第79回
日本ダービー(27日、東京10R、GI、3歳、芝2400メートル、1着賞金1億5000万円=出走18頭)
ディープブリランテを育てた
矢作芳人調教師(51)=栗東=は、「感無量です」と最高の栄誉に酔いしれた。主戦の
岩田康誠騎手とともに対策を講じて、ブリランテの課題だった折り合い面を克服。
皐月賞3着から巻き返してのVに満面の笑みを浮かべた。矢作師はこれまでも積極的に海外に遠征しており、具体的には決まっていないものの「外国も考えます」と、ダービー馬とともに、さらなる高みを目指すつもりだ。
敏腕トレーナーの信念が最高の舞台で実を結んだ。開業8年目の
矢作芳人調教師が、2006年
スーパーホーネット15着以来、2度目の挑戦でダービー初制覇。
ディープブリランテは
フェノーメノの追撃を23センチの差でしのいでVゴールへ飛び込んだ。
「勝ってるよな?」
神妙な面持ちで検量室前に下りてきた矢作調教師は、1着馬が入る場所で愛馬を待った。勝利を知らされると、声を上げて厩舎スタッフと抱き合い、目頭を押さえる。さらに引き揚げてきた岩田康とガッチリ握手をして喜びを爆発させた。
「感無量です。馬はこれ以上ないデキでした」と話した後で「でも、きょうは岩田だよな。信じるしかなかったが、
コンタクトは完ぺき。『岩田、持たせろ!』と声にならないくらい叫びました」と鞍上を称えた。
栄光までの道のりはなだらかではなかった。昨年11月にGIIIの東スポ杯2歳Sを完勝。ダービー最有力候補に躍り出たが、前向きすぎる気性が災いして、その後は全能力を出し切れずにいた。今年は
共同通信杯、フジテレビ賞
スプリングSで2着、
皐月賞で3着。3戦して勝利がなかった。
「(今年の3歳で)一番強い馬だと思っていたが、能力を出し切れない自分が歯がゆい」
苦悩する矢作師のもとに岩田康から「毎日、調教に乗りたい」と電話が入った。「スタッフを信頼しているし、調教助手にもプライドもある。だが、ヤス(岩田)の情熱に駆けてみよう」とブリランテを任せた。岩田の進言で、ハミを口あたりがソフトになるものに替えた(ジョイントをシングルからダブルに変更)効果も、大一番で出た。
今後について「
凱旋門賞に登録しておけばよかった」と苦笑いした矢作師は「天皇賞、
菊花賞とか決めず、馬にあわせてやっていきたい。種牡馬としての価値もありますし、当然、外国も考えます」と続けた。
東大合格者数は今春も全国1位だった開成高校出身。ふつうならば大学に進学するが、大井競馬の元調教師である父、和人さんの影響もあって競馬の世界を志し、高校卒業後はオーストラリアで競馬の修行を積んだ。早い時期から“世界”を知っている矢作師だけに、ひとつの目標であるダービーを制した今、海外遠征が視野に入ってくるのは当然だろう。(森田実)