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【鈴木和幸G1コラム】 ダービーの思い出

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桜花賞も勝てなかったウオッカにダービーで◎を打つなんて“本気かよ!”

 あれから、もう3年が過ぎたのかー。
 
いまなら、
「我が予想生命を賭けてウオッカに◎を打つ!!」
そんなふうに書き出すであろう、2007年のダービーのことである。

ディープインパクトが10馬身の大差でぶっちぎる(実際は5馬身だったが)」

と吠えた2005年もうれしかったが、
ウオッカほど衝撃をくれたダービーはない。

決死の覚悟で打った◎はない。

 
断然の1番人気(単勝1・4倍)に推された桜花賞で、
ダイワスカーレットの前に一敗地にまみれたウオッカが、
オークスではなくダービーに挑戦するとの話が伝わったとき、

「牝馬同士の桜(花賞)を勝てなかったのにかよ」

との声を聞いた。

桜花賞を勝ったのならともかく、負けてダービーなんて、何を考えてるのかわからへん」

そう語った関西調教師もいたそうな。

ダービーを迎えるとき、それらはみな、
ウオッカに◎を打った自分に向けられた言葉に思えたあのダービー。

スタート時刻の30分ちょっと前、私はスタンド3階のTBSの放送ブースにいた。

パドックである。

ゆっくりと柔らかく、静かに歩くウオッカを見て、最高の状態と見て取れたし、
どの男馬よりも大きく見えた。

“これで負けたら、◎を打った自分には馬を見る目がないんだ”

とあきらめよう。

そんな覚悟でパドックを去り、8階の実況席へ。

緊張は極度に達していたと思う。

「我山、ウオッカの単勝をもう1万買い足してきてくれ!」

当時出演していた“ウハウハ競馬”の美人キャスターに、
私がこう叫んだのは、スタート時刻まで5分となかったのではあるまいか。

こうすることで自らを勇気付けていたのかもしれない。

それとも“何が何でも勝ってくれ”との切望であったろうか。

 
背筋が冷たくなった。

寒気さえした。

直線半ばで先頭に躍り出る、ウオッカが私に向かって走ってくるように見えた。

それからあとは何も憶えていない。

まさかのまさか、後続の牡馬を3馬身もちぎってしまうなんて。

頭の中が真っ白になり、2着に何がきていたのかもわからない。

 
習性というのは恐ろしいものである。

それでも私は気がつくと、
最終11レースに出走する馬を見に、パドックに向かっていたではないか。

向かって馬を前にしたところで、何かが見える精神状態であろうはずがないのに。

感動の2分24秒5だった。

前週のオークスより1秒近くも速いこの時計は、
ダービー史上の3番めの記録、上がりはあのディープインパクトをしのぐ33秒0。

これじゃあ牡馬勢がついてこれないわけである。

震えがきて当然であった。

単勝1・6倍のフサイチホウオーを向こうに回し、
牝馬のウオッカに堂々の◎が打てた。

これだから競馬はやめられない。


●この年の3歳牝馬のレベルの高さとしつこいまでの桜花賞の復習
 

牝馬同士の桜花賞でさえ手の届かなかったウオッカが、
牡馬17頭を相手に64年ぶりの牝馬のダービー馬になった。

この快挙を予想する引き出しになったのは、
まず第一に2歳暮れの阪神ジュベナイルFである。

ご存知の通り、ウオッカが勝ったのだが、時計はなんと1分33秒1。

この3回阪神開催に古馬オープンの1600メートル戦はなかったのだが、
準オープンの1600万下でさえ1分34秒1でしかなかった。

それをウオッカは2歳12月の時点で1秒もしのぎ、開催全体の一番時計ときた。

信じ難いレベルの高さというべきだろう。

ちなみに、この年の牡馬の朝日杯FSドリームジャーニーは1分34秒4にすぎない。

実に1秒3もの時計差があるのだ、馬場の違いなんて関係なし、
牡馬はとうてい牝馬に及ばないとの考えが、、、。

ウオッカは年が明けてのエルフィンS、チューリップ賞でもマイルを1分33秒台で勝ち、
連勝記録を伸ばしていく。

チューリップ賞ではダイワスカーレットがクビ差の同タイム2着し、
この年の3歳牝馬の圧倒的なレベルの高さをさらに一段とアピールしたのだった。

さて、前記の通り、ウオッカ桜花賞ダイワスカーレットに負けている。

だから、

“桜も勝てないのにダービーだなんて、、、”

と悪評されたりしたのだが、
その負けを知りながら◎を打った私も、

“本気かよ”

とばかりに、陰口をたたかれた。

 
本気も本気、本気で◎を打った理由を話そう。

その理由の一つは、ここまでに書いてきた、
この年の3歳牝馬のレベルの高さにあることは、いうまでもない。
 
 
二つめは桜花賞の2着を負けとして受け取らなかったことー。

ダービーまでの数週間、幾度、桜花賞のビデオを見たことだろう。

その結論は、もちろん勝ってはいないのだが、私の目には負けてもいなかったのである。

 
あの桜花賞、特筆されるべきはダイワスカーレットの安藤勝の仕掛けの絶妙さである。

4コーナーから直線に向いて、ウオッカがスカーレットに並びかけようとする、
アンカツはその一瞬前に、出し抜けをくらわすかのように猛然とGOサイン
一気にウオッカを突き放したのである。

ウオッカは驚いたように外にふくれかげん。

このタイムリーな仕掛けがなければ、果たしてスカーレットは勝てたかどうか。

 
そして、ここからが前記のウオッカの“負けていない”部分なのだが、
一旦は残り200メートル地点では3馬身のセーフティリードを奪われながら、
そこから1馬身半差まで追いすがった脚に、なにやらただならぬものを感じたのだ。

レースのラスト2Fは10秒6の11秒7。

10秒6のところで突き放されたわけだが、
追いすがったウオッカは最後の1Fを11秒4では走っていよう。

しかし、そうした数字とか、記録の優秀さではないのである。

うまく具体性を持って説明できないのだが、もう一度いう。

それでもレースをあきらめず、首を下げて差を詰め、
スカーレットに迫ろうとするウオッカの姿に、
ダービーにつながる、何かを感じたのである。

2頭の上がり3Fは33秒6。

同じ脚を使いながらスカーレットが勝ち、ウオッカが後れを取ったのは、
やっぱりアンカツの仕掛けが絶妙すぎたから。

それがすべてを決めてしまった。

やっぱり、ウオッカは負けていないー。

気がつくと、ダービーで戦う牡馬勢のことを考えていた。

とりわけ、圧倒的な支持を受けそうなフサイチホウオーのことを。

“この馬、本当に強いのか?。本当は強くないんじゃないか”

との疑問である。

ウオッカ◎の背景には、それがあったことも事実である。

確かに、フサイチホウオーが初めて3着に負けた皐月賞は内枠が災いし、
外に出せない不利があった。

それでハナ+ハナの同タイムだから、
負けて強しの内容だった。

それは私自身も認めてはいたが、
日増しに私の心を支配しはじめたは、

“それでも負けは負けだろう。本当に強い馬ってのは他をはじき飛ばしてでもでてくるんじゃないかー。デビューから4連勝したといったって、新馬勝ち以外は小差、僅差の辛勝ばかりじゃないか”

とも考えるようになっていったのである。

ダービーを終えた、その晩だったろうか。

仕事的には同僚であり、ライバルでもある後輩がいった。

「鈴木さん、当分、予想は外しても大丈夫ですよ。ウオッカに◎を打った人に、誰も文句はいいません」

彼は私のダービーの、ウオッカ◎的中を、
それくらい価値あることと祝ってくれたのである。

なおさら、忘れられないダービーとなった。

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