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GIメモリアル ~マイルチャンピオンシップ 2010年への序章~

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GIメモリアル ~マイルチャンピオンシップ 2010年への序章~ | コラム | ウマニティ

GⅠメモリアル ~1991年 マイルチャンピオンシップ

 東京都八王子市内の公立高校に通っていた。
 修学旅行の行き先は京都だった。
 行程は土日を挟んでの3泊4日。日曜日はマイルチャンピオンシップの施行日だった。
“重なる”事実を知った瞬間、完全犯罪の計画準備に着手した。
 旅行の主たる目的は寺社仏閣巡りではなく、GⅠレースの生観戦へと早変わりした。

 宿泊先は京都市内にある旅館で、そこを拠点に原則班行動。ひとクラスを6つ程度の班に分け、朝食後から夕食の始まる時間まで、班ごとに自分たちで決めたルートに沿って行動する。高校生ともなればそれなりの自由を与えられていたので、帰りの門限さえ守れば、近隣府県である滋賀、三重、奈良、大阪、兵庫にも足を伸ばしていいことになっていた。京都や奈良でお寺や神社に行かずとも、その気になれば、琵琶湖でも鈴鹿サーキットでも大阪城でも異人館でも、ルートに加えることはできたのである。

 が、そんなことはどうでもよかった。目的はただひとつ。日曜日の15時台に京都競馬場にいられるかどうか。それさえ達成できれば、残りはすべてオマケのようなものだ。どんなところに連れて行かれようと、そこでなにをしようと構わない。
 しかし、“生マイルCS”実現の前にクリアしなければならない問題は山ほどあった。いかにルートを自由に決められるとはいえ、事前に担任に報告する必要がある。班としての行き先のひとつに「京都競馬場」を加えるのは常識的に難しい。決行するのならば、単独行動にでるしかなかった。

 最初の課題は班のメンバーの説得工作である。単独行動がバレたら、当人が処分されるだけでなく、班としても連帯責任を問われることになる。真面目な子が比較的多く集まる学校だったこともあり、「いいよ、行ってきなよ」なんて、全員がいい顔をして送り出してくれるわけがなかった。
 理解のある野郎連中はある程度すんなり説得することができた。しかし、そこは共学校のさだめ。班は男女混成で組まれることになっており、なかには融通の利かない堅物女子が必ず1人か2人含まれる。彼女たちの首を縦に振らせないことには、計画の成功はありえなかった。
「そこだけ目をつぶってくれれば、あとはすべてみんなの決めたことに従う。もしものときは、全部俺が責任をかぶる。だから頼む!」
 土下座とまではいかなかったが、それに近いくらいのお願い攻勢で、なんとか全員の承諾をゲット。こうして、最初の課題にして最大の壁を乗り越えたのである。

 次なるステップは、具体的なルートと行動パターンを煮詰めていく作業である。単独行動にでるとはいっても、朝から夕方まではぐれっぱなしでは発覚する可能性が高まるし、いくらなんでもそこまでは班のメンバーも許してはくれない。現実問題として、メインのマイルチャンピオンシップ発走時刻を目がけて、ピンポイントで京都競馬場を攻める作戦しかなかった。
 すべてはこのワガママな競馬バカのため、我が班は日曜日は遠出を控え、オーソドックスに京都の寺社を回るルートを選択。しかも、自分が競馬観戦をする際に、離脱→再合流をしやすくするために、ほかのメンバーはその時間帯に石清水八幡宮に行くことにしてくれたのである。
 京都競馬場の最寄りは京阪の淀駅。そして、石清水八幡宮はその隣の八幡市駅(+ケーブルカー)にある。これならば、“空白の時間”に引率の教師や旅行に同行している写真屋のオヤジ、さらに別の班やほかのクラスの連中と遭遇する危険を極力回避することができる。

 携帯電話はおろか、ポケベルさえもまだ一般的に普及していなかった時代。最も重要なのは、いったん離れたあとの再合流のタイミング、つまりは待ち合わせの場所と時間だった。
 インターネットという言葉が広まるのは遠い先の話なので、書物を通してひたすら調べるしかなかった。時刻表にガイドブック。ここからここまでは徒歩○分。△△駅から□□駅までの所要時間は○分。もしも1本乗り過ごしたら、なんてもことも考えて、ここしかないというランデブーポイントを導き出した。
 近鉄丹波橋駅の改札に16時45分。
 ハッキリとは覚えていないが、確かそんな設定にしたように記憶している。約2時間後の再合流までの段取りを確認し、班の行き先よりもひと駅手前の淀駅に、競馬に狂ったひとりのダメ高校生は降り立った。

 そのときの身なりは制服。ただ、我が校は学ランではなく、茶色のブレザーという一風変わったスタイルだったので、ひと工夫すれば私服っぽく見せるのはそこそこ容易だった。上着を駅前のコインロッカーに突っ込み、カバンの中から取り出したグレーのセーターに首を通す。ズボンは冴えない茶色。ダサダサなのは百も承知のコーディネイトだったが、背に腹はかえられない。むしろ、地味すぎるがゆえに目立つことはないと前向きに考え、競馬新聞を抱えたオッサンたちの流れについていった。

 生まれて初めての“淀”はなにもかもが新鮮だった。すり鉢状の円形パドック、馬場内の池、3コーナーのゆるやかな起伏、絶妙な傾斜というか段差で造られた、府中とは比べものにならないほどに見やすいスタンドの一般席。本物だ! 京都競馬場だ! もう、全部に感動した。
 迎えたメインレースで、希代のクセ馬ダイタクヘリオスが、お得意の“4角瞬間移動”を繰り出し、GⅠ初制覇を達成。その姿を見届けて、すぐに競馬場をあとにした。十二分に満喫した。余韻に浸っているヒマはない。いち早く丹波橋を目指し、無事にメンバーと再合流しなくては……。
 京阪の丹波橋駅の改札を出る。近鉄の丹波橋駅の改札に向かう。すると、すでに班のみんなが待っていた。道中で学校関係者に遭遇していないことと、証拠物件になりかねない集合写真を撮っていないことを確認。ここに、“完全犯罪”が成立したのである。

 それから数年後、同級生の結婚式の二次会で、最も説得に難航したIさんに久しぶりに会った。現在、競馬に関係する仕事をしていると伝える。
「アハハ、やっぱり! さすが岡田くん」
 この「さすが」には「バカ」という意味合いも含まれる。でも、ひとつの道にハマッてしまった者にとって、バカはある種の褒め言葉である。このIさんのひと言が、どれだけうれしかったことか。
 いま振り返ってみても、当時の班のメンバーに対しては「感謝」の言葉しかない。彼ら彼女らのおかげで、素晴らしいひと時を過ごせたのと同時に、競馬バカとしてかけがえのない経験を積むことができたのだから……。

※写真は当時購入した「入場用」と「保存用」の入場券2枚。

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