GI、芝2400メートル)への期待も一気に熱を帯びてきた。
最後まで譲り合うことのない2頭のデッドヒート。長い長い写真判定の結果は、何と1着同着だった。中央競馬史上で初めて、2頭のGI馬が同時に誕生した瞬間だ。
「エビちゃーん!!」
サンテミリオンの
横山典弘騎手(42)が、満面の笑みで両手を挙げ、
アパパネの
蛯名正義騎手(41)に抱きつく。長く競馬界を引っ張ってきた40代の名手2人が握手を交わし、互いの健闘を称え合った。
17番
アパパネと18番
サンテミリオン。不利な外枠に加えて、雨で悪化した馬場(稍重)に脚をとられる。どの馬も体力を消耗するサバイバルレースの最後に、最大の見せ場が訪れた。残り200メートルで内
サンテミリオン、外
アパパネが並んで先頭に立つ。死力を振り絞る2頭が首の上げ下げを繰り返す。わずかに
アパパネが前に出たが、そこから
サンテミリオンが差し返したところがゴール。
「どっちだ-」。
先に引き揚げてきた
アパパネの蛯名が2着馬が入る場所に向かったが、「勝ってるって!!」と
国枝栄厩舎の
佐藤勝美調教助手が1着馬の場所に誘導する。対照的に
サンテミリオンの
古賀慎明厩舎の大西貴久調教厩務員は、負けを覚悟したのか、うっすら涙を浮かべて2着馬の場所で愛馬を待っていた。しかし、サンテの横山典は「体勢は有利だと思った」、
アパパネの蛯名は「不利だと思った」。さまざまな思惑が交錯しながらの写真判定は13分間。それも、1着同着はあり得ないという常識があったからだ。
しかし、写真判定が下った瞬間、2人の騎手がともに笑顔を浮かべようとは…。感動の同着劇は、さまざまなところに影響も与えた。表彰式では、勝ち馬が身にまとう馬服と肩飾りが1つしかなく、2頭が交互に着用して記念写真を撮影。場内のインタビューは見送られ、最終レースの発走も10分も遅れたが、雨中の競馬場に詰めかけたファンが2頭に与えた大きな大きな拍手が、感動の大きさを表していた。
「2人で一生懸命にやった結果だし、馬がすばらしい走りを見せてくれた」(横山典)、「お互いが死力を尽くして戦った素晴らしい競馬で、本当に感動しました」(蛯名)とベテラン2人もすがすがしい表情だ。
2人の騎手が並んでGIのヒーローインタビューを受けるのも、もちろん史上初。最後にインタビュアーから「お互いにかける言葉は?」と聞かれた2人は期せずして互いの顔を見合わせ、「おめでとう!!」と同時に発声して抱き合った。このタイミングも、まさに“同着”。競馬の醍醐味を存分に味わわせてくれた2頭と2人の騎手によって、71回目の
オークスは競馬史に残る感動を我々の脳裏に焼き付けてくれた。(黒田栄一郎)