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GIメモリアル ~ジャパンカップダート 2010年への序章~

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GⅠメモリアル ~2003年 ジャパンカップダート

 自分に相馬眼はない。馬見の才能はゼロである。
 ある人に「最初から馬の見方を覚えようとする気がないんじゃない?」と言われたことがあるが、決してそんなことはない。馬体のことを勉強し、パドックに張り付いていた時期もある。パドック名人に何度もレクチャーを受けた。そして、ある程度の知識を得るに至った。
 しかし、実際に“自分の目”で判断すると、これがもう当たらないのなんの。「間違いない!」と思った馬がコロッと負け、「絶対に来ない!」と思った馬があっさりと勝つ。ただただその繰り返しで、努力をすればするほど馬券の成績は下降線をたどっていった。
 もう、あきらめよう……。
 ある時を境に、馬体写真やパドックをいっさい見ないことに決めた。馬を見ること自体は好きなので、正確にはゼロではないのだが、それはただ眺めているだけの話。自身が参考にする予想ファクターという集合体のなかから、完全に“馬見”を切り捨てたのである。

 とはいえ、馬を見て “ものすごくいい印象”を受けたときは、その直感を信じるようにしている。「どこどこがいい」と具体的に言い表せなくても、これは!と思えることがごくたまにある。「雰囲気があるなぁ」とか「オーラを感じるなぁ」とか、相馬とはかけ離れたところにある素人同然の感想なのだが、意外にこれがバカにならない。「トモの張りがいい」や「腹回りがまだ若干太い」といったような知ったかぶりをするよりも、はるかに好結果に結び付くのである。
 当連載のスプリンターズSの回で触れたサイレントウィットネスしかり、過去に何度か直感馬券は成功させている。ピンとくることが年に一度あるかないかのレベルなのが困りものだが、その“たまに”がやってきたときは、金額はわずかでも必ず馬券を買うようにしている。

 2003年11月27日の早朝、週末に行われるジャパンカップおよびジャパンカップダートに出走する外国馬の公開調教を見に、東京競馬場を訪れた。厩舎エリアから続々と姿を現す海外の列強にカメラを向け、シャッターを切る。どれも見栄えがするな~。強そうだな~。感想はまぁ、その程度。真剣に良し悪しを判断しようとするのが逆効果だということは、本人がいちばんわかっている。
 そんななか、ふと視界に入った1頭に瞬時に心を奪われた。思わずウワッとなった。筋骨隆々の美しい馬体。その体から放出される、近寄りがたいまでの威圧感。なんだこの馬は! めちゃくちゃ強そうだ。きた。久々にピンときた。ひょっとしたらやってくれそうな気がする!
 その馬のゼッケンには、FLEETSTREET DANCERと書いてあった。

 レース当日、いざ馬券を買う段階になって非常に悩んだ。だって、考えれば考えるほどアドマイヤドンで決まりなんだもん。負ける要素はどこにも見当たらないんだもん。いくらフリートストリートダンサーに好印象を抱いたからといって、さすがに勝つまではいかないと思うんだもん。
 この2年前、チリでGⅠ4勝、アメリカでGⅠ2勝の実績を誇っていたリドパレスで大勝負をして、痛い目にあった経験がある。フリートストリートダンサーは2走前に、次走でブリーダーズカップクラシックを勝つプレザントリーパーフェクトの半馬身差2着という実績はあったものの、重賞は未勝利。能力的に通用しないのでは、という思いがあった。当時は完全単複派だったので、勝つ可能性が低いとわかりきっている馬の馬券を買うことには、どうしても抵抗があった。
 フリートストリートダンサーの単勝と複勝を500円ずつ。
 これが、最終的に下した結論である。勝つことはまずないだろう。でも、好走馬を拾う率の悪くない自分の直感は大事にしたい。アドマイヤドンは配当が安すぎて手が出せないし、ダメもとの観戦料感覚でちょっとだけ買おう。どうせアドマイヤドンが勝つだろうけど、“あわよくば”があったら嬉しいな♪ そんな気楽なノリで、レースを見守った。
 ところが……。

 的中させた本人が言うのもおかしな話だが、まさかまさか、あんな結末を迎えるとは想像もしなかった。重賞すら勝てない馬が、日本のダート最強馬とGⅠでマッチレースを演じている。しかも、一度は完全に交わされたのに、差し返してみせたのだから驚きは倍増だった。
 いや~、ダートの本場アメリカはやっぱり侮れない。そして、自分の直感もなかなかどうして隅に置けない。この年のジャパンカップダートは、2つの大きなことを再確認したレースとして、強烈な印象が残っている。
 レース後の共同記者会見の場で、フリートストリートダンサーを管理するダグ・オニール調教師が、「このレースへの参戦を決めた最大の理由は?」という記者の質問に対し、笑顔でこう答えていた。
「A lot of yen!」
 アハハ、面白いなぁ、この人。「無欲の勝利」の対極にある言葉を、堂々と言ってのけちゃったよ。
 そうなのだ。人間、欲のかきすぎはよくないが、欲があるからこそ時に大仕事をやってのけられるものなのだ。挑戦なくして成功はなし。冗談めいた言葉だけど、けっこうズシリと響くなぁ。そんなことを考えながら、500円ずつしか買えなかった自分の小ささを恨んだ。5000円ずつはさすがに無理でも、せめて1000円ずつは買っておくべきだったと……。

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