第60回
阪神大賞典(18日、阪神11R、GII、4歳上オープン国際(指)、別定、芝・内3000メートル、1着本賞金6000万円 =出走12頭)3冠馬、大暴走! 今年初戦に挑んだ昨年のJRA年度代表馬
オルフェーヴル(栗東・
池江泰寿厩舎、牡4歳)に、2周目3コーナーを曲がり切れないアクシデントが発生した。大きなロスを強いられたが、そこから強烈な追い上げで2着を確保。逆に
オルフェーヴルのすごさを浮き彫りにした一戦ともなった。現役最強馬の力は本物。精神面の課題さえ
クリアすれば、今年の目標である欧州最高峰レース、
凱旋門賞(10月7日、フランス・ロンシャン競馬場、GI、芝2400メートル)制覇も見えてくる。
2周目の3コーナー。2万2000人の大観衆から、悲鳴が上がった。先頭に立っていた
オルフェーヴルが急失速。「故障発生か?」。阪神競馬場は緊張感に包まれた。
一気に後方3番手に下がったが、落ちたスピードがまた少しずつ上がっていく。故障ではない。
オルフェーヴルはコーナーを曲がり切れずに、外ラチ沿いまで走ってしまったのだ。そこから立て直したが、コーナーを直角に曲がるような致命的なコースロス。それでも、現役最強馬の力はケタ違いだった。再びギアを上げて集団に取りつくと、直線では外から猛追。悲鳴が歓声へと変わる。
ギュスターヴクライに半馬身差及ばず2着に敗れ、連勝は6で途絶えたものの、非凡な能力を改めて証明する形にもなった。
レース後、VTRを繰り返して見ていた
池添謙一騎手。その表情は冴えなかったが、言葉を振り絞って敗戦を振り返る。
「申し訳ない気持ちで一杯です。先頭に立って1頭になったら、コーナーを曲がらずに、真っすぐ行ってしまって…。落ちないようにすることで精一杯でした」
有馬記念までGI4勝を含む6連勝。それでも「油断はできない」と池添は戦前、話していた。気性の激しさが常に課題としてつきまとったからだ。新馬戦や
菊花賞も、ゴールを過ぎてラチに飛んで行き、鞍上を振り落とした。今回、レース中に起きたという事実は重いが、落馬を免れたことは不幸中の幸いだった。
コーナーを上手に
クリアできなかったが、その後のパフォーマンスはすさまじかった。「他の馬を見つけた瞬間に、追いかけて行った。その時の加速はすごかった」と池添。4コーナーまでの短い間に馬群に取りつき、直線で前に襲いかかる。池添、そして
池江泰寿調教師ともに「3200メートルくらい走っていた」という大きなロスを、懸命に挽回する走りを見せた。
池江泰寿調教師は「能力はすごいが、競馬は勝たないといけない。あんな形になるとは…」と肩を落とし、「折り合い面も含めて、矯正していかないと…。次は
菊花賞を勝った時のような走りを見せたい」と雪辱を誓った。だが、今回の件で
オルフェーヴルには、4月2日以降に滋賀県・栗東トレーニングセンターでの平地調教再審査が科された。次走の天皇賞・春(4月29日、京都、GI、芝3200メートル)には、これを
クリアしなければ出走できない。
新たな課題に取り組む日々が始まったが、池添の「ファンの方には申し訳ないけれど、これで2着なんて、バケモノですね」という言葉も実感させられた一戦。強さともろさの両方を抱える
オルフェーヴルは、この敗戦を糧に、さらなる進化を目指す。 (板津雄志)