【LONGINES香港国際競走2017】Road to HKIR⑤~重賞連勝を果たしたビューティージェネレーション!シャティントロフィーはムーア厩舎が1、2着を独占
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<シャティントロフィー=沙田錦標>
続いて行われたシャティントロフィーは1600mですが、ここから香港マイルに向かう馬だけではなく、2000mの香港カップ、2400mの香港ヴァーズに向かう馬もここを使う点が、香港スプリントへ向かう馬がほとんどのプレミアム・ボウルと異なります。香港カップ、香港ヴァーズを目標とする中長距離馬は11月5日に行われるササ・レディーズ・パース(G3、芝1800m)からもトライアル、本番の路線をとり、この2つのレースの比較検討も本番での勝利に向けての大きな手掛かりとなります。
さて、シャティン・トロフィーもプレミアム・ボウル同様、実績馬と新興勢力の対決が最大のポイント。この観点からレースを振り返ります。
レーティング120台を境に実績馬と新興勢力がきれいに別れました。安田記念に挑戦したビューティーオンリー、ヘレンパラゴンが127でトップ2。これに一昨季の香港馬王(年度代表馬)で昨年の香港ダービーを勝った後、クイーンエリザベス2世カップでラブリーデイ、ヌーヴォレコルト、サトノクラウン、ハイランドリールを破ったワーザーが126で続きます。ジョイフルトリニティー、シークレットウェポン、ジャイアントトレジャーまでが120台。
これに対して新興勢力は前走のセレブレーション・カップで初重賞制覇を飾ったビューティージェネレーションの112、その4着のウィナーズウェイ111以下7頭。6対7の割合です。
この中から1番人気に推されたのはセレブレーション・カップでトップハンデ133ポンドながら最後方から出走馬最速の上りで2馬身差5着に突っ込んだビューティーオンリーで3.8倍。叩き2戦目の良化に期待が集まりました。そして同レース7着のブルーミングデライトが6倍。実績のない1400mから6戦して連対を外したことがない1600mに距離が伸びたことが買われました。
続いてセレブレーション・カップ5着ながらモレイラ騎乗が買われたのか、ウエスタンエクスプレスが6.7倍、ワーザーが7倍、休み明け初戦のクラス1(オープンに相当)を快勝したジョリーバナーが最軽量ハンディ113ポンドを買われてか7.3倍。実績馬と新興勢力がともに人気上位に混在したのは、前述のようにここから香港マイルだけではなく香港カップ、香港ヴァーズを目指す中長距離馬も混ざって出走しているからでしょう。馬券上手の香港競馬ファンも実績馬対新興勢力、今季既走対休み明け、マイラー対中長距離馬という複数の対立軸から人気が分散したのではないでしょうか。
ゲートが開くと先頭に躍り出たのは前走をまんまと逃げ切って重賞初勝利の金星を挙げたビューティージェネレーションではなく、ウイナーズウェイでした。ジェネレーションは控えて2番手で競馬を進めます。そしてジョイ、ジャイアントが3、4番手を奪い合い、2番人気のブーミングは5番手。1番人気のオンリーはいつものように最後方に待機すれば、ワーザーの中団もほぼ定位置。ウィナーズは前半800m 47秒82と平均よりもややスローにペースを落とし、後続を引き連れ直線へ。2番手に控えたジェネレーションが外からウィナーズ並びかけましたが、113ポンドの軽量とスローペースで息の入ったウィナーズはしぶとい。ジェネレーションが残り50mで漸く交わすと、5番手から直線真ん中を進んだブルーミング、ジョリーもゴール直前ウィナーズを凌いで2、3着。先行した5頭がそのまま着順を変えながらも流れ込んだ結果となりました。
1番人気ビューティーオンリーはいつもの通り最後方から直線大外へと回しましたが、ペースに利なく4頭だけ交わすのが精一杯の9着。ワーザー、ヘレンは直線で足を伸ばそうとしたもののスローではそのまま流れ込むだけで6、7着と実績馬は枕を並べて討ち死にしました。着順とレーティング、ハンディを見比べてみれば5着までを新興勢力が独占、プレミアム・ボウルとは正反対の結果となりました。その最大の原因はペースであったことは疑いようもありません。
G3、G2と連勝を果たしたビューティージェネレーションとブルーミングデライトで1、2着独占のJ.ムーア調教師は大満足、傍らのフィフィ夫人は「ジェネレーションは来年の安田記念を目標に!」と大喜び。ムーア師はジェネレーションの次走にササ・レディーズ・パースを予定していましたが、トライアルから香港マイルへと変更。定量戦となる次走のトライアルが試金石となります。2着のブルーミングはササ・レディーズ・パースへ。
一方、精彩を欠いた実績馬ですが、ワーザー、ヘレンの両馬の着順に関してムーア師は「想定内、これで良化するだろう」と落胆の色はなく、ここを叩いてトライアルから本番への手ごたえを十分感じていました。1番人気を裏切ったオンリーに騎乗したZ.パートンもレースぶりには納得しています。同馬を管理するA.クルーズ師はスロースターターも加え、本番までにきっちりと仕上げてくる手腕には定評があり、この2戦はトライアル、本番に向けての叩き台として十分目的は達成できたものと考えられます。定量戦となる次走以降の変わり身には十分な注意が必要です。
このレースからは本番の香港マイル、香港カップ、香港ヴァーズに向けて明確な力関係は示されませんでした。それぞれの勢力図を描くには香港マイル、香港カップのトライアル2レースを待つことが必要なようです。
(写真提供:HKJC)
甘粕代三(あまかす・だいぞう)プロフィール
1960年、東京生まれ。高校時代から競馬にのめりこむ。
早稲田大学第一文学部卒。在学中に中国政府官費留学生。卒業後、東京新聞記者、テレビ朝日記者、同ディレクター、同台北開設支局長などを務める。
中国留学中に香港競馬を初観戦、94年ミッドナイトベットの香港カップ制覇に立ち会ったことから香港の競馬にものめりこみ、2010年、売文業に転じた後は軸足を日本から香港に。
香港の競馬新聞『新報馬簿』『新報馬経』に執筆、テレビの競馬番組にも出演。現在、新報馬業(『新報馬簿』『新報馬経』)駐日代表、北京市馬術運動協会高級顧問を務める。 |
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2016年11月30日(水) 18:02
甘粕代三
【香港国際競走】Road to HKIR⑤~ビューティーオンリー、遂に主役に!HKIRトライアル振り返り(2)
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ビューティーオンリー、遂に主役に! 春の2冠馬、サンジュエリーも好発進
ジョッキークラブ・マイル
世界最強のレベルと層を誇った香港マイル陣も今年は混戦模様です。というのも総大将、エイブルフレンドが引退危機もささやかれた脚部故障に見舞われ、オーストラリアへ放牧。開幕を前に奇跡的な復帰を遂げたものの、順調さを欠いて今季使い始めはここではなく、ジョッキークラブ・スプリントに回ったからです。
既にご紹介しましたが、香港の調教師は長期休養明け初戦に本来の距離適性よりも短いレースを使って、馬を覚醒させる戦術をとることがままあります。エイブルフレンドも昨季の初戦は1200m戦を人気薄で快勝しましたが、今年もその手法となりました。しかし、昨季と異って休み明け初戦を香港国際競走(HKIR)トライアルまで待たなくてはならなかったのが大きな誤算です。
順調さを大幅に欠いたとはいえ奇跡の復活を遂げたエイブルフレンドは現在の香港競馬ではワーザーと並ぶ東西の正横綱。今年の香港国際競走の中でその動向に最も注目の集まる一頭です。エイブルフレンドに関しては次回のジョッキークラブ・スプリントの回顧で詳しくお伝えしますが、既に香港で1000勝以上の勝ち星をあげ、“千勝爺”との尊称をもつ名伯楽、Jムーア調教師がどこまで立て直してこられるのか、本番まで目を離すことはできません。
エイブルフレンドなき香港マイル戦線は香港カップを目指す中距離路線がワーザーを欠いているのと同様、群雄割拠の混戦模様。これを証明するかのように単勝人気は香港マイルを目指して今季、セレブレーション・カップ(G3・10/1・シャティン芝1400m)2着、シャティン・トロフィー(G2・10/23・シャティン芝1600m)3着と重賞2戦を消化して着差を確実に詰めてきたビューティーオンリーと、前季の4歳三冠シリーズ香港クラシック・マイル(G1・1/24・シャティン芝1600m)と香港クラシック・カップ(G1・2/21・シャティン芝1800m)でワーザーを破って2冠を達成しているサンジュエリーが人気を分け合いましたが、いずれも単勝3倍以上。
これに4歳の新星、ヘレンパラゴン、今季休み明けを一回叩いた昨季のスチュワーズ・カップ(G1・1/31・シャティン芝1600m)の勝馬、ジャイアントトレジャーまでが単勝一桁台。そして、セレブレーション・カップでビューティーオンリーらを破って重賞初制覇を果たした今季の上り馬、ジョイフルトリニティ、安田記念に今春挑戦したコンテントメントらが10倍台前半で続きました
ビューティーオンリーのA.クルーズは例年、スロースターターなのですが、今季は開幕からダッシュをかけ、ビューティーオンリーは昨季のHKIRトライアル時(オンリーは昨季、2000mのジョッキークラブ・カップを使われています)よりも数段上の出来。一方のサンジュエリーは今季、シャティン・トロフィーから使い始め、休み明け2戦目のここは前走以上に仕上がって、単勝1、2番人気を分け合う両雄は甲乙つけがたし。ただ、あのワーザーを2度破っているサンが伸び代を考慮すれば上と判断しました。ジャイアントトレジャーはC.スミヨン騎手をわざわざフランスから呼び寄せえはいるもののあくまで本番狙いの馬体。そして、昨季マイル路線で飛躍を遂げ、エイブルに迫る大関格まで出世したコンテントメントは復調途上が明らかで狙いを下げました。
さて、出走馬が最後の周回を迎えた時、携帯にショートメールが飛び込んできました。香港ジョッキークラブに勤める友人からでした。「チャドの馬が最高ですよ!」。チャドとは日本のワールド・スーパ―ジョッキー・シリーズにも香港代表として参加したマシュー・チャドウィック騎手。香港を代表する騎手、そして引退後は調教師としてもリーディングに輝いたA.クルーズ調教師の秘蔵っ子です。彼が騎乗するのはこのレースにビューティーオンリー、ビューティーフレーム(美麗之星)に続く第三の男として出走してきたロマンティックタッチです。重賞未勝利、単勝最低人気から検討段階で家賃が高いと消していた馬ですが、最後の周回をするロマンティックを見てみれば、ビューティーオンリー、サンジュエリーに劣らぬ気配。穴場へ向かう後ろ髪をひかれるような思いに襲われました。
レースはA.クルーズ厩舎3頭出しの2番手格、ビューティーフレームが気持ちよくゲートを飛び出すと予定通りの先手、4ハロン47秒86とやや早めのペースで飛ばします。続いてコンテントメント、ジャイアントトレジャーと続き、人気のビューティーオンリー、サンジュエリーは後方2、3番手から牽制しあうように追走、仕掛けところを虎視眈々と狙います。
ビューティーフレームはやや速い流れを気持ちよく逃げて残り400mまで引っ張りましたが、先行集団からロマンシングタッチ、コンテントメントがこれに襲い掛かり、馬体を合わせて叩き合いを演じているところを直線馬場中央からサンジュエリーがこれに肉薄。サンジュエリーよりも仕掛けを遅らせたビューティーオンリーが残り100m、大外から上がり最速の脚を繰り出し、ロマンシングタッチ、サンジュエリーをまとめて差しきりました。
2着は友人が絶好の出来と伝えてきた単勝97倍のロマンシングタッチが僅かにサンジュエリーを抑え、A.クルーズ厩舎は昨季に続きこのレースの1、2着を独占。同厩のビューティーフレームが引っ張ったハイペースが見事奏功した形となりました。
ビューティーオンリーはこの連載2回目で紹介した重賞、ササ・レディーズパースをスポンサーした化粧品小売りチェーンの総帥にして香港ジョッキークラブ一、二の大馬主、郭少明氏の持ち馬でアイルランド産の5歳セン馬。イタリアで2歳デビューしG3勝ちを含む4戦3勝の後に香港移籍。これまでに23戦6勝2着5回3着3回の好成績を収めています。
重賞は昨季のチェアマンズ・トロフィー(G2・4/3・シャティン芝1600m)以来の2勝目。エイブルフレンドが順調さを欠く中、12月11日の香港カップに向けて強豪日本勢を迎え撃つ香港勢一番槍の地位を得ました。
振り返ってみればサンは本番を見据えたまだ余裕のある作り、更に上昇が見込めそうです。また、復調に手間取っていたコンテントメントも先行して4着に粘りこみ、本番へのめどをつけられました。マイル戦線で最大のカギを握るエイブルフレンドに関しては次回、ジョッキークラブ・スプリント回顧で詳しく触れます。ご期待下さい。
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■甘粕代三(あまかす・だいぞう)プロフィール
1960年、東京生まれ。高校時代から競馬にのめりこむ。
早稲田大学第一文学部卒。在学中に中国政府官費留学生。
卒業後、東京新聞記者、テレビ朝日記者、同ディレクター、
同台北開設支局長などを務める。中国留学中に香港競馬を初観戦、
94年ミッドナイトベットの香港カップ制覇に立ち会ったことから
香港の競馬にものめりこみ、2010年、売文業に転じた後は軸足を
日本から香港に。香港の競馬新聞『新報馬簿』『新報馬経』に執筆、
テレビの競馬番組にも出演。現在、新報馬業(『新報馬簿』『新報馬経』)
駐日代表、北京市馬術運動協会高級顧問を務める。 |
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2016年11月25日(金) 17:19
甘粕代三
【香港国際競走】Road to HKIR④~デザイン不可解な殿負け。遅咲きの“天才”大金星。HKIRトライアル振り返り(1)
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日本勢、空前の量と質!史上初の4レース全制覇も視野に
香港競馬最大のイベント、香港国際競走(HKIR=Hong Kong International Races出走馬が23日、香港ジョッキークラブから発表されました。このコラムで今年の日本勢は質量とも史上空前のものとなるとお伝えしていましたが、日本勢は4レースに13頭! 香港でも2階級制覇を目指す年度代表馬、モーリスを総大将に史上初のHKIR全4レース制覇も視野に入る史上最強の顔ぶれです。また、今年は海外レースのサイマル発売が始まり、HKIRもその第4弾として日本でも馬券が楽しめるようになりましたが、42億円を売り上げた凱旋門賞を遥かにしのぐ売上を叩き出すことは確実です。当初、150億円と試算していましたが、この顔ぶれならば200億円突破も夢ではありません。
彼を知り己を知れば百戦危うからず(孫子)――日本でも買えるようになった夢のHKIR、勝利への道は地元馬、そして日本以外の遠征馬の戦力分析と評価にかかっています。今回から本番まで地元、香港馬の戦力分析を中心に連載を続けてまいります。まずは去る20日に行われた香港代表決定戦、HKIRトライアル3競走の結果を数回に分けてお伝えし、直前週には再び香港に入って直前の最新情報をお伝えして参ります。ご期待ください。それではトライアル3レースを個別に振り返って参ります。
1番人気デザインは殿負け! 香港カップに遅咲きの“天才”急浮上
ジョッキークラブ・カップ
昨季の香港馬王(年度代表馬)ワーザーを欠き、9頭立てと寂しい顔ぶれの中、1番人気に押されたのは前走、シャティン・トロフィー(G2・10/23・シャティン・芝1600m)で復活の狼煙をあげた2013/14季の香港馬王、デザインズオンロームでした。距離不適のマイル戦を勝って適距離の2000mに戻ったことで地元、香港の期待を集めました。続いて前走はデザインの2着だった香港中長距離界の大関ともいうべきG1馬、ブレイジングスピードに8歳の古豪ながら鞍上に雷神との異名をとる香港、いや世界の名手、J.モレイラ騎手を初めて迎えたミリタリーアタック、新星のシークレットウエポンと続きました。
香港馬はドバイ遠征の後、現地の暑さと春の祭典、クイーン・エリザベス2世カップまでの間隔が短いからでしょうか、調子を崩すことが多くあります。デザインもその一頭だったのですが、パドックで見たデザインは前進気勢に漲り、前走以上の状態。1着固定の3連単大本命の期待に十分応えてくれる仕上がりに見えました……。
2番人気のブレージングはムラ馬との印象がありますが、こちらも前走以上の仕上がり。追い込み一手のデザインに比べれば、逃げ、先行、差しと自在の脚質は信頼感も高く、ことによっては逆転の印象も。休み明けの古豪、ミリタリーアタックは香港馬にしては小ぶりながら、毛艶も馬体の張りも上々。しかし、8歳の秋と年齢を考えれば、割引必要かというのが率直な印象でした。
さて、こうした既成勢力に待ったとかけようと新興勢力からはシークレットウエポンの出来が最もよく映り、アンティシペーション、イースタンエクスプレスの順と評価しました。
ゲートが開くとヘレンハッピースターが予想通りハナを主張、後続を1馬身半ほど離して軽快に逃げているかに見えましたが、4ハロン通過が51秒ちょうど、6ハロン1分14秒70超スロー(香港の計時は日本と異なって2ハロンづつ。正確な1000m通過は不明ながら1分02秒後半から03秒程度と推定)。これに続いたのがアンティシペーションともう一頭のヘレン、スーパースター。大本命のデザインはフレームヒーローとシークレットを直前において、いつもの通り再後方からの競馬。ブレージングは自在の脚質らしく先行集団と後方の真ん中で抜け出すタイミングを窺う体勢。
先頭から12馬身程度の不動の隊列に動きが出たのは3コーナー過ぎ。流石の超スローペースに堪りかね、デザイン鞍上のK.ティータンが手綱をしごいて香港独特の2列縦隊の外からまくり気味に位置をあげていくと、ペースも上がり始めます。デザインは4コーナーでは大外。10馬身以上の差を4馬身程度まで詰め、ここから本番、香港カップへ王道を駆け抜けようと追い込みを図りますが、鞍上の叱咤には応えられず大外をもがき続けます。そのデザインを外に見て、残り300m馬場の中央から1頭だけ違った足で伸びてきたのがシークレットでした。残り200で逃げ込みを狙ったヘレンハッピースターとこれに並びかけたブレージングをたちまち交わすと出走馬中最速の上りで1馬身半の着差をつけてゴールイン。本番へ香港代表の地位を手にしました。
シークレットに続いたのがやはり後方から直線、デザインの内1頭を衝いた単勝80倍の8番人気、フレームヒーローがこちらも超大金星2着、モレイラを迎えたミリタリーが勝馬の外から伸びて古豪健在を印象付けました。1番人気のデザインは3コーナ残り200まで。そこからは歩くように殿負け、期待に全く応えることはできませんでした。レース後、ティータン騎手を直撃したところ、「出来は悪くなかったが、今日はペースが遅すぎた」と敗戦の弁を語りました。香港カップではモレイラ騎手に乗り替わる予定です。
往年の香港馬王を破って香港カップに名乗りを上げたシークレットウエポンは英国産の6歳セン馬。2013年、イギリスでデビューし2戦1勝の後、香港では14年4月にデビュー。これまで19戦6勝3着4回、ジョッキークラブ・カップの勝利が14年2月、センテナリー・ヴァーズ(G3・シャティン・芝1800m)以来2つ目の重賞制覇となりました。センテナリー・ヴァーズの後は重賞戦線を歩み、モーリスが圧勝したチャンピオンズマイルでは流石に家賃が高くブービー負けを喫しましたが、昨季末にはG3で連続2着と着実に自力強化。シーズンオフの間にパワーアップして、今季はセレブレーション・カップ(G3・10/1・シャティン・芝1400m)8着で始動した後、適距離に戻ったササ・レディーズパース(G3・11/6・シャティン芝1800m)では4着と着順ばかりか着差もしっかり詰めては上昇、大金星をあげました。
この日はデザインの前でレースを進め、3コーナー過ぎでデザインが仕掛けるのを横目に見ても最内で微動だにせず、4コーナー通過時は最後方。直線馬場中央から残り200で突き抜けました。1馬身半の着差は立派というほかなく、中国語馬名の「天才」が本領発揮したといってもいいでしょう。ただ、超スローペースの中、直線勝負にかけてシークレットを香港の総大将に出世させたローウィラー騎手はトライアルの後のハッピーバレー開催で進路妨害から8日間の騎乗処分を受け、本番では乗り替わりになりますが、未だに鞍上未定。トライアル勝ちはローウィラー騎手の大胆な好騎乗によるところが大きいだけに乗り替わりでだれになるのか、この点に注目する必要があります。
2着のフレーム、ミリタリーも超スローの中、後方からの入線。こうした中でデザインが殿負けを喫したのは単にペースだけに敗因を求めることは難しく、親しい地元記者からは「年齢的な衰えが否定できない。本番まで3週間でどこまで立て直してこられるのか。また、本番ではモレイラに手変わりするので、それがどう効果をもたらすか。この2点に注目したいが、自分としては悲観的だ」との声が聞かれました。
次回は香港マイルのトライアル、ジョッキークラブ・マイルを振り返ります。
※次回のコラムは11月28日(月)公開予定になります。
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■甘粕代三(あまかす・だいぞう)プロフィール
1960年、東京生まれ。高校時代から競馬にのめりこむ。
早稲田大学第一文学部卒。在学中に中国政府官費留学生。
卒業後、東京新聞記者、テレビ朝日記者、同ディレクター、
同台北開設支局長などを務める。中国留学中に香港競馬を初観戦、
94年ミッドナイトベットの香港カップ制覇に立ち会ったことから
香港の競馬にものめりこみ、2010年、売文業に転じた後は軸足を
日本から香港に。香港の競馬新聞『新報馬簿』『新報馬経』に執筆、
テレビの競馬番組にも出演。現在、新報馬業(『新報馬簿』『新報馬経』)
駐日代表、北京市馬術運動協会高級顧問を務める。 |
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2016年11月19日(土) 15:00
甘粕代三
【香港国際競走】Road to HKIR③~さあ、HKIRへ地元勢が鎬(しのぎ)!トライアル3レースを斬る!ステップレース紹介(2)
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香港競馬最大のイベント、香港国際競走(HKIR=Hong Kong International Races)に向けたトライアル3レースがいよいよ明日20日に迫りました。史上最高の質と量になるであろう日本勢を迎え撃つ地元、香港勢の大勢が決する必見の3レースです。レース映像は若干の時差がありますが、香港ジョッキークラブのホームページで見られますので、日本の皆さんも是非ご覧になってください。
トライアル3レースは第6レースの中長距離のジョッキークラブ・カップ(馬會盃。G2、沙田芝2000m。日本時間16時30分発走)を皮切りに第7レース、ジョッキークラブ・マイル(馬會一哩錦標。G2、沙田芝1600m。同17時05分)、第8レース、ジョッキークラブ・スプリント(馬會短途錦標。G2、沙田芝1200m。同17時40分)の順に行われます。12月10日もほぼ同じ時間帯に発走しますので、日本のファンの皆さんにとっても投票のトライアルには絶好のチャンスでしょう。本番当日の投票行動(選挙みたいですね、笑)を念頭に置いて日本国内のレースとともに楽しんで頂ければ、と思います。それではトライアル3レースを発走時間の順に展望しましょう。
【ジョッキークラブ・カップ】
出馬表を一瞥すれば寂しい思いに襲われます。というのは、昨季、香港ダービーを勝ち、その勢いを駆って春最大のレース、クイーンエリザベス2世カップ(英語略称:QE2、中国語略称:英女王盃)で日本代表のラブリーデイ(朗日清天)、ヌーヴォレコルト(新紀録)、サトノクラウン(里見皇冠)をまとめて負かした昨季の香港馬王(年度代表馬のことです)、ワーサー(日本国当地では「ワーザー」とも表記されているようですが、当地ではこちらの発音が主流。中国語馬名:名月千里)の名前を見ることができないないからです。泥田のような不良馬場だった英女王盃を良馬場並みの2分01秒3で駆け抜けた次走、長距離王決定戦のチャンピオンズ&チャーターカップ(G1、沙田芝2400m)で3着と敗れた後、激走の疲れからでしょうか、脚部不安に見舞われ、ここトライアルどころか本番も間に合わない状態です。ワーサーが無事であれば、今年の香港カップは世界の名手、秋の天皇賞に続いてR.ムーアを鞍上に迎えた昨年の“日本馬王”モーリス(滿樂時)との対決に世界中が沸いたはずですが、モーリスも香港カップがラストラン。夢に終わってしまいました。
さて、ワーサーを欠いた香港中長距離陣営を率いるのはもう一頭の香港馬王、デザインズオブローム(英文表記から言えばデザインズオブローマなのでしょうが、ロームで既に定着してしまったので、仕方なくロームを使うことにします。中国語馬名:威爾頓)です。2013/14季の香港クラシック三冠で第一レグの香港クラシック・マイル(香港經典一哩)こそ、のちに世界最高のレーティングを得たマイル王、あのエイブルフレンド(步步友)に名を成さしめ2着と敗れたものの、1800mと距離が伸びた香港クラシック・カップ(香港經典盃)、香港ダービー(香港打吡)ではきっちりとエイブルフレンドに借りを返して、そのシーズンの香港馬王に輝きました。その後も不動の中長距離王として香港に君臨しましたが、前々季3月のドバイ遠征から歯車が狂い始め、帰港後の英女王盃では4着。立て直したはずの昨季も7戦1勝、G1一つの平凡な成績にとどまりました。
ワーサーの台頭もあって、6歳となったデザインは完全な脇役となってしまいましたが、今季の復帰戦に距離不適のマイル、シャティン・トロフィー(沙田錦標)を選ぶと昨季のクラシック2冠馬、サンジュエリー(首飾太陽)、安田記念に挑戦したコンテントメント(詠彩繽紛)らマイラー陣を一蹴して古豪復活の狼煙を上げました。香港では長期休養明けに敢えて本来の距離適性よりも短いレースを使って、馬を覚醒させる戦術がしばしば使われます。本来の距離に戻ったここは6歳馬とはいえ不動の中心に推したいと思います。4歳クラシック三冠の後に挑戦した英女王盃で、その年のジャパンカップをぶっこ抜いたエピファネイア(神威啓力)を寄せ付けず、福永祐一騎手をして「あの馬はモノが違う」と言わしめた力の7割が戻っていれば、ここでは負けようがないとみます。
スペースの制限もあるので、この後は詳説を割愛しますが、デザインと同じく長距離の古豪で今季、同じローテーションでここに臨むG1馬、ブレージングスピード(将男)が対抗。以下は新興勢力のシークレットウエポン(天才)は今季2戦で着差、着順とも順調に上げてきており、ここでではブレージングとの逆転も。同様にアンティピテーション(期惑)は中国語馬名が語っているように期待の惑星。格上挑戦ではありますが、前走のササ・レディーズパースで一番人気に押され、3着を確保したイースタンエキスプレス(東方快車)の順に評価したいと思います。もう1頭、注意が必要なのは雷神とも異名をとる香港一、世界一のジョッキー、あのJ.モレイラ(莫雷拉)騎乗のミリタリーアタック(軍事出撃)。ミリタリーは今季初出走ですが、モレイラへの乗り替わりは何とも不気味、彼の腕をもってすれば3、4着に滑り込んでもおかしくありません。
【ジョッキークラブ・マイル】
香港から世界のマイル王へと大出世を遂げたエイブルフレンドの名前がありません。というのも、ジョッキークラブ・カップで説明したように、香港の調教師は長期休養明けに距離適性よりも短いレースに敢えてぶつけ、馬を覚醒させる戦術をとることがよくあり、明日はジョッキークラブ・スプリントに回ったからです。昨季の復帰戦も1200mにぶつけて見事に勝っています。そのエイブルフレンドはスプリントで詳述することにして、ジョッキークラブ・マイルです。
エイブルフレンドが抜けたマイル戦線、混沌とした群雄割拠の戦国時代が続いています。並みいる群雄の中から一昨季、エイブルフレンドに食い下がって2着を3度続け、昨季のこのレースを勝ったビューティーフレーム(美麗大師)を軸馬に指名します。もちろん、デザインのような1着固定までの力の差はありませんので、あくまで軸馬です。昨季のこのレースを勝った後は、ちぐはぐなレースを続け、前走まで勝ち星をあげることはできませんでしたが、ここを目標に今季は2戦叩いて復帰戦のセレブレーション・カップでは1+1/4の2着、前走のシャティン・トロフィーではあのデザインに半馬身と着差を詰めて虎視眈々をここを狙ってきました。
続いて、前走ササ・レディーズパースで2着のヘレンパラゴン(喜蓮奨星)、今季休み明けでG3を勝ち、前走もG2で2着と急上昇中のジョイフルトリニティ(壮思飛)と香港で千勝爺と異名をとるトップ・トレーナー、J.ムーア厩舎の二騎。前季のクラシック三冠の2冠馬で休み明けを一回叩いたサンジュエリーとビューティーフレームと同厩、同馬主のビューティーオンリーまで。ことしの安田記念に挑戦したコンテントメントは復調途上、G1馬、ジャイアントトレジャーはあくまで本番狙いとここでは軽視することにします。
【ジョッキークラブ・スプリント】
さて、最も頭の痛いエイブルフレンドの取捨です。無敵を誇った世界のマイル王、エイブルも去年6月のロイヤルアスコット挑戦から歯車が狂いはじめ、昨季は使い始めのプレミア・ボウル(G2、沙田芝1200m)こそ鬼足の追い込みで勝ったものの、主戦場のマイルに転じてからは本来の姿を取り戻すことなく2戦続けて3着。あのモーリスとの一騎打ちとなったチャンピオンズマイルではジャイアントレジャーにも先着を許す体たらくでした。その後、脚部に故障を発生。一時は引退説もささやかれましたが、放牧先がない香港からオーストラリアまで輸送されて長期休養に入りました。この一戦は昨季の復帰戦とはまったく事情が異なります。熱心に調整が続けられていますが、11月11日のバリアートライアル(地方の能力検定のようなゲートを使った実践型調教。HKJCのホームページで映像を見ることもできます)では、やはり往年の迫力を感じることはできませんでした。ここでは相手までの評価とします。
一方、世界最高のレベルと層の厚さを誇る香港スプリント陣営は日本でもおなじみの古豪が順調な調整を見せています。昨年の高松宮記念を勝ったエアロヴェロシティ(友瑩格)です。既に8歳となりましたが、香港馬はセン馬がほとんどで、去勢された馬は競走寿命が長くなるので、8歳といっても日本の8歳と同じものと考えてはなりません。高松宮記念連覇を目指して来日しながら、レース直前に疝痛を発症し帰港。その後も惨敗と昨季はたった3戦1勝と不本意なシーズンでしたが、5か月ぶりの前走は1+1/4差の3着と着実な復調ぶり。11月8日のバリアトライアルでは1着と上昇ぶりを見せています。逃げ馬が絶好の1枠を引き当て、ここは昨季の不遇を拭きとばして本番に復活の狼煙をあげる大一番と見ました。オーナーのダニエル楊毅氏とは昵懇の仲ではありますが、それを割り引いても堂々の本命に自信をもってお薦めできます。
これに続くのは新興勢力の筆頭、ラッキーバブル(幸運如意)。香港競馬界一の人格者としてい慕われる呂健威調教師に重賞勝ちをもたらし、春のスプリント王決定戦、チェアマンズ・スプリントではオーストラリアの怪物、シャタクア(尚多湖)に肉薄した2着の力は今季復帰戦のプレミア・ボウルでさらに磨きがかかりました。
この2頭を軸に香港スプリントの勝馬、ペニアフォビア(幸福指数)、ラッキーバブルに次ぐ新興勢力、アメージングキッド(華恩庭)しぶといドンダネル(誰可拼)までを相手に挙げます。
甘粕代三氏の予想はこちらからご覧いただけます。
※次回のコラムは11月24日(木)公開予定になります。
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■甘粕代三(あまかす・だいぞう)プロフィール
1960年、東京生まれ。高校時代から競馬にのめりこむ。
早稲田大学第一文学部卒。在学中に中国政府官費留学生。
卒業後、東京新聞記者、テレビ朝日記者、同ディレクター、
同台北開設支局長などを務める。中国留学中に香港競馬を初観戦、
94年ミッドナイトベットの香港カップ制覇に立ち会ったことから
香港の競馬にものめりこみ、2010年、売文業に転じた後は軸足を
日本から香港に。香港の競馬新聞『新報馬簿』『新報馬経』に執筆、
テレビの競馬番組にも出演。現在、新報馬業(『新報馬簿』『新報馬経』)
駐日代表、北京市馬術運動協会高級顧問を務める。 |
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